クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。

みわもひ

プロローグ 高校生VTuberユニット、『Alter'd』

「はろー! みんな、冒険してるー?」


 配信の始まりはいつも、とびきり元気な少女の口上から。


「冒険者育成高校一年、パーティー名はAlter’dアルタード! 春夏秋冬四六時中、いつでもどこでも空前絶後の大冒険!」


 そこで待機画面から切り替わり、配信画面に現れるのは四人の色鮮やかな少年少女。

 その中でも中央に立つ、輝くような髪の美少女が改めて息を吸い。


「というわけでこんばんは! Alter’dのリーダー、冒険家の夕凪ゆうなぎほたるです!

 冒険してる人もしてない人も、はろーはろー!」


『はろーはろー!』

『今日はフル口上なのね』『口上完全詠唱助かる』

『今日も冒険してなーい!』『引きこもってたー!』

『近所のコンビニまで大冒険の帰りです』『会社ダンジョンから帰還できてない』


「ありがとー! うんうん、今日も冒険してる人がちらほらいるねー」


 流れ始めるユーモア溢れるコメント欄に、少女──ほたるは嬉しそうに声を弾ませる。


「ちなみにわたしは最近ね、名前は伏せるけどとあるサッカー漫画を読んで……なんかすごい世界一のストライカーになりたくなって、『わたしはエゴイストだー!』って叫びながらサッカー部に突撃して紳士的にボコボコにされたよ。うん流石わたし、最高に冒険してるねっ!」


『草』『あまりにも草』

『×冒険 ○無謀』『これは無謀険家』『流石無謀険家』

『名前伏せてないも同然w』『むしろ紳士的に対応してくれたサッカー部に感謝しろ』


「サッカー部のみんなは本当にありがとうね! じゃあ次──先輩お願いします!」


 最近配信でつけられている謎のあだ名はスルーしつつ、次の少女に紹介を回す。

 紹介を受けて続けて口を開くのは、鮮やかな蒼の髪をした少女。


「ん、はろー。Alter’dの魔法使い兼漫画研究会、夜紡よつむぎあおいよ」


 涼やかな声で若干追加情報も含んだ自己紹介をしたその少女は、続けて今日の配信内容に触れる。


「みんなもサムネイルで見た通り、今日のクエストは何やら大乱闘系のゲームで対抗戦をするみたいね。私はほとんど触ったことないんだけど……」


 そこで言葉を区切ってから、彼女は揺るぎなく自信に満ちた声色で。


「──まぁ、私なら間違いなく楽勝でしょう」


『おいwww』『どの口が言ってんだよw』

『最弱候補が何かほざいております』『候補ですらなく純然たる最弱です』

『毎度のことながら何故こんな自信満々な声を出せるんだ……』


「勝負はやってみるまで分からないわよ?」

「さっすがあおいちゃん先輩、何とは言わないけど分かってるねー。次ゆっきー!」


 首を傾げて大真面目な声を崩さず言ってのけるあおいに愉快そうな声でそう告げつつ、ほたるが次の相手、白い髪をした中性的な少年に回す。


「はろー。Alter’dの戦士、昼神ひるがみユキヤです。よろしく」


 前二人と比べると端的な自己紹介。けれどそれと同時に──コメント欄が一気に加速した。


『うおおおおお』『かわいいいいいい』

『今日も声が可愛すぎる』『ユキヤくんかわいいねユキヤくん』

『こんな可愛い声の持ち主が男ってマ?』『逆にこんな可愛い声が女の子なわけない』

『これは確かめなければならない』『というわけでユキヤくんうちこない?』


「うん、今日も順調に気持ち悪いねぇ君たちねぇ!!」


 そしてそんなコメント欄に耐えきれず、ユキヤが当初の落ち着いた自己紹介を早くもかなぐり捨ててそう絶叫する。なお、その『気持ち悪い』発言を受け、コメント欄が『ありがとうございます!』で更に加速した。


