怨
男が複数人集まってダーツをしていた。
そのダーツはいわゆるおもちゃのようなものではなく、ちゃんとしたものであった。
しかし、的は本来のダーツのものとは異なっていた。
人なのだ。
人が二人的となっていた。
もちろん、刺さると厄介事になると思っているのかわざとぎりぎりあたるかあたらないかの勝負である。
だが、当たったところで罰ゲームもなにもない。
ただのゲームだと。
二人の的となった者を除けば全員が笑っていた。
――ああッ!おっしぃ。
――じゃあ、次は俺だな。
それは誰もが見ればわかる過ぎた遊びであった。
わかりやすくいうといじめであろうか。
このいじめはこの日のみ起こった話ではない。
似たようなことが何度も起こっている。
単に買い物の代わり・・・パシリをさせられるのならまだましでありひどい時は痴態を動画で撮影するや最悪の場合死に至るようなことまでやらされていた。
厄介事を避けたいとは到底思えないこのいじめはとある高校で起こっていた。
だが、本来この行為を止めるはずである教師でさえ、この行為を止めることはなかった。
いじめは学校にとって不利なものであり発見すると非常に面倒な状態となる。
それを嫌がった教師陣は誰一人とてそのいじめを止めることはなかった。
もちろん、初めはいじめを止めようとした教師もいた。
だが、その教師もいじめの対象となったり、訴えるも訴え先が買収されていたりと何もかもが学校によって対策されており、その教師は結局自殺してしまった。
だが、それをメディアが報道することはなかった。
なぜなら、単に知らないからである。
教師一人が行方不明となったら普通捜索やらなんやらが行われるはずだが、それすらも起こることはない。
どうやってもみ消されたのかはわからない。
だが、実際こういうことが起こったことは事実なのである。
このことが教師陣でさえも動かない理由であった。
死人が出た際もなぜか別の民間の人物が犯人となり学校は何も関わっていないという状態となっていた。
二人のいじめは今に始まったことではない。
何度も。
何日も。
何か月も。
何年も。
そして二人が卒業間近になった時も。
行き過ぎた遊びはいじめと同じである。
否、誰かがいじめと感じたすでにいじめは始めっている。
「クソがっ!」
いじめられていたうちの一人が声を上げた。
彼自身も何度も訴えた。
だが、親すらまともに話を聞いてくれない。
スクールカウンセラーも同じように機械的なマニュアルの動きしかしない。
まだ年若い高校生に一体に何ができるのだろうか。
そして彼は自身の無念さを呪った。
いじめてくる犯人を祟った。
最後に台無しをしてやると信じて。
一方でもう一人はすでにあきらめたかのような顔をしていた。
自分たちの力ではなにもできないと悟ったからだ。
彼らは親友。
しかし、その絆が。価値観の違いによって崩壊し始めていた。
絶望しているとはいえ、別に死にたいわけではない。
本人いわく、そんな度胸があるならもうやってると。
「だけど、今はお前がいるから。」
絶望してほとんど笑うことがなかった親友が笑った。
それが彼はとってもうれしくてその日は二人で夜遅くまで通話した。
次の日のことだった。
親友が見つかれない。
昨日。いや、今日。たくさん話した。親友が。
初めは病気かなんかで休んでいると思った。
だが、電話してもつながることはない。
ふと、耳を澄ました。
その行為に理由はなかった。
ただ、そうした方がいいとまるで誰かが呟いたように彼は集中して声を拾った。
――昨日のあいつの情けない声聞いたか?た、助けてー!だってよ。子供かよ。
――確かにあの声は笑えたよ。でも、もう一人はよかったのか?あいつも同じだろ。
――ああ?知らねぇよそんなこと。ただ、運がよかっただけだろ。
その会話で何かがすっと腑に落ちた。
何かが壊れた。
彼は筆箱に入れていた切れ味の良いはさみをもつ。
そしてまるで呪詛を言うように小声でつぶやきながらいじめてきたやつ全員が見る。
――おい。てめぇ。ジュース買ってこいよ。
――なんだ?はさみなんか持って。そんなの意味ないことはお前が一番わかってんだろぉ?
二人がそう言って彼に近づいてくる。
だが、二人は少し近づくのを躊躇ったのだ。
それは単に生理的嫌悪なのか。第六感のようなものが働いたのか。
次の瞬間には彼は相手首をさしていた。
――――コロシテヤル。クソドモ。
これが高校生虐殺事件の真相であった。
一般的にはこの事件は全く関係の殺人鬼が来たことになっているもののここまでの犠牲者ではさすがに学校も隠せなかったようだった。
殺人鬼は最終的には自殺をしたという。
高校は流石に不吉だと判断したのか学校の本校舎を移しこの場は廃校となった。
その廃校に二つの人影があった。
それは依頼によってこの場の調査を頼まれた私立探偵常世であった。
それともう一人は人の形をした少女、鬼灯である。
「ワタシガ、ヤロウカ?」
鬼灯がそう言って常世を見る。
だが、常世はそれを拒否した。
「こういうことは途絶えさせないといけないんだ。だから、今回は祓う。」
常世は呪物である書物を開くとともにとあるページに手を突っ込んだ。
そこからはナイフ・・・小刀がそこから出てきた。
その銘は村正とあった。
それもいわく憑きの。
「・・・メズラシイ。」
常世のいつもと違う感情を見て鬼灯は不思議に感じていた。
常世は一つの教室の扉を開ける。
そこはあのいじめが起こったであろう部屋。
そして殺人が起こった場所でもあった。
そこには本来もう残っていないはずであろう"血"で染まっていた。
怨霊はその部屋に居座っていた。
そして嘆いていた。
それは殺す、許さないという意志をもって自殺した結果であった。
何を見ても殺しの衝動が抑えられないのだ。
"もう人ではなくなった彼"は常世を見るやいなや目を真っ赤にして近づいた。
ただ、殺すために。
そして同時に謝罪をした。
──ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。
「・・・もういいよ。」
怨霊が近づくとともに常世の眼が変わる。
常世の眼には五芒星が浮かんでいた。
ドスッ
次に怨霊が気が付いた時には小刀が自身の体を貫いていることを理解した。
「アリガトウ。」
ただ、それだけ言ってまるで霧のように消えていく。
「君の行為は決して許される行為ではなかった。罪深くもある。だけど、同情はする。次に生まれ変わるときはいい人生になることを
彼は何も言わず消えていった。
まるで最初から何もいなかったように。
「オツカレ。常世、ツギのトコ。ワタシガヤルネ。」
「うん。ありがと。」
鬼灯なりに気をつかったのか常世を見ることはするもそれ以上話しかけることはなかった。
その日。私立探偵の事務所には"二つ目"の小さな祭壇ができていた。
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