【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
1話 クラスの隅で絵を描いて、ギャルに声をかけられた。
1章 Alter'd結成編
1話 クラスの隅で絵を描いて、ギャルに声をかけられた。
私立、
都心から程よく離れた場所にあるその高校には、とある一つの特徴があった。
それは──『一芸を積極的に応援する』という点である。
『一芸』とは文字通りの一つに特化した芸、所謂『普通に学校で学ぶ勉強以外』の何かしらの分野である。
昨今の日本には、そういった普通に学校に通っているだけでは学べないことを主流とする職業が増加傾向にある。数十年前までは存在していなかったプロゲーマー、大手配信サイトを活動拠点とするストリーマー等が好例だろう。
旭羽高校は勉強にもある程度しっかり力を入れつつ、同時にそのような職業を夢見る人たちを応援することも目的の一つとして誕生した。
故に、旭羽高校は進学校でありながらもそれ以外の生徒の『やりたいこと』を応援する風潮が強い。そんな校風に惹かれ、様々な分野で秀でた生徒も積極的に入学し、個性豊かな生徒が多く在籍することでも有名である。
「…………」
そして、
そんな校風に憧れて入学した生徒の一人だ。高校受験を意識し始めた頃、多くのパンフレットに混じってこの学校のことが目に飛び込んできて──ここでなら、素敵な高校生活を送れるんじゃないか、自分を変えるような何かが見つけられるんじゃないかと思って。
それから必死に受験勉強をして、遠方の高校だったため親にもなんとか一人暮らしを認めてもらい、それ以外にも様々な苦難を乗り越えようやくこの高校に入学できて──
──すぐに、絶望した。
目の当たりにしてしまったからだ。旭羽高校が掲げる『一芸』。それに特化した人間の、凄まじさを。
高校でバンドを組んであっという間にスターダムにのしあがった三年生の先輩がいた。一年の時からプロ漫画家として活躍している二年生の先輩がいた。
先輩だけでない、同学年にも。既に自分自身で作曲まで手がけ動画サイトで活躍するシンガーソングライター、企業と契約しているプロゲーマー。
そういう人たちを、実際に見て。
自分と同い年、違っても一つか二つなのに、あんな人たちがいる。
しかも一人だけじゃない、この学校では当たり前のようにそういう化け物が複数いて。
──なんだそれ、と。
理解させられてしまったのだ。……ああは、なれない。あんな才能に溢れている人たちと同じには、到底なれない。
知らずにいられたなら、まだ『ひょっとしたら自分も』なんて淡い希望を持てた。
知ってしまったが故に、差を目の当たりにしてしまったが故に。彼我の距離を突きつけられ、違いを理解させられ、絶望を、叩きつけるようにその身に刻まれた。
──自分が、凡人だと。空っぽだと。どうしようもなく、分からされてしまった。
(……分かってたさ)
そうして燎は、入学してから二週間近く経った今日。
本当は薄々気づいていた、けれど目を背けていた真理を心中で告げる。
(……すごい学校に入ったからって、自分がすごい奴になれるわけじゃない。
──
当然、現実は残酷で。そんなわけもなく、むしろより差を知らしめられただけ。
全く惨めで、情けなくて、どうしようもない。
そんな今の自分を改めて認識すると同時に、教室の扉が開く音がして。
「あ、ほたる! おはよー!」
一人の女子生徒が入ってきて──その瞬間、教室が更に一段と華やいだ。
輝くような長髪に、太陽を閉じ込めような明色の瞳。人気の高い旭羽の女子制服を完璧に着こなし、見るからにおしゃれにも気を遣っていると分かる容姿。
けれど所謂『取っ付き辛い』系統の雰囲気は微塵もなく、愛らしさと美しさを併せ持った美貌に浮かぶのは愛嬌に満ちた笑顔。それを惜しげもなく天真爛漫に振り撒きつつ、挨拶をした女子生徒たちの元に向かっていく。
「やーみんな、おはよーおはよーはろーはろー!」
「相変わらず挨拶が特徴的すぎて笑うんだけど」
「なんで!? 『はろー』っての好きなんだよわたし、響きが可愛いじゃん!」
「それは分かるけど! 躊躇なく使い倒すあたりが最高にほたるって感じ」
「ゴーイングマイウェイの権化」「協調性以外は完璧な女」
「あれぇ、今日ひょっとしてわたしディスられる日?」
字面だけ見ると酷いことを言われているようだが、言う方にも受ける方にも暗い雰囲気は全くない。まさしくじゃれあいのようにポンポンと話を進めていく、大変仲の良い女子生徒たちの会話だ。
そんな生徒たちの真ん中であっという間に馴染んだ一際明るい少女が、