「いやほんと毎度のことながらなんなのぉ……? インターネット怖いんだけどぉ……」

「おいこらユキヤ! わたしより可愛い声を出すな媚びやがって!」

「媚びてない! これが素なんだっての、そもそもこれで良いって言ったのはあんただろ! ああもう、話進まないからさっさと次に回して!」

「く、仕方ないこのへんにしておいてやろう! じゃあ最後ママよろしく!」


 そこからほたるが噛み付くいつもの流れを経て、最後に『ママ』と呼ばれた優しげな風貌の少年が自己紹介を回され、口を開く。


「はろー。Alter’dのヒーラー、暁原あきはらカガリです。……割と毎回思ってるし今回ここまでの流れで更に思ったんだけどさ」


 そのままカガリは、どこか遠さを感じさせる口調でこう告げた。


「……本当に俺がここに居て良いのか……?」


『草』『まぁ気持ちは分かるが居て良いぞ、むしろ居てくれ』

『この濃すぎる面子の手綱を握れるのは生みの親であるお前しかいない』

『クセが強い肉魚が入った鍋には白菜を多く入れるだろ? それと同じだよ』


「ありがとうね! でも正直手綱を握れているとは到底言い難いかな! それと白菜に喩えられた俺の極めて微妙な気持ちも汲んでくれると更に嬉しいかも!」


 コメント一つ一つに律儀に突っ込むカガリに、『そういうとこだぞお前が愛されてるのは』『ゆーてそもそもお前も大概だぞ?』『お前もはっちゃける時は凄まじくはっちゃけるしな』等のコメントが更に流れる。

 それらのやり取りののち、改めてほたるに話が戻されて。


「はい、自己紹介も済んだところで今回のクエストの説明だよ!」


 このチャンネルではメンバーや世界観に合わせ、配信内容を『クエスト』と表現する。その言葉選びに従い、ほたるが説明を続けた。


「さっきあおいちゃん先輩もちょろっと話してくれたけど、やはり四人対戦と言えばど定番の大乱闘! このゲームで果たしてこの四人の誰が勝つのか決定するよ! みんなも予想してみてねー!」


