ひたひたサマ



前回の話を少しだけ増量させたので読みたい方はどうぞ。

一応、見なくても大丈夫にするつもりです。



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僕らはとある用事で階段を上っていた。

その階段はざっと500段ほどあるらしく、そう簡単に上れるほど楽なものではなかった。

「こんなところに何があるってんだよ。」

そう声に出すのは僕の同級生である柴原という男友達だ。

「でも、こういうのもよくない?」

そう声を出すのも僕の同級生で女友達である美坂だ。

そしてもう一人おとなしめなこれまた女友達である奥井だ。

僕ら四人は大学進学のために都会に出ていたのだが久々に長期の休みがあったために故郷に戻ってきたのだ。

もちろん、僕を含めた四人ともが同じ故郷をもっているためにいわば、幼馴染のような関係なのである。

それでなぜ、僕らがこんな階段を上っているのか。

それは僕の祖父である通称、木呂じいがめずらしいことを言ったからだ。

木呂じいは基本的に元気で特別なにかあるわけでもない健康的なおじいさんだ。

だが、ときたまにおじいさんは浮かない顔をするときがある。

それは毎年夏の半ばくらいになることでそれがみんなの共通認識だった。

しかし、今は初夏と言えるくらいの月日でありそれは毎年の時期と少々異なっていた。言ってはなんだがみんながそれを不思議がった。僕だってそうだった。

小さい時から僕の祖父はよく夏の半ばにこうなっていたのにその時期が少しずれていたからだ。

もちろん、長いこと生きていればそんなことはあるだろう。

だけど、いつもの木呂じいとは少し違っていたのだ。

「俺のかわりにお参りに行って階段の上にある扉をしめてくれんか。」

その一言だった。

いつも木呂じいはこの浮かない顔になった時にどこかへと言ってはいた。

だがそれがお参りをするためだったなんて誰が思うか。

それでそれをこの三人に話せばいつの間にか四人でお参りに行くという状態になっていたのだ。

「木呂じいは昔から変な人だよな。こんな時期にお墓参りでもなんでもなく、ただ扉を閉めに行くだけだなんて。」

「まあ、でもなんかいわく憑きらしいね。その扉。ちょっとした心霊スポットにもなってるっぽい。」

「マジで?」

「心霊スポットなのは本当っぽい。どんないわくがあるのかは知らないけど。」

四人はそんな扉のお参りについてのことを話していた。

そして四人は長い階段を上りきることに成功する。

「まあ、いい運動にはなったな!」

柴原がそう言ったとき僕はあることを思い出していた。

それは木呂じいの忠告だった。

――絶対に扉を開けてはいかんぞ。俺はあそこがもうきつくてたまらんがとにかく、絶対だ。何があっても絶対に開けるんじゃないぞ。

という忠告だ。

始めはどうでもいいと思っていた。

だが、階段を上りきったその時。

僕はすごい気配を感じた。

悪寒を感じるとはこのことなのだろうか。

僕には霊感のようなものはないと思っていたがここにてそれがあるように感じた。

そして僕は木呂じいの忠告をみんなに伝え忘れていたことを思い出す。

「皆。ここの扉は絶対に開けちゃいけな・・・い。」

「?どうしたんだ。」

皆が僕を見て振り返る。

皆はまだ扉から数メートル離れており、扉を開けることはできないはずだった。

それなのに。

「開いて・・・る?」

開いているといっても10割開ききっているわけではない。

開いているのは少しだ。

心拍数が上がることがわかる。

そして扉からは奇妙な音がする。

まずは水のような液体が滴る音。

そして何かの足音。

それは人や犬などの足音ではない。

どちらかといえば、鰐や象などのどっしりとした足音であった。

そして扉からは冷気ではないようだが、何かしらの目で捉えることが可能な煙?かなにかがそこから漏れ出ていた。

「どうしたの?急に。」

美坂がそう言った。

「皆は何も感じないの?僕はどうしてもッ・・・。」

過呼吸だろうか?息がしにくかった。

僕の様子を見てすぐさまみんなが集まった。

「・・・もしかして。ここの心霊現象がおこってるとかじゃない?」

いつはあまり声に出すことがない奥井がそう言った。

「心霊現象?」

「そう。私なりに調べてみたの。ここでは昔何かを祀ってあった。その名残かなんなのかはわからないけどここでは謎の心臓発作で人が死ぬことが相次いだって噂。」

彼女はそういうと、僕の方を見る。

「とにかく一旦ここを離れた方がいいかも。」

