幕間 戯

先に書いておきます。

ホラー回は次回以降になるかと。今回はあくまで幕間ですので。


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「ねぇ?あそぼ?」

少女の声がした。

その声には抑揚がなかった。

だが、声の先には誰もおらずより不気味さを感じさせている。

声をかけている相手も人間ではなければよかったのかもしれないが。

この霊の失敗はそれであった。

相手が人間ではないのに話しかけたこと。

霊や妖魔の類は人や同一の存在を殺したり惨いことをすることで力をつける。だから、この霊は相手がそういう類でも行動を開始したのだ。

「ネエ、遊ンデくれるノ?」

返事をしたのはそう鬼灯であった。

神霊の類であって祟りそのものの鬼灯からすれば、雑種・・・そこらへんに生えた草木といってもいいくらいなのだが鬼灯は非常に戯れが好きなのだ。

なにもないなら道化として死んでいく方がいいだろう。

「遊んでくれるの!ありがとう。」

べちゃという音がした。

禍々しい色の赤が鬼灯の視界を覆う。

「えッ?」

少女は驚いたようにそういった。

「なんで!なんでなんでなんでなんで!なんで死なないの?これで何度も殺したはずなのに!」

少女はそういうと鬼灯に近づき触れる。

触れた手からはどろどろといした赤黒い液体が出てそれが鬼灯を飲み込んでいく。

「ウザい。」

だが、鬼灯はそれを退屈そうに見ていた。

遊ぶという言葉に反応した彼女であったが、どうやらお気に召すものではなかったらしい。

鬼灯は少女に触れると少女は破裂し消滅した。

「タイクツ。」

鬼灯はそう言ってまた歩き出す。

公園でブランコ。

鴉の群れと一緒に行動。

川や湖に行き水中を見る。

黒猫を戯れる。

黒蛇と相まみえる。

これが常世がいない日の鬼灯の日常である。

鬼灯にとって常世はそういった面で欠かせない存在であった。

ふと、いつものように歩いていた鬼灯の足が止まる。

そううめき声が聞こえたのだ。

別にこれは他の場所でもよく起こる。

集合霊の塊。

霊脈が強い場所などといった条件次第でこうなることが多い。

だが、明らかに異常なのだ。

霊脈もそれに準ずるものも何もない。

だからといって人などを殺すために動いても成仏するためにいるわけでもない。

それを見た鬼灯の感想は面白そうである。別に鬼灯にとって特別害があるわけではないので鬼灯は近づいていく。

集合霊は別に鬼灯を捉えていないわけではないのだが、全く気にすることはなく集合体は一つに集まっていく。

「・・・一つにナルノカ。」

鬼灯からすれば想定外ではあるのだが、あまり面白くないものであった。

一つになるということはいい手段ではあると思うのだが、少々面白味には欠ける。それが鬼灯が思ったことであった。

鬼灯はその一つになった集合霊に手を向ける。

すると、一つとなった存在は破裂した。

だが、破裂した破片全てから一つになったはずの存在が生まれていた。

「ブンレツ?分身ではナイカナ。ベツコタイ。」

一つなった存在が分裂する。それが一つになる前の集合霊であるならまだわかるのだ。

だが、一つになったものが一つになったものに分裂する。

まるで細胞分裂のようだったがそれとは比較にならない速度であった。

破裂した破片全てから復活したのだ。

流石の鬼灯もこれには笑っていた。

「イイヨ。遊んでアゲル。」

鬼灯がそういった時、地面が黒く変色していた。

それは黒い泥のような液体と固体の中間であったがそれに沈むことはない。

だが、その周辺にあった植物や生物はどんどん黒く変色し泥のようなものへと変わっていく。それは霊だろうと関係がなかった。

分裂した個体のその全てが泥のように溶けていく。

個体によっては逃げ出そうとするものもいたが、数秒後には完全な泥のようなものとなり脱出ができなくなる。

「コウイウノ。エイショウとか技のナイエバ、イリョクがアガル・・・んだけど。ヒツヨウないネ。」

鬼灯の周りから黒い泥のようなものが消えていく。

その時には集合霊が一つになった個体は全て消えていたようで、はぁとため息をつきながら鬼灯はその場を見渡す。

「ダレ?」

鬼灯の目線の先には一人の男性がいた。

「いやはや、気づかれるとは。」

その男性は見た目は若い男そのものであったが見た目以上に中身が成熟しているのかそれとも長生きなのか年配と話しているかのように鬼灯は感じるもそれを顔に出すことはない。

「デ?何シニココヘ。」

「異常があったんでな。確かめに来ただけだ。」

「ウソ。アナタはサイショからココニイタ。」

鬼灯がそういうと男性は「そうか。知っていたか。」といいながら鬼灯に近づく。

「神・・・それも祟り神か?なるほどこれは恐ろしい。だが、どうやら力の大部分を封印されているようだ。どうだ?わしに手伝う気はないか?」

その問いに鬼灯は食い気味に答えた。

「ヤダ。セメテ下心をカクセ。タヌキめ。」

「・・・そうか。では、また会いに来るとするよ。その時は君と一緒に行動している常世っといったかな。"あれ"も呼ぶといい。わしはいつでも歓迎する。」

そういうと男性は姿を消した。

まるで霊だったかのように。

「メンドクサイ。」

そんな男を見た鬼灯はこれだから人とはかかわりたくないと常世に愚痴を言うのであった。





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