ある人物は気が付いた。

いや、気が付いたらそこにいた。

そこはいつものようなビル群・・・ではなく、天井にビルが張り付いた場所であった。

だが、全てが上にあるわけではなかった。

電柱も下・・・自身がいる場所と同じ位置にあったりそもそも埋まっているものがあったりとそしてちゃんと下は道路であった。

初めはなにかの力によって重力でも反転したのかと予測を立てる男であったが、上はちゃんと空であり、おかしいのはビルなどの一部の建物のみであることは明白であった。

他にも疑問点はいくつかあった。

なぜ、ここまで冷静であるのか、である。

男は常日頃からある程度冷静であると認識しているもののさすがに自身の予測ではないような非日常的なことがおきれば、もっと声を上げて驚くはずだ。

「少し・・・歩いてみるか。」

そしてもう一つは好奇心である。

自身のそれを抑えることが男は難しくなっていた。

この謎に満ちたこの場所を調べずにはいられない。

そんな興奮が止まらずにいる。

そんな子供のように好奇心で行動を決めるような男ではなかったはずなのだ。

だが、そんなことは頭でわかっているだけで動き出した体を止めることはできなかった。

歩く。

ここ最近は今この男が着ているようなスーツでは到底過ごすことのできない暑さであったはずなのに。その暑さは感じない。

ちょうどいいくらいの気温である。

そんなことはどうでもいいか、と思いながらも少し寂しい気持ちを抑え歩いていく。

この場所がどこにせよここからはいずれでなければならない。

男は「そういえば・・・確認してなかった」と言いながらスマホを見る。

いや、取り出そうとした。

「・・・あれ?今、何を取り出そうとしたっけ?」

なにか漠然としているが便利だったものを取り出そうとしていた気がしていた男であったがそれをもっていないと判断しすぐさま歩みを再開した。

男は何も思わなかった。

先ほどから目的はないはずなのにどこかへと歩いていく。

「・・・ん。目的はない?」

そうだったと思いつつ周りを見渡す。男はこの場所から脱出することを目的にしていたんだ。

男は思い出すとともに周りを探索・・・見渡しながら歩いていく。

疲れても歩みが止まることはなかった。

なぜか疲れているはずなのにまだ歩けるとまだ体力があるとそう感じていたのだ。

気が付けば、地面は透明だった。

いや、空を反射しているなにかとなっていた。

その風景は幻想的だった。

世界は今もこんなに綺麗だ。

そう思いつつ歩く。

ただ、目的を"忘れて"

