常世帰らぬ、鬼灯鳴るまで

ロールクライ

怪異:裏山

とある中学校でのお話


「いよっしゃー!俺のかち~!」

とあるクラスでは一人の男の子を中心に関係ができていた。

その子は元気で無邪気だが、決して悪いことはしない。

基本的にはいけないことはいけないことで割り切っているのだ。

そうしてその子を中心にクラスができていたのだが、一人だけその子のみしか話さない子がいた。

決して"見えざるもの"のようなそういうものではない。

一般の人にも見えるし失礼かもしれないがそもそも生きている。

だが、その中心の子・・・隆也という男の子以外は決して話そうとしなかったのだ。

ノリが良すぎるのもよくはないと思うが、ノリが悪いのも良くないということだろう。例の男の子は寡黙で基本的には言葉を発することはなかった。

話しても最低限であり、そこに友達のような感覚はなかった。

ゆえにこのクラスで浮いた存在となり孤立していたのだ。

強いて言うとするなら隆也が男の子が突き放されるのを離さずに話しかけ続けているというのが今の現状であった。

もちろん、この男の子がこんな状態であるのには訳があった。

この男の子には"見えざるもの"が見えていた。

正確にははっきりと見えるわけではなく、ほんのり感じられる程度だがまだそこまで成熟しているわけでもない現状では無理もない。

見えないものが見える。その子にとってそれがどれだけの苦痛だろうか。

この子はそれを幽霊と考えていた。基本的に人の近くにいるか影があるような暗いところにいるそれらはとても人には見えなかった。

また、この子は"奴ら"が活発になるのが"夜"であることも十分把握していた。

だが、この子も孤立は嫌だったために隆也との関係は壊せずにいた。

しかし、とある夏の日のことだった。

その日は夏休み中にある夏祭りの最中でクラスの人たちがたまたま6人ほど集まったのだ。

そこには例の男の子も混ざっていた。

夜は奴らが活発になるからこそ、普段は寝ているのだがこの子はきていた。

いや来てしまっていた。

理由は明確である。

「裏山に行って肝試し大会しようぜ!」

クラスの中心である隆也がそう言ったからだった。

隆也はどうやら心霊系にはまってしまったらしくそういうことに躊躇いがない人のみをここに集めたらしい。

最も例の男の子は行く気はなかった。

人が多ければ、たしかに"見えざるもの"は近づくのを躊躇うことