「おや?意外と元気ですね。"あれ"と接触したはずですけど。」

常世は"異界"で拾った子供が起きるのを確認するやいなやそう言った。

「誰だお前!俺を誘拐して何する気だ!」

そう言われた常世は少し驚く。

なにせ、少年の体は小学生・・・いやそれよりも小さいかもしれない。それなのにまるで先ほどまで別の人だったみたいに自意識が強かったからだ。

「・・・はぁ。あなたが倒れていたから急いで救助しただけですよ。」

常世は呆れと憐れみの目を向けながら少年の疑問に答える。

少年は常世の言葉を聞くと安心したかのように緊張がほぐれたようで体の全体の力をといた。そうして少年は改めて常世を見て一つの疑問を問う。

「さっき言ってた"あれ"ってなんだ?」

少年の言葉に常世は目を細める。

「"あれ"は"あれ"ですよ。まあ、・・・人知を超えたものとでも思ってください。」

「神さまみたいな?」

「・・・まあそうかもしれませんね。どうやらあなたは被呪者みたいですし。」

「被呪者?」

「呪われた人の総称的なものですね。僕はそういうのが見えるんですよ。まあ、呪われている以上呪いと近いためかあなたもそういうのが見れるような状態になっていると思いますよ。」

少年は常世の言葉をきき、上を向く。そうすると、人の形をした幽霊のような存在が浮かんでいた。

「・・・あれは浮遊霊です。大して害はないですし、どこにでもいますよ。」

「そうなんだ・・・。」

少年にとっては自身の知らない世界で驚くべきことであったのだが、夢のようなあの世界で驚きすぎて少し薄れてきているのかもしれない。

「あなた・・・名前は?」

常世はふと気が付いたように少年に問う。

福我路ふくがろ志郎。であんたは?」

「僕は常世。この世の霊や妖に関することを解決する探偵だよ。よろしくね。」

「よろしく・・・?」

志郎はよろしくということに少し疑問をもったが、自身の呪いのことを思い出す。

「よろしくっていっても報酬はないぞ。」

「構わないさ。"あれ"と関わった人というのは気になるからね。」

常世にとってこの少年と関わるだけで少しでもメリットがあるのだ。

乗るにこしたことはない。

「・・・でも、志郎。まだ、手がかりは一つもないんだ。しばらくは僕の助手・・・お願いね。」

「は?」





_______________________________________






私立探偵常世に一人の男が来店した。

その男は自身が呪われていると言ってた。

「・・・どこで呪われてどんなことが身に起こっているのですか?」

常世はそう男に問いかける。

「街はずれの洋館だよ。友達と一緒に行ったんだ。最初は肝試し的な意味で行ったんだ。・・・それで、行ったときは何もなかった。ただのぼろい洋館だったんだ。昼間に行ったのにやけに中が暗かったのは覚えてる。けど、それ以外には怪しいものなんてない普通の洋館だったんだ。でも、数日後に一緒に行った友達は行方不明になった。」

男はそういいながら、スマホを出す。

そしてその友達との最後の通話を常世たちに聞かせる。

『助けてくれ!頼む。何かに追いかけられてる。何かはわからない。おねが・・・』

そこで通話は切れていた。

「・・・これは確かに私の案件みたいだ。」

常世はそう言った。

志郎は初めに自身と話していた時と一人称が変わっていることに疑問を持ったが人によって変える人なのだろうと勝手に納得する。

「・・・それで、俺も夜になったら聞こえるんだ。洋館のある方角から声が。助けてって声と追いでっていう友達の声が。」

「わかりました。とりあえず、その洋館に私が行って直接原因を調べましょう。」

「ありがとうございます!」

男は興奮するように立ち上がった。

だが、常世の顔は無表情から変わらない。

そして志郎は感じた。

この常世という人物に出会ってから、二回目の背筋の悪寒。

その"眼"がとても不気味であることに。

「原因は取り除きます。それは私の仕事ですので。ですが、必ずしも呪いが解けるとはいいません。一部のやつは原因が消えても作用し人を亡き者にします。・・・でも、それはその場所にいったあなたの自業自得です。私がやるのは原因の排除だけ。これ以上犠牲者がでないようにするためのね。」

「・・・どういうことですか!俺はあんたがそういうのを取り除いてくれるっていうから金を出すんだぞ!」

男は先ほどから一変し、怒った顔で常世に怒鳴る。

「私からはそんなことを口にした覚えはありません。噂に踊らされてきたあなたの責任だ。そして、巻き込まれたあなたを気の毒には思っても同情はしない。・・・"こちら"に関わってきたのはあなたたちからなんですから。」

常世はそういうと、席をたつ。

「文句を言うならこの対談は終了です。ただ、その場合は私は何もしないので。」

「・・・わかったよ。金がありゃいいんだろ!」

「お金は別にどうでもいいんですけど・・・。まあいいです。志郎。行くよ。」

志郎は留守番をする気でいたのもあり、常世の言葉に少し驚いてしまった。

「あなたはもう助手なんですから。・・・お願いしますね。」

そういってこっちを見る常世は志郎にとって可愛らしくも見えた。






_______________________________________


洋館まで移動中~


「そういえば、あんた女性?男性?」

「・・・ご想像にお任せしますよ。どっちで扱われても困らないようにしているので。」

志郎はなぜか常世の性別を探りたくなり今後も常世を観察するのであった。


_______________________________________




「ここですか。・・・いますね。」

常世は洋館を見てそう言った。

それは志郎から見てもわかりやすかった。

洋館の全体からうめき声のようなものが聞こえる上、黒いオーラを纏っていたからだ。

「では、入りましょう。」

「なにも準備せずに?」

志郎とっては疑問である。

いくら専門家でも常世は手ぶらであったのだ。

手ぶらでは何もできないのではないか?と疑問にもったのだ。

「ああ、手ぶらではないので大丈夫です。・・・でも、そうですね。」

常世はそういいながら一つの札をどこからともなく出した。

手品のように何もないところから出てきていたがこれはそういう"力"によるものだろう。

「はい。どうぞ。」

常世は志郎に取り出した札を渡す。

「何に使うの。これ?」

「志郎の命を守ってくれますよ。もし、分断されたらあなたは何もできないからね。」

「鬼灯。いる?」

「ナに?常世。」

常世の後ろにはいつの間にか少女が立っていた。

彼女もお化けとか妖怪の類なのだろうと志郎は思うが気にせずに前を向く。

「じゃあ、いこうか。」

そして三人?は洋館へと入って行った。





_______________________________________





「・・・え?」

志郎が気が付いた時にはすでに一人であった。

気絶なんてしていない。

先ほどまでとなりには常世と鬼灯と呼ばれる少女がいたはずだ。

なのにも関わらず、志郎の隣には誰もいない。

あるのは一つのお札だけ。

急に自信がなくなる志郎であったが、深呼吸をして前をむく。

もうすでに関わっているのだ。

もう逃げることはできないだろう。

そう志郎が考えていた時だった。

「・・・弟・・・兄弟!」

声が聞こえたのだ。

かなり近い位置から。

「どこを見てる兄弟!ここ。札だ。札。」

「札?」

札を見ると、ガタガタを小刻みに動く札があった。

「旦那たちなら大丈夫だ。それよりもだ兄弟。気を付けた方がいいぜ。」

「・・・?」

志郎はそう言われ辺りを見渡すとそこには黒い人の形をしたナニカがいた。

そのナニカは志郎に指を指す。

「兄弟!俺をだせ!」

札がより激しく揺れる。

「出せってどうすれば!」

「破ればいいんだよ!」

志郎はそういわれ、すぐさま札を破った。

志郎の前には2メートル以上はある大男がいた。

「・・・助かったぜぇ。兄弟。」

大男はそういうと、すぐさま黒いナニカに近づいていく。

その手にはいつの間にか70センチくらいの斧があり、黒いナニカの首を切る。

だが、黒いナニカはそれだけでは死なないようで手を使って斧を掴むと飛んだ頭の口から声を出す。

「あかー。」

黒いナニカかがそう口にしたとき大男は危険を感じたのか斧を離して後ろに下がった。

すると、斧は黒く変色していき最終的には消滅した。

「・・・あ”?ああ、なるほどそういうやつか。兄弟、離れとけよ。」

「わかってる。」

志郎はただ見ていた。

それしかできないということもあるが、ただ見ていた。

大男は今度はハルバードと言われる形をしたものを手にもつ。

それに対抗したのか黒いナニカは体からさらに追加で二本の腕を出し大男自体を掴もうとする。

大男はハルバード振りかぶると、何もないところに向かって振り下ろした。

ただ、大男が振りかぶった場所は空間が歪んでいた。

次の瞬間には大男を掴もうとしていた腕はすでに切られていた。

大男は今度はすぐさまハルバードを投げる。

黒いナニカは腕を再生させ防御するも全ては大男の予想通りであった。

投げられたハルバードは黒いナニカの腕にあたることはなかった。

ハルバードは黒いナニカの後ろに刺さっていたのだ。

大男はそれを見るやいなや拳を握り、歪んだ空間の中にそれを振るった。

ぐしゃという音ともに、黒いナニカはつぶれた。

「終わったぞ。兄弟。」

そういうと大男は志郎に近づきいう。

「旦那がいねえと札に戻れねえからな。」

「というか旦那なの?」

志郎ふと思ったことを口にする。

すると、大男は困惑するようにいった?

「旦那じゃねぇのか?」

「確証は?」

「ねえよ。俺が思っただけだ。」

志郎の疑問は今回で解くことは出来なさそうであった。






_______________________________________





「おや?さっそく分断ですか・・・。」

常世は考える。

恐らくは三人揃うと勝てないと判断したのだろう。

「まあ、正直なところ鬼灯一人で十分な気がするけど。」

常世はそういうと目のまえの黒いナニカに小刀を向ける。

この時すでに常世の瞳は渦を巻いていた。

「がずら」

黒いナニカが指を指してそう言った。

だが、次の瞬間には黒いナニカの首から上が消えていた。

呪詛返し。常世の持つ"眼"の力である。

次の瞬間には常世の瞳は五芒星があり黒いナニカが腕をたくさん出し捕まえようとするも、まるで腕がどこにくるかわかっているかのように常世は動く。

だが、決して超人的な動きではない。

あくまで人間の範疇の動きではあるのだが、動きは最小限。

黒いナニカの腕の速度は人の反射神経で避けられるかと言われればほぼ不可能であるのだが、それを避ける。

そして一刺し。

すると、どこからともなく黒い鎖が現れる。

その鎖は黒いナニカを縛ると黒いナニカは抵抗ができずにもがく。

常世は書物を取り出すとその黒いナニカを書物の中にしまった。





_______________________________________





鬼灯の前には大量の黒いナニカがいた。

少なくとも100は超えているだろう。

だが、鬼灯はかぎりなく冷静であった。

「アのサ、ブンシンダすのハイイ。ダケド、ホンタイがバレバレ。」

鬼灯はそういうと自身のいる地面に手を突っ込んだ。

そしてナニカを掴むと同時に引き上げる。

そこには他の分身と比べると非常に細いナニカがいた。

鬼灯は手に鎌を出すとナニカを真っ二つにする。

次の瞬間には分身も本体も消滅していた。

「カクスナラ、力のナガレダイジ。」

鬼灯はそういうと後ろに振り向く。

そこには黒いナニカよりも強力なオーラを放つ如来に似た何かがいた。

「・・・ブッキョウのヤツ?イヤ、違うカ。」

鬼灯がそういった瞬間。

如来は手を叩いて言う。

「つぁら、つぁら」

「ン?」

次の瞬間には鬼灯は圧縮されていた。

まるで馬力の強いプレスでボールをつぶすみたいに秒でぺらぺらになったのだ。

「さっさ」

如来は嬉しかったようで顔に笑みを浮かべていた。

だが、如来の目には先ほど潰したはずの鬼灯がたっていた。

「ボチボチかな。常世もあの・・・シロウもこの領域からオイダサレテル。」

少しずつ少しずつであるのだが、鬼灯の言葉を流暢になっていく。

「やっと、遊べるネ!」

鬼灯はそう笑みをこぼし手をかざす。

「壊れないデネ?」

手にはまるでブラックホールかのようなエネルギーの塊があった。

そこから引力などができるわけではない。

発生するのは斥力でもない。

ただのエネルギーの放出である。






_______________________________________






常世と志郎と大男は外で待機していた。

急なことだが、恐らく主に追い出されたがためのものだろうと常世は感じていた。

「鬼灯・・・さんは?」

「鬼灯かい。なら大丈夫だよ。」

二人がそう会話をした次の瞬間には洋館が全て消し飛んだ。

クレーターができたような状態で。

そこの真ん中には鬼灯が立っており、常世たちを見つけると常世たちの方にあるいてくる。

「何者なの。あの人。」

「・・・大妖と呼べるようなものを領域ごと、吹き飛ばせる存在。彼女はまあ。呪いそのものだと思ってくれればいい。祟り神のようなね。」

「なんでそれと一緒に・・・」

志郎はそういおうとしたが鬼灯が近づいてくるのを確認し話すをやめる。

「強かった?鬼灯。」

「イイヤ、ヨワイ。思ったヨリモスウダン。」

「そうか。」

「コレナラ、常世ノホウガクセンした。」

志郎はそんな鬼灯の言葉が到底信じられなかった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る