奇
「あ"?」
一人の男が一つの広場で足を止める。
その男は足元がおぼつかない状態であり、酔っ払いっていると言えた。
その男の視線には歪んだ空間が存在してあり、おぼつかない足取りでそれに近づいていく。
「なぁんだこれ?」
あまりうまく呂律が回っていない男であったが、自然とこのなぞの歪みに惹かれる。
そして男がその歪んだ空間に触れた瞬間男が見えていた景色は一変した。
男の達の叫び声が大量に聞こえ、そこには日本特有の甲冑を身に着けた人々が武器を持って殺しあっていた。
もちろん、殺し合いは熾烈を極めており、死体がそこら中に残っている。
その時男は先ほどの広場でささやかれていた噂について思い出した。
どうやら広場周辺では行方不明になる人が増えているらしいのだが、この広場を掘るとそこにはおそらく行方不明者と合致する白骨死体が眠っていたという噂であった。
所詮噂だと酔っ払いの男は感じていたが違うかもしれないと今、この景色を見て思うのであった。
そこからの酔っ払いの男の判断は早かった。
すぐさまUターンをしながら、初めに見ていた景色とは逆の方へと走る。
酔いも完全にとは言えないもののある程度醒め始めていた。
巻き込まれたくない一心で走る。
なぜ、この男はそういう判断をしたのだろうか。
それはこの男の家が代々引き継いできた言葉を思い出したからだ。
いわく、本来現実で起こりうることのないことがおきたときは全てを無視し逃げること。そこに無念を感じるな。
だが、逃げるとは言っても逃げる場所というのは見つからない。
隠れればいいのか。この空間から脱出できればいいのは確かだが、先ほど男が侵入したと思われる空間の歪みはなかったのだ。
歪みを探すか。隠れて音が静まるのを待つのか。
「さすがに・・・こんなの聞いてねえよ。」
男が取れる選択はどちらか一つ。
男が取ったのは
歪みを探すことであった。
脱出さえできればこの状況から抜け出せれる。
普通なら怖くて動けなくなったり、混乱したりしてしまうだろう。
だが、この男は笑っていた。
今までやってきたことは男にとってはどうでもよかった。
特になにもない人生だった。
だからこそなのか酔っているのかアドレナリンのような物質が分泌しているのか。
それはわからない。
男は思う。
この世で最も生きていることを感じれるのは命の危機レベルでスリルを味わう時だと。
走って走って走りまくる。
それはもう脱兎のごとく。
途中に刀をもった人がいようとも走るのはやめない。
もしやれるのなら反撃をしてもいいかもしれない。
そう男が考えている時だった。
数十メートルほど先に空間の歪みが見えたのだ。
男はその方向へと走る。
それに続いてか。男を殺そうとしているのか後ろには先ほどまで争っていた人々の全てが男を見るやいなやで追いかけてい行く。
甲冑を身に着けた人たちよりも男の方がわずかにはやい。
あと数メートルといえそうなあと少しだった。
一本の矢が男の肩に刺さったのだ。
「うがぁ、ああああ!」
矢は抜かない。
アニメや漫画では抜けば逆に血が出ると言われていたからだ。
男もそれにならい痛みに耐えながら歪みへと向かっていく。
しかし、明らかに男の速度は落ちていた。
そこにさきほどのような脱兎はいなかった。
まるで屈強な男に囲まれた子供のようである。
ふと、気が付けば足を掴まれていた。
男が下を向けば、右手以外の四肢を切られ本来なら死体となっているような者であった。
掴まれたことにより、男は転倒する。
だが、これであきらめる男ではなかった。
残り二メートルほどであり、頑張れば到達できるような場所にゴールがあるのだ。
ここであきらめたなら、男が廃る。そう考えた男は腕に力を込める。
肩の痛みなどすでにこの男の頭からはぽっかり抜けていた。
匍匐前進に近い形で進んでいく。
後ろにはいつの間にか屈強な者たちの姿はなかった。
そこにはミイラのような干からびた者から腕と頭だけの者であったりと様々な者がいた。
だが、そこに確実に生きていると呼べるような人物は見つからなかった。
明らかにこの世ならざるものである。
こんな場面でも男は変わらず燃えていた。
「あ"あ"あ"あああああああああああ!」
男が叫ぶのをやめたときそこは先ほどまで自分がいたはずだった。
いつも通りの暗い広場であった。
男が安心しきったその時である。
「あ"あ"あ、いっでぇよ!」
男に激痛がはしったのだ。
男は先ほど肩に刺さった矢を思い出し、肩を見る。
そこに矢はなかったものの穴は開いている状態であった。
アドレナリンなどが安心したことにより切れたのかそれとも疲れなどの影響で一気に痛みが増しているのかは男にはわからないものの、矢が突き刺さっていたであろう場所から血が流れていた。
男がもだえ苦しんでいる時だった。
男に足音が近づいてくる。
男は近づいてくる者を見ようと顔を上げようとするも急な眠気に誘われる。
「――――――――――――――。」
何かを言っているようだが、男には聞こえなかった。
もうすでに意識は深いところにまで沈んでいったからだ。
男が次に目を覚ました時にはそこは男の家であった。
「ゆ、夢だったのか?」
それにして妙に現実味があったなと思いつつも時計を見て時間を確認すると仕事の時間が近づいていることがわかった。
すぐさま準備を開始するため服を脱ぐ。
ふと、夢で肩に刺さった矢がある場所を見ればそこには包帯が巻かれてあった。
だが、不思議なことに男の肩には違和感は感じない。
包帯をとれば、おそらく矢が刺さったであろう場所は少しばかり変色していることがわかった。
矢が刺さっているところがあるならあの夢は夢ではなく、現実で起こったことなのだろう。
最後に聞こえた人が家まで運んでくれたのだろうか。
確認するも友人にはそういったメールはない。
もしかすると神様のような存在が助けてくれたのかもしれない。
そう感じた男はこの体験を守るためそしてこの不気味な怪異が危険であることを知らせるためにネットでそのことを広めるのであった。
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古戦場について
過去に散っていった人々の怨念の集合体により、生者を同じように埋めるように変化していった怪異。
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