『やはり大本命のほたる?』『二番手のカガリも勝つ印象』『ユキヤも割と上手いぞ』

『あおい先輩はない』『あおい先輩以外なのは分かる』『誰かあおい先輩に賭けろよ』


「何やらすごく聞き捨てならないコメント欄になっている気がするのだけれど」

「気のせいですよ先輩」「気のせいですね」

「そう、気のせいなら仕方ないわね」

「あははー、でもなんだかんだで実力差は出ちゃうゲームだからね。単純四人乱闘だと有利不利はある──というわけで!」


 ある程度予想していた話やコメントの流れを踏まえて、ほたるが続けてこう提案する。


「まずはチーム戦で決着つけよっか! チーム分けはわたしとあおいちゃん先輩、カガリとユキヤ。男性陣対女性陣でどう?」


『なるほど』『バランスも良いね、最強&最弱対中間二人』

『男性……陣……?』『そこは突っ込むな正しいんだから』


 コメント欄からもメンバーからも特に異論は出ず、そのままチーム分けをして対戦へ。

 各々がキャラを選び、『GO!』の文字でスタートする。

 まず動いたのは、カガリ、ユキヤの男性陣チーム。


「ユキヤ、どうする? 俺には一個作戦があるんだけど」

「奇遇だねカガリ、多分僕も同じこと考えてる」

「やっぱそうだよな。じゃあ手筈通り──」


 そのまま二人、一斉に相手陣営へ突撃しながらぴったりと息を合わせ。



「「──まずは夜紡あおいから倒しまぁす!!」」



「ちょっと────!?」



『草』『あまりにも息ピッタリすぎて草』

『まぁ弱い奴から倒すのは常道』

『常道とはいえ男性陣が躊躇なくこれをやるのは鬼畜すぎるw』


「カガリ、倒すのは君が行け!」

「良いのかユキヤ!?」

「君の方が適任だ、僕がほたるを抑えているうちに……頼むっ!」

「く……すまない、なんとか持ち堪えてくれ、必ずお前のところに帰ってくる!」


『なんで若干熱い展開っぽくしてんだよw』

『胸熱な会話ですがやっていることは弱いものいじめの段取りです』

『でも男の子はこういう会話大好きだからね、分かるよ』


 コメント欄で散々に言われつつ、まずはユキヤがほたると戦い、その隙に横をすり抜けてカガリがあおいの方へと向かう。


「というわけで師匠、良い勝負をしましょうね!!」

「絶対良い勝負にならないって分かって言ってるわよねそれ!?」


 流石にあおいもこの状況になっては冷静な声色を保ってはいられず、焦り全開でとにかくカガリとの戦いに挑む。

 しかし、誰がどう見ても実力差は明らかであり。


『あおい先輩の攻撃全然当たってなくて草』『これはひどい』

『本日も上質なあお虐をありがとうございます』

『クールビューティーの本気の悲鳴でしか得られない栄養素がある』


「ねぇちょっとカガリ!? 手加減しようとかそういう発想は無いわけ!?」

「ありませんね師匠! 戦いにおいては全力でぶつかることこそ礼儀ってどっかの格闘漫画で言ってた気がしますので!」


 カガリがあおいを『師匠』と呼んでいることから分かるように、この二人はとある分野での師弟関係にある。それは、


「あのさカガリくん!? 私あなたの絵の師匠よね!? あなたがこのユニットのイラスト担当できてるのは……まぁ三割くらいは私のおかげって言っても良いわよね!?」

「はい師匠、三割と言わず九割以上師匠のおかげだと思いますよ!」

「じゃあなんかこう、師匠を労わるとかそういうのって無いの!? ほんとに!?」

「ですが師匠聞いてください。師は弟子の成長を、そして師を超えることを喜ぶものだと聞いております! だから俺は自分の成長を見せたいんですよ! ほら師匠見てください、俺はこんなに強くなりましたよ!」

「それは教えた分野での話でしょうが!! こんな全く関係ない分野っていうか最初っから私より強かった分野で実力見せつけられても『腹立つ』以外の感情なんて浮かばないんですけどー!?」


『よう喋るなこいつらwww』『今日もこの師弟は仲良しです』

『ほっこりした内容と怒涛のボケツッコミの温度差で頭がバグる』

『やっぱカガリも配信が始まるとちゃんとぶっ飛ぶよな』

『配信者適性があると見てスカウトしたほたるの慧眼よ』


 ちなみにその間、もう片方で戦っているほたるはずっと大爆笑、ユキヤも笑いを押し殺している。

 だが戦況は明白で、そうこうしているうちにあおいがあっという間に一機を失い、もう一機も追い詰められついに場外付近へと吹き飛ばされる。


「えっ、ちょっ、これまだ死んでない!?」

「死んでないですあおいちゃん先輩!」

「ど、ど、どうすれば良いんだっけ!?」

「上B、上Bです先輩! そのキャラはとにかく上Bを撃っておけば大体復帰できます!」


 慌てるあおいに同陣営のほたるが必死にアドバイス。それが届いたのか、あおいがテンパりながらも理解をした表情で。


「上Bね分かったわ! えいっ!」


 なんとも可愛らしい掛け声と共に、気合を入れてボタンを押し込み、そして。



 あおいのキャラが、凄まじい勢いで回りながら場外に落下していった。



「なんで上Bを押そうとして下Aが出るんですかせんぱ────い!!」



 ほたるの絶叫が轟き、コメント欄が『草』『w』で埋まった。


「下Aて! 下Aって!! 横B暴発とかならまだ分かりますけど何をどうミスったらそうなるんですか!?」

「そんなの私だって知らないわよ、ちゃんと押したもん! でもぉ……!」

「く……っ、涙声可愛いので許しますけど!」


『これは最強のゲーム下手』『期待を裏切らないゲーム下手』

『漫画以外ほとんど知らなかったことをしっかりエンタメに昇華した女』

『秒で許しちゃうのも草』『でも分かる』『流石ほたるが好みと公言する女だ』


 そうしてあおい最後の一機、彼女がしたのは命乞いだった。


「ねぇ、ほんとにもうちょっとだけ手加減してくれない!? ほらその、師弟の絆とかあるでしょ!?」

「それはもちろん俺もあるつもりです! ですが今は敵陣営ですし、ユキヤとだって絆はあるんですよ!」

「私とユキヤどっちが大事なのよ!」

「すみませんが今はユキヤとの友情を優先させていただきます!」

「愛してるよカガリ!」

「ちょ、あっ……次の即売会覚えときなさいよ、あんたたち二人の同人誌描いてやるんだからぁ────っ!!」


 そのまま、三機目もあえなく落下していった。


『やはりこうなったか……』『むしろよくカガリを一機持っていった』

『捨て台詞草』『絵を描ける配信者最強の捨て台詞』

『でもプロに描いてもらえるの羨ましい』


 そのあまりのやられっぷりに、カガリが見送ったのち思わずぽつりと。


「……流石にやりすぎたか……?」

「こらママ! 正気に戻るな!!」

「ごめんなさい!!」


『正 気 に 戻 る な』『普通逆だろw』

『頑張っておかしくなってるママがすこ』

『まだ配信慣れしてなくて根の善良さがたまに出ちゃうママ良いぞ』


 そんなやり取りもありつつ。

 かくして視聴者の九割以上が予想した最初の脱落者が順当に脱落し、残るはほたる対カガリとユキヤ。

 残機はカガリが二、ほたるが二、ユキヤが一。流石にほたるとの対決でユキヤが上回ることはできなかったが、このゲームにおいて二対一は圧倒的な優位を誇る。

 後は何も起きなければ男性陣が順当に勝利する──はずだったが。


「油断するなよカガリ、ほたるは強いから!」

「ああ、でも俺たちなら十分勝てる──!」

「と、思うじゃん? でもちょっと待って欲しいんだよね」


 逆に言えば、そういう時こそ『何かを起こす』のが配信者としての性でもあるのだ。


「まずは一旦手を止めてわたしの話を聞いて欲しいんだユキヤくん」

「え?」


『お?』『これは……?』


「この二対一を作り上げたのが君たちのチームワークの賜物であるのは理解しているし、そこを責めるつもりはないよ。でもさ……」


 一時休戦の雰囲気を漂わせつつ、ほたるがユキヤに話しかけて。


「ここからほぼ勝ち確の状況で、一方的に女の子を囲んでボコる。

 それがさ──『格好良い』って言えるのかなぁ……?」

「!」


『あっ』『これはまずい』『例の流れだ』


「ちゃんと『男らしい』ことだって胸を張れる? 君が目指している格好良い存在に近づけることなの……?」

「あ……う……ぁあっ……」

「ゆ、ユキヤ! 悪魔の囁きだ! 耳を貸すな!」


『乗るなユキヤ! 戻れ!』『やめろほたる、その術はユキヤに効く』

『ほたるの妖しい囁き声上手すぎて草』


「どうすれば良いか……もう、分かるよね……?」


 そこからトドメとばかりに告げられた迫真のウィスパーボイスに、ユキヤは。



「──カガリ! 手を出すなぁ! こいつは僕一人でやるッ!!」

「ちくしょう! じゃあ俺はその間配信的に何すれば良いんだよぉ──!」



『心配するのそこかよw』

『やっぱりこうなったか……』『これはほたるが一枚上手だった』

『ユキヤくん、自分の声と容姿が可愛いことを理解しているから男らしいとか格好良いとかいう単語には逆らえないんだ……』


「よーしまだ勝ち目はある! それじゃあユキヤ、正々堂々タイマンじゃい!」

「やってやるよかかってこいやー!」


 そうして再開されたほたる対ユキヤだったが……まぁここまでの残機数遷移から分かる通りどちらが有利かは明白で。


「くっ、この……飛び道具の使い方がいやらしいんだよ卑怯な!」

「持てるもの全てで戦うのは卑怯とは言いませーん! ほんとねぇユキヤくん、君には個人的な恨みもあるんだよ! わたしのチャンネルなのにわたしより『可愛い』って言われる回数が多い君のことがさぁ!」