「そしたらここをまた上がることになるだろ。せっかくここまで来たならあの扉を閉めようぜ。」

柴原がそういう。

これは彼なりの配慮なのだろう。

扉が原因ならそれを閉めて終わらそうとしてくれる。

柴原らしいと僕は思った。

「じゃあ、お願い。あの扉を閉めてほしい。」

僕がそういうと「任せろ。」と言いながら扉の方に走っていった。

走る理由は僕の容体がこれ以上悪化しないように早く解決するためだろう。

「ここの扉を閉めればいいんだな。」

柴原は扉の前に立つと扉へと手をかけた。

その時だった。

「うっ」という声とともに柴原が倒れたのだ。

それを心配して美坂が駆け出す。

「待って!」

奥井が止めるも美坂はそれを聞かずに柴原の近くに行く。

その時僕は息が苦しくなった。

何かがきている。心なしか聞こえていた足音が大きくなっていくのを感じる。

いや、心なしどころの話ではない。

ちゃんと、聞こえていた。

奥井も美坂も扉の奥にいるやつに。

そして扉から何かがでてくる。

そしてやつは美坂に向かって言った。


――ヌシが贄か?


美坂は腰が抜けているのだろうか。

目から涙こそでているものの地面に座りこんだまま立つことはない。


――ヌシが贄か?


やつは声の音量を上げそう言った。

しばしの静寂。

動いたのは柴原だった。

美坂も奥井も僕も誰もが動けなかったこの状態で一人動いた。

彼はよく見れば、汗まみれで尚且つ過呼吸。おそらくは僕よりも容体が悪い状態となっていた。

僕でさえその状態では話すことが厳しいというのに。

この状況で動けるのは柴原だからだろうか?


――では、ヌシが贄か?


奴は体の向きを変え柴原を見る。

「ああ。贄だ。」


――贄贄贄贄。ニエニエニエ


狂ったように奴はいう。そして柴原からは煙のようなものがでる。

僕はそれが何かを察していた。

あの煙は柴原の魂とかエネルギーとかそういうものだったのだろう。

奴はそれを吸うとともに体が大きくなる。

蜥蜴や鰐のような爬虫類の体に変化する。

だが顔はしわの多い老人のような顔であり、どことなく龍などの類ではないかと推測する。

だが奴は柴原を命を啜ったというのに。


――贄が足りん。


そう言った。

僕はそれを聞いてなにもできない無力さと後悔の念でいっぱいであった。

でも、まだできることはあった。

「奥井。美坂をお願い。」

「え、ちょっと待って、あなたまで。」

奥井は僕を止めようとするが僕はそれを振りほどき走る。

美坂の方に。

「美坂!」

あまりのショックさに虚無のような顔をしていた彼女だったが僕の一言で目が醒めたようだった。

僕は美坂を持ち上げる。

「ちょ、ちょっと何して。」

僕はそこまで力が弱いわけではないが本来ここまでの力はない。これも火事場の馬鹿力というやつだろうか。

僕は美坂を奥井のいる場所に向かって投げる。

勢いよく投げたわけではないから大きな怪我はしてないはずだ。

そして奴は僕を見ていった。


――ヌシが贄か?


それを聞いた僕は深呼吸をして言った。

「ああ。僕が贄だ。」




















「いいや、これが贄だよ。ひたひたサマ。」

奴は僕に近づいていたのだが、その言葉を聞いた奴は僕に近づくのをやめた。

僕も奴も声の主の方へと顔を向ける。

そこには一見女性とも見えるが男性ともとれる人物がいた。

その人物の手にはA5サイズほどの書物があった。

またその人物の"目"が少し不思議なように思える。

奥井も美坂もその人物には見覚えがないようで驚きと困惑の感情が見て取れた。

それを見た奥井はすぐさまその人物に対して声を出す。

「誰かは存じあげませんが逃げてください!」

僕は思わず囮になっているくれているのだから逃げようと思ってしまった。

だが、奥井は違った。ここまでこの化け物に関わっているはずなのに勇気が出るのは僕・・・いや柴原も美坂も知らなかったと思う。

その人物は化け物を見ながら書物を開く。

そして化け物を見て言った。

「土着神・・・触らぬ神になんとやらってやつだね。祟りか呪い。まあそれはともかく、これが贄だ。」

その人物は書物からまるでそこに何かがいるかのように書物に手を突っ込む。

その勢いは書物を突き破るのではないかと思われたがそんな様子はなかった。

その人物は書物から手を取り出すと何かが出てきた。

それは今目のまえにいた化け物と似た気配を感じた。

だが、出てきたそれは鎖のようなものが巻かれており出てきたものが動くことはない。


――コレが贄?


