【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
3話 喧嘩の後はギャルが懐く、あとウザくなる。
3話 喧嘩の後はギャルが懐く、あとウザくなる。
二ヶ月、という期間はほたるにとってもそこまで問題なかったらしい。
と言うのも、元々ほたるがVTuberとして活動を開始するためにはアバター以外にもまだ足りてないものが多い。機材も揃えたことには揃えたが操作の慣れも必要だし、できればそれに関する技術的なアドバイスをしてくれる人も欲しい。
加えて彼女は先日見せてくれたように『歌』を活動の軸の一つにするつもりらしく、それに関連する人材も探したいとのこと。それら諸々含めて、彼女が本格的に活動を始めるには、まだ準備期間が要るのである。
だから、燎もその準備期間を使ってとにかく絵の実力を上げる。その辺りを帰り際に話し合って別れ、いよいよ燎の挑戦が始まった。
そしてその翌日朝、教室にて。
「はろー、燎」
教室の隅に居る自分に。
クラスの中心人物天瀬ほたるが、可憐な顔に大変気さくな笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「あれ、聞こえてない? 今だけ突発性難聴とか発症した? はろーはろー!」
「……んな都合の良い発症に心当たりはないし聞こえてるよ」
燎が反応できなかった理由は、まぁ概ね予想はつくと思うが。
「普通に話しかけてくるんだってところと、あとなんの前触れも許可もなくファーストネーム呼び捨てにしてきたところに固まったんだよ固まるだろ普通」
「いやーだってさ、呼んでみたかったんだよねー『燎』って。君名前は格好良いんだからさ名前は」
「『は』って言ったかお前今おいしかも繰り返したな? 名前以外は格好良くないと?」
「あっはっはー。今更何言ってんの、だって──」
言い合いののち、ほたるは可愛らしい笑顔に心からの親しみと……後は言うなればまぁまぁウザめなからかいの色を込めて。
「──昨日あんだけなっさけないとこ見せてまだ自分が格好良いって言えるのー?」
「ぅぐっ! お前それは反則でしょうが! それ言うならそっちだって昨日は!」
「わたしは君ほど格好悪いことは言ってないもーん」
「それは──そうだね!!」
昨日の流れを思い返してみると確かにその通りなのでぐうの音も出ない。
……というか。ほたるの態度が明らかに昨日までとは……もっと言うなら、今まで彼女が他者にしていたどんな態度とも違うのだが。
「……何? そっちが本性?」
「んー何がー? わたしはいつだって天瀬ほたるさんですとも、誰に対しても今自分がそうしたいと思った態度で接しているよ!」
どや顔で胸を張ってそう告げるほたる。……つまり燎は舐められているということだろうか。
若干釈然としない思いを抱えていると、別方向からほたるに話しかける声が。
「ほたる、いつの間に夏代くんと仲良くなったの?」
先日も話していたほたるの友人たちだ。
彼女たちは驚きと好奇の雰囲気を出しつつほたるにそう問いかける。
「んー? 仲良く──はこれからなるところかな。ただ遠慮はなくなったかも」
「何それ……? ちょっと見たことないほたるでびっくりしたんだけど一体何が?」
「んっとね、昨日の放課後……なんやかんやでちょっと大喧嘩して」
「なんやかんやの間に何が!?」「世界一気になるなんやかんやなんだけど」
喧嘩、という穏やかではないワードを聞いてほたるの友人たちが疑念と、後は若干の厳しさも含んだ目でこちらを見てくる。
高一男子に集団女子の圧はまぁまぁ怖い。思わず両手を上げる燎に、安心させるようにほたるが口を開いて。
「あはは、もちろんすぐに仲直りはしてるよ! それで……わたしに用事があるっぽい雰囲気だったけどどうしたの?」
場を収めると同時に、持ち前の観察力でそう問いかける。
予想通り用事はあった様子で、声をかけられたほたるの友人は少しだけ言い淀んだのち。
「えっと、そうそう。あの……昨日ほたるが話してた、中間に向けての勉強会についてなんだけど」
「……頑張ってみても良いかなーって、思い直して」
「へ?」
ほたるが目を見開いた。
「いやーだってさ、ほたるみたいな色々できて気遣いもできる子にあれだけ言われちゃったらね? 昨日の朝もそうだし……夜メッセージでも誘ってくれて」
「それに、改めて考えたら最初っから『ほたるみたいにはなれないからー』なんて諦めるのはダサいなって思っちゃったからさ」
「元々成績は伸ばさないとって思ってたし、だからほたるが良ければ──わ」
少しの照れを含みつつも、決意を宿した声色で続けた女子生徒が驚きの声を上げる。
何故なら、唐突にほたるが抱きついてきて。
「好き。愛してる。結婚しよう」
「いきなりどうした!?」
あまりに突然のラブコールに困惑する彼女たちだったが──見ていた燎には、ほたるの心境がある程度推測できた。