「それは僕悪くなくない!?」


『草』『だってユキヤくん可愛いし……』

『ほたるは愉快な女過ぎて可愛いを挟む隙がない』『まさしくそれ』

『そしてその間あおカガ師弟が謎の実況解説始めてるのも草』


「いやほんと初めて会った時から思ってたけどさ、ずるいよその声! 何さその理想のショタボはぁ! そんなん聞かされたらもうわたしがおねになるしかないじゃんか!」

「そんなことはないと思うんだけど!」

「そんなことあるんですー! そして一つ真理を教えてあげようユキヤくん、おねショタにおいてショタが勝つ展開は九分九厘ないんだよぉ──っ!」

「最後に一つ言わせて! 僕と、あんたは、同い年だっつってんでしょうがぁ!!」


 それを断末魔に、これもまぁ順当にユキヤが吹き飛ばされていった。


『やはりおねが勝ったか……』

『強制的におねショタにする女対同い年だと回避する男』『字にするとひどいな』

『そして断言せず九分九厘と言うほたるのコンプラ意識の高さよ』


 そうして最終的には、お互い二機ずつ残した状態でカガリとほたるが残る。

 互いに一旦中央に戻ってから、ほたるが口を開き。


「カガリ……その……二人っきりに……なっちゃった、ね?」

「お前がそうしたんだろ」


『草』『それはそう』

『ここぞとばかりに可愛い声を出すな』


 わざとらしいほどに恥じらいを含んだその声にカガリが冷静な突っ込みを返す。

 そこでほたるも声をいつも通りに戻し、激突前の口上を挟む。


「さて……やっぱりなんだかんだで最後はわたしとママになること多いね」

「実力的にもそうだけど、流れ的にも何故かね」

「これまでの戦績は……わたしの九勝二敗だったっけ?」

「ああ……戦績はほぼ互角、認めたくないけどライバルってやつだ」

「「どこが?」」


『どこがだよw』『圧倒的大差』『認めたくないのはむしろ向こうだろw』

『ユキとあおがハモってて草』

『ここ二人、Alter’dの中では割と犬猿寄りのはずなのに要所で息合うのおもろいw』


 そこから試合再開の秒数を決め、それになると同時に二人一斉に動き出した。


「よし──じゃあ『本物っぽい思春期の娘とママの会話』! スタート!」

「かかってこい受けて立ぁつ!」

「ちょっとママー!? ここに置いてあったゲーム機どこやったの!?」

「そんなものしまったわよ! 置いとく方が悪いんじゃないの!?」

「はーありえないんですけど! 娘のゲーム機しまうとか時代錯誤にも程がない!?」

「限度ってもんがあるのよ! あんたはいっつもいっつもゲームばっかり! ちゃんと勉強してるわけ!?」

「ちゃんとテストで点数取ってますぅー! 過干渉ウザ過ぎ!」

「友達に頼り切ってんじゃないでしょうね! 今日も友達呼んでるみたいだし!」


『よう喋るなこいつらパート2ww』『出たチャンネル名物』『ハ イ パ ー 母 娘 漫 才』

『【初見向け】ハイパー母娘漫才。とにかく互いにテーマに沿ったマシンガントークを繰り広げ、詰まるかテーマから外れたことを言った方の負け。稀に唐突に始まる』

『ちゃんと激戦しながらここまで喋れるの配信者適性ありすぎだろw』


 ここが、本日の配信のハイライトであり最大コメント速度を記録したところだった。


『カガリもちゃんとママしてるのすげぇよw』『流石配信七重人格男』

『ほたるの配信に出る→自分の素のままでは他面子の濃いキャラ性に対抗できない→配信用の人格を作り上げる→一個じゃ足りないと思ったので七個くらい作った』

『うん、何度聞いても最後だけ理解できない』『やっぱカガリもやべぇ奴だわ』


 そんな謎の称賛を受けつつも、二人の戦い及び舌戦は続く。


「その友達に過剰に頼りすぎなんじゃないの!? ママ知ってるのよ、昨日の小テスト抜き打ちがあるってこと別クラスのユキヤくんに教えてもらったって! そういうことやってるといざって時に困るのはあんたなんだからね!」

「はぁー!? なんでママがそんなこと知ってるのキモ過ぎ!!」

「ちょっ……キモいとか言わないでよ……」


『あっダメージ受けた』『これは仕方ない』『高一男子だからね……』

『いくらロールプレイ中でもクラスメイト女子にキモいと言われればそりゃ傷つく』


 そこでコメント欄に同情の空気が流れる中。

 ほたるが一拍置いてから、そこでがらりと声色を変えて。



「──なーんて。本当は大好きだよ、ママ」



 ふわりとした雰囲気と共に。

 素の可愛らしい声色で紡がれる、なんの衒いもなく本心と分かる言葉。


「えっ」


 それを受け、カガリの思考が一瞬停止し──



「はい隙ありどーん!!」

「ぉぁあ────ッ!!」



 このゲームにおいてその一瞬は命取り。

 見逃さずほたるが大技を叩き込み、カガリの最後の残機を星に変え、決着である。


「はーい、勝負もトークバトルもわたしの勝ちー!」

「ちくしょぉ────!」

「あっはっはー、ちょろい男を手玉に取るのは楽しいねーぷっぷくぷー!」

「あーもーうっっっざいなぁこいつはほんとなぁ!!」


『これはウザいwww』『でも仕方ない』『高一男子だからね……』

『いくら隙作るためでもクラスメイト女子に大好きと言われればそりゃ動揺する』

『演技でも羨ましいぞカガリ』『本当に演技かな……?』『カプ厨も湧いとります』


 そうして最初の一戦が女性陣……と言うよりはほたるの一人勝ちで終了し、そこからも盛況のまま配信は続いていく。


 ちなみにその後は、諸々含めてほたるが調子に乗り過ぎたため、最後にあおいの提案によってこっそり三人対ほたるのチーム戦を仕組む。いくらほたるでもそれには勝てず、今までの三人の鬱憤を一身に受ける形でボコボコにされ。