今度まばたきすれば景色は一変した。

先ほどまでの綺麗な都市というそれから水中となった。

水中とはいっても魚が泳いでいるわけでも海藻があるわけでもない。

綺麗に形を残した水没した都市である。

水中であるはずなのに息ができるのはなぜかという疑問は男の頭にはすでになかった。

そんなことは至極どうでもいいと判断したからだ。

今まで働き続けた影響で幻覚でも見ているのだろうか。

それとも死んでしまったのだろうか。

ここまで綺麗ならここは天国なのだろうか。

男は自身を振り返る。

「思えば、大きく人生を分けたらいいことなかったなぁ・・・。」

学校でひたすらに勉強した。

友達は少しはいたものの自分からどんどん作るものではなかった。

恋人なんざもってのほかである。

会社では上司にやってもいないことを押し付けられたり、性格が終わっているような新人の相手をしたり。

いい学校を出て評判のいい会社についてまでしたのにあんまりじゃないか。

そして振り返っていく中で男には一つの疑問ができていた。

「俺って・・・誰だっけ?」

そもそもどこの会社に就職したのか。

どこの大学、高校、中学、小学に入学したのか。

そもそもどこに住んでいたのか。

何も思い出せない。

覚えていることは男であることと自身が大人になっていることだ。

そもそも学校になんかいったのだろうか。

疑問が浮かべば、また新たな疑問が浮かぶ。

切りがないと考えた男は考えるのをやめて歩き出す。

急なことだった。

突然静かな水中が変わった。

鯨が現れたのだ。

それはもう大きな鯨である。

男は鯨というものを直に見たことはなかったが一般的なシロナガスクジラよりも大きいのではないかと思えるほどの大きさである。

「すごい・・・。」

その一言しか浮かばない。

ただでかい見た目がきれいな鯨がただ優雅に泳いでいるだけ。

そこに若干の光がさしてより明白に見えるだけ。

男の心がずっと解かれていくような。

溶けていくような。

男はただここまで突き進んできた足を止め見ていた。

まるで大空に浮かぶような大雲を。

大海に眠る巨大生物を。










一体いくつ時間がたったのだろうか。

鯨は泳ぎ続けているのに男が見える範囲にとどまっている。

男はただ止まって見続けた。

こんな時間が永遠に続くことはないだろう。

そう思いながら・・・。なにせ、こんなにも綺麗で平和なのだから。

男がそう思いながらも鯨を見るために再度顔を上げた時だった。

鯨は引き裂かれていた。

・・・なぜ現実はこうも儚いのだろうか。

夢に見る風景の方がまだ形に残っている。

引き裂かれた鯨から人のようなものが出てくる。

それは女の人であった。

だが、それに特別興奮などしない。

この時間を奪ったのはおそらく彼女なのだ。

男にとって彼女はいわゆる敵と判断したのだった。

そして女性は男の前にたち、言う。

「ここから出ましょう。あなたはまだ来てはいけない。」

・・・"まだ"来てはいけないこの言葉から察するにここは三途の川のような場所なのかもしれない。

だが、そんなことは男にとってどうでもよかった。

「では、返してください。この平和な時間を。」

男は怒りを込めながらそう言った。

平静を装ったつもりだがもしかしていたら顔に出ていたのかもしれない。

女性はそんな男を見るやいなや急に話題を変えるように話をする。

「地球にはどんな綺麗でも恐ろしいものがいくつもあります。"毒"・・・それはこの世のどんなところにもあるでしょう。それは分解しなくてはならないんです。」

「それは口に含んだ時の話だろう。俺はただ・・・見ていただけだ。」

男はこの女性と話していく中で少しずつ口調が素の状態になっていることに行ってから気づく。

おかしい。前の自分なら・・・冷静に・・・できたのだろうか。

「確かにあなたがやっていたことは観賞でしょう。それにあなたが自身に違和感を覚える時点であなたのやっているのは干渉です。さあ、手をとって。あなたを出口へと案内しましょう。」

「それならば、必要ない。俺はもう何もわからないからだ。自分がどんな存在であったのか。どういう経緯で何をやっていたかさえ。わからないんだ。」

男がそう言ったとき女性は笑っていった。

「では、つくればいいんです。いくらでもありますよ。あなたはまだ"幼い"これからのことは自分で考えてください。」

「幼いだと・・?俺が・・・。」

男は疑問に思う。

それほどまでにこの女性は長生きなのだろうか。

「ええ。あなたの体を見れば、わかります。まだ、大きく体だって成長していない。」

その言葉をきき、さらに疑問が浮かぶ。

自身は成人はしていたはずだ。

そしてそんなに若く見られるような歳でもないはずだと。

しかし、男の目に映るのは子供のような小さな手であった。

腕も足も全て細く短い。

まるで子供のようだった。

「では、またどこかで。」

そういって女性は笑う。

たちまち、男の視界は光に包まれていく。

気が付いたときには男はどこかのベッドに寝かされていた。

「まさか・・・誘拐?」

そう思いながら急いで外に出ようとする。

すると、後ろから声がした。

「おや?意外と元気ですね。"あれ"と接触したはずですけど。」

そこには不気味に感じる"眼"をもった人がいた。

俺はこれから起こる出来事を何一つ理解していなかった。

そしてこの人物が何をやるかさえ。





______________________________________


後書き的なやつ。

無事レギュラーが増えました。

しばらくは常世と鬼灯とこの子の三人?でやっていこうと思います。






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