……俗に言う、『クラスの中心的女子』というやつだ。
「そう言えばほたる、昨日は数学教えてくれてありがと! おかげで授業大丈夫そう!」
「お、なら良かった! この時期から授業躓くとしんどいからねー。でもすっごい頑張ってたからすぐ理解できてたし、わたしも復習になったのでこっちこそありがとーです!」
「……そういうとこだぞほたる」「天然たらし女」
「?」
「でも、実際すごいよねほたる。すっごい可愛いしスタイル良いし、運動もできるし雰囲気アホっぽいのに勉強だってトップクラスだし」
「お、褒めるフェイズかな? なんか若干挟まった気がするけど良いよ!」
「明るいし面白いし、マイペースっぽいけどちゃんと気遣うとこは遣ってくれるし」
「いいよもっと! わたしそういうこと言われると言われただけどんどん気持ちよくなっちゃうから! もっと調子に乗らせて!」
「それを言っちゃうとこ以外はほんと完璧なんだよね!」
そこでほたるが大げさに驚き、自然と周囲から笑い声が上がる。
……実際、天瀬ほたるはとんでもない少女だと思う。
見目の美しさもさることながらスペック的にも文句なしの文武両道、今の会話からも分かる通りユーモアも完備しているという隙のなさ。
事実、彼女らの会話を聞く周囲の男子生徒の中でも、明確にほたるを憧れの目で見ている人間が何人かいる。
明るく可愛く面白く、注目と羨望を一身に集めるクラスの中心女子。
……クラスの隅っこで自分のどうしようもなさに苛まれる燎とは、大違いだ。
「それにしても、来月には中間かー。しんどいね」
「ね。ほたるみたいなハイスペ美少女じゃないうちらには憂鬱イベントですよ」
「あ、それじゃあさ!」
そのまま会話が続き、来たる学生の必須イベントにため息をついていた友人たちの前で、ほたるが何かを思いついた様子で声を上げた。
「中間前にさ、みんなで一斉に勉強会やらない?」
「へ?」
「放課後どこかで──いやもういっそ合宿とかにしても良いかも!? そんでさ色々教え合って、わたしたちで学年上位を独占しちゃおうよ! お泊まりイベントとかすっごい青春っぽいし、わたしたちならできるって!」
本気での、心底から目を輝かせての提案。
それを受けた、ほたるの友人の生徒たちは──
「……い、いやーごめん、流石にそこまでは」
「そこまでガチで勉強するのはきついかも、ごめん!」
困ったような顔をしたのち、申し訳なさそうにそう告げた。
「あれ?」
「それにさ……えと、いくらなんでもほたるレベルはしんどいかなーと」
「うん、あんたほどできる気はあんまりしないというか……あ、その、勉強会自体は全然良いんだよ!? ただその、そこまでがっつりやるとなると、モチベの問題とかもあると言いますか、えっと」
しどろもどろになりつつそう告げる女子生徒たち。悪意は一切無いし、むしろ若干気まずくしてしまった空気を必死に直そうと言葉を選んでいる様子だった。
それを、ほたるも察したか。
「んー、ま、それもそっか!」
気を取り直した風に笑って、気にしていないと明るい声で続ける。
「やーごめんね無理言って! わたしちょっと諸事情で尋常ではなく青春イベントに憧れている節がありましてですね、ちょっと暴走しちゃったかもごめんね! 軽い勉強会とかでも良いならいつでもやろうよ!」
「うん、それなら全然! もー、どう角立てないか困ったよ」
「ほたるは全人類に気軽に『できる』って言っちゃうからねー。もちろん嬉しいんだけど、あんまり凡人を調子に乗せないでくださいよー」
そこからは変な雰囲気もなく、和気藹々と会話が続いていった。
「…………」
……今し方の会話に、多少の違和感は無いでもなかったが。
(……まぁ、俺には関係ないか)
すぐにそう思い直し、燎は飲み物を買いに教室を後にした。
そう、関係ないのだ。
クラスの中心人物で、きっとなんでもできるハイスペック美少女と。
何でもない空っぽだと入学早々理解させられた、教室の隅の日陰者である自分。
住む世界が違いすぎる、ただ同じ教室にいるだけの別次元の人間だ。
深く関わることも、一緒に何かをすることも、あり得るわけがないと──
「──え。夏代くん、イラスト描けるの!?」
その日の放課後。
『クラスの中心人物であるギャルに、教室の隅で絵を描いているところが見つかった』という、どこの使い古された物語の導入だと突っ込みたくなるようなシチュエーションに実際に燎が遭遇するまで。
そう、思っていたのである。
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