「……はい……というわけで、本日のクエスト結果ー」


 当初とは打って変わってダウナーになったほたるがそう切り出す。


「大乱闘をこの四人でやったら誰が勝つのか、その結論が出ました。それは──」


『結論!!』と大きなテロップと効果音が流れ、最後にほたるが大きな声で。



「──悪 が 滅 び ま す !」



『妥当すぎるwww』『そうだねwww』『完璧な勧善懲悪の流れだったからね……』

『流石高校生の配信、子供にも優しいメッセージ性』

『この辺りのバランスがすごいというか、不快感がないから良いよね』


「そんなわけでわたしたちはこれからも、ほどほどに調子に乗りつつボコられつつ冒険を続けていきます! 今日も見てくれてありがと! それではみなさーん、ぐっない!」


『ぐっない!』『調子には乗るのねw』『お疲れ!』『今日も楽しかったー!』




 ◆




 四人組のVTuberユニット、Alter’d。

 既に多種多様なタレントが存在するこの業界の中で、彼女らは企業ベースではない存在……所謂『個人勢』としては驚くべきほどの伸びを見せていた。

 その理由は、配信に出る四人のキャラクター性もさることながら──


 ──何より、『その全員が同じ学校に通う高校生』であることが大きいだろう。


 お互いの軽快なトークに加えて、同じ学校に通っていると明確に分かる学校での豊富なネタ、そして様々な意味で高校生らしい勢いと成長性、『冒険』をテーマにした何事にも挑戦する姿勢。


 極め付けは──配信に使うアバターの用意からOPED曲、オリジナル曲の制作や重要な配信時のイラスト制作まで。

 それら全てを自分たちで作り上げているということから、メンバーの成長が配信の様子や曲、イラストにダイレクトに現れる。


 その様子を見守りたい、応援したいと思ってくれる人たちからの支持も集めることによって、『高校生』を全力で生かしたユニットAlter’dは、知る人ぞ知る隠れ人気VTuberとして今も着実に認知度を高めていっている。



 そんなAlter’dの配信メンバーは、四人。


 リーダー、冒険家の夕凪ほたる。『死ぬほどウザいけど可愛い』『悔しいけど可愛い』と言われ、全力の煽りとぶっ飛んだ行動、そしてそれらと相反する愛情深さで人気を集める、正統派の元気系ライバー。


 作曲担当、戦士の昼神ユキヤ。『アイドル枠』『一番可愛い、でも格好良い』『可愛さと格好良さの反復横跳び』と言われ愛される生真面目系リアクション担当。


 先輩枠、魔法使いの夜紡あおい。『配信をやるために生まれてきた女』『漫画を描く漫画のキャラ』と言われ、いじられつつも敬意を集めるマスコット的存在。


 そしてイラスト担当、ヒーラーの暁原カガリ。『常識人枠に見せかけた最変人枠』『やべー奴らの中にいる普通っぽい奴の皮を被った一番やべー奴』となんとも買い被りのような評価を受けている、ボケもツッコミも回しもこなす万能タイプ。



 四様の個性をもつ彼女ら四人。そんな少年少女がいかにしてバーチャル配信ユニットとして集ったのか。それを知る上では……


「……いや、ほんと」


 配信後ヘッドホンを外し、虚空を見上げるこの少年──暁原カガリ。


 視聴者たちからはきっと最も身近に感じてもらえている存在で。

 仲間たちからは、他の三人誰に聞いても『自分たちの中心は彼』と答える存在で。



 そして──恐らくユニット四人の中で唯一、全てにおいてほぼ素人の状態からスタートしている彼が、紛れもなく最主要人物なのである。



「入学した頃は何もなかった俺がこうなるなんて……夢にも思わなかったな」


 苦笑と共に、そう呟きつつ。

 暁原カガリ──夏代なつしろかがりは、始まりとなった、高校入学後の『彼女』との出会いまで意識を遡るのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


読んでいただきありがとうございます!

こんな感じの明るく楽しく、そして熱いお話を書いていきます。

ここからはユニット結成編に入るので、ぜひこの先も読んでいただけると!


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よりたくさんの読者さんに読んでいただける契機となります。

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