「そう贄。そこらの人よりもいいでしょ。」

化け物は書物から出てきたものが気にいったようでそっちへと向かっていった。

「・・・それでひたひたサマ?契約をしたいんだ。定期的に贄を提供するからむやみやたらに人を襲わないこと。そしてここら周辺の霊現象をこっちに知らせること。これで契約をしたいの。いい?」

なんとあろうことか取引を化け物に仕掛けたのだ。

僕も奥井も美坂も驚いたようにその人物を見る。


――いいだろう。贄をヨウイするのならば。


化け物はそう言って扉へと戻っていった。

トンっという音がすると扉は閉まり、おそろしいような気配は消えた。

そこには動かなくなった柴原と謎の人物。

そして僕たち三人が残っていた。

「・・・何者なんですか。あなたは。」

始めに動いたのは意外にも美坂であった。

「何者・・・。ああ、こういうものでして。」

謎の人物はいつの間にか僕たちの目の前に移動していた。

驚きはしたものの声に出すことはない。

そして謎の人物の手には名刺があった。

「私立・・・探偵?」

「そうです。とはいっても、普通の依頼が主にではなく今回のような"そういう"事案が主ですけどね。」

「なら、もっとはやくこれなかったんですか。あんたがもっとはやくきていれば柴原は死ななかった!」

謎の人物は美坂の訴えに対して何も思わなかったのか。表情を変えることはなかった。そして無表情のまま言った。

「・・・それは結果論でしょう。ここへは誰かに依頼されてきたものではない。いわゆるプライベートっていうやつです。そもそもこういうのはさっさと去ることが大事です。霊現象・・・いや、体調的な異変が感じれた時でね。まあでも次からは気を付けてください。奴はまだ優しい方ですよ。なにせ応じなければ何もなかったですからね。」

「それって応じずに黙ってれば柴原は死ななかったってこと?!」

美坂が叫ぶように言った。


「おそらくそうかと。」

「・・・何それ無駄死にってやつじゃん。」

美坂は泣き出してしまった。

それにつられ僕も奥井も少しだけ涙ぐむ。

「・・・お友達は気の毒ですがそれが運命というやつだと思います。まあでも変に人にあたるのも無理はない。今は好きにしてください。」

謎の人物は心を痛めたのだろうか。

少し美坂を憐れむような目で見ていた。

「ですが、切り替えなくてはならない。死んでしまった彼の意志を継ぐことが大事なんですよ。そしてこれからもし同じようなことがあればこの言葉を大事にしてください。応じないこと。それが鍵ですから。」

謎の人物はそういうと反対方向を向き歩き始める。

「ちょっと待った!」

僕は自然と声を上げていた。

「どうしたんです?」

ゾクッと悪寒がはしる。

謎の人物は一体何者なんだろうか。

いや私立探偵とは言っていたが、それ以外にも不可解なことが多すぎるのだ。

「いや、なんでもないです。」

「そうですか。ああ、また何かあったらその名刺にある連絡先に連絡してください。」

謎の人物は再度反対の方向に向かっていく。

そして謎の人物はこちらの方に向きなおすと言った。

「次に会うのは依頼の時で。」





この日。僕たちは化け物と出会い謎の人物にあった。

その時に一人の友を失ってしまった。後悔しかないが謎の人物が言ったようにそれが運命だったのかもしれない。

僕たちは柴原の分も生きなければならない。

生きるということに明確な目標ができた気もした。

謎の人物については名刺は渡されたけどそこに名前はなくそこにあるのは私立探偵の文字と連絡先だけであった。





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後書き的なやつ


読んでくださりありがとうございます。

不定期なので次はいつなるかわかりません。


謎の人物。

性別不詳の私立探偵

この人物のもつ書物は禍々しいエネルギーがこもっている。

人によって口調は変わる


ひたひたサマ

豊穣を祈るために祀られていた土着信仰のなれの果て

並みの怪異とは格が違う。


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