『わたしは──わたしが本当に心からできると思った人にしか『できる』って言ってない!!』
『──わたしより先に諦めないでよッ!!』
多分、彼女はそういう人なのだろう。
誰かのことがよく見えて、誰かに期待し、そして自分も頑張る人だからこそ。
その期待に応えて誰かが一緒に頑張ってくれるのが、何よりも嬉しいのだ。
「……はは」
良かったじゃん、と柄にもない感想を抱きつつ。燎もいつも通り騒ぎ出す彼女たちを尻目に授業の準備を始めるのだった。
◆
そんな一幕がありつつ、昼。
「それで、燎はこれからどうするの?」
昼食を終えたのち、「Vの件で話そ!」とほたるに誘われた燎が共に校舎の一角に移動し、そこでほたるがこう切り出した。
これからどうする──とは言うまでもなく、燎の絵の特訓についてだろう。二ヶ月間本気でやると決めたは良いが、具体的にどう自分の実力を伸ばすつもりなのか聞いているのだ。
そして当然、昨日の一晩でそこについても考え抜いてある。詰まることなく、燎はこう答えた。
「まず、絵を教えてくれる人を探すつもり」
「ほう!」
「当たり前だけど、超短期間で上手くならないといけない以上独学ではやっぱ限界がある。幸い旭羽は校風もあって絵上手い人がたくさんいるから、まずはその中で俺の描きたい方向性に合って教えてくれそうな人を探すのが第一歩だ」
「心当たりはあるの?」
「ある」
続く当然の疑問にも、即答する。
……と言うよりは、元々考えてはいたのだ。ただ──『その人』にまつわる噂や、今の自分なんかでは分不相応なんじゃないかという思いや……単純にそこまで教わる覚悟が今まではできていなかっただけで。
(……ほんと)
今までの自分に呆れ返る。
やれることを全部やる。そんな大前提すらやらずに、何が『本気』だ。
けれど、もうそこは迷わない。とにかくがむしゃらでも何でもやってみると決めたのだ。
そんな覚悟を再確認しつつ、今度は燎が問いかける。
「天瀬は?」
「わたしは今日はパソコン部の方に行ってみようかなって思ってる。機材や配信ソフトとか含めてアドバイザーが欲しいから、そこから探してみるつもり」
なるほど、配信に必須な技術面から固めるつもりか。当然だがほたるも、一日も休まず自分のやりたいことのために今日も突っ走るつもりなのだ。
「それじゃあ、今日の放課後は別行動だね。──燎」
「ん?」
それを確認したのち、ほたるが燎を真正面から見据えて。
「──頑張って。すっっっごい、期待しちゃうからね?」
弾けるような笑顔で。
眩しいくらいに衒いのないエールを、告げてきた。
「……ああ」
燎も、確かな熱量とともに頷いて──
「ほんとに頑張りなよー? 昨日の件もあるからわたしから君への好感度今けっこー控えめだよー? 取り戻したかったら必死にわたしのために頑張らないとねぇー?」
「もっかい喧嘩すっかおいこら?」
◆
そうして放課後。
ほたると別行動をする燎が現在立っているのは、文化部棟の一室の前。
──漫画研究会、と書かれたその扉の前で、燎は一つ深呼吸をする。
「……」
流石に、緊張はする。
ここから何が起こるかは分からない。ひょっとするとしんどい目や苦しい目に遭ってしまう可能性だって十分ある。
でも──それに怯えないこと。きっとそれが本当の第一歩だ。
そう思い、燎は扉をノックする。
「はい」
鈴を鳴らすような声が扉の向こうから聞こえて、燎は扉を開く。
「……新入生? 部活見学にしては少し遅いけれど」
出迎えたのは、一人の女子生徒。
長く静かな色合いの髪に、特徴的な深い青の瞳。全体的に暗い印象を与えるように思われがちだが、髪にアクセントとして軽い明色を差している様子や──何より本人の持つ圧倒的な華によって沈んだ雰囲気は微塵も感じさせない。
それらが合わさって、華やかでありながら確かな威圧感も覚えるような。そんな美麗な少女が部屋の奥で一人、燎を出迎えていた。
遠目で見たことはあった。
けれど改めて間近で対面して──けれどそれに気圧されることなく。
「初めまして。一年の夏代燎と言います。
お願いがあってきました、
燎は、眼前の少女。旭羽高校二年、特別入試による特待生。
一年の時から既に商業連載を勝ち取っている紛れもないプロフェッショナル。
──現役高校生にしてプロ漫画家、
「俺に、絵を教えてください」
そう告げ、深く頭を下げた。
「なるほど」
そこから、意外にも話は聞いてくれた蒼に軽い事情を説明。
「友達がVTuber活動を始めようとしてて、そのアバター制作をしたい。だから二ヶ月でほぼ素人の状態から本格的なキャラデザインができるようになりたい、ね」
それをしっかりと要約した上で、蒼は。
にっこりと、大変美麗かつ完璧な笑顔を浮かべた上で。
「──イラスト舐めてんのか新入生?」
「まぁそういう反応になりますよね!」
さぁ、ここからが、燎の挑戦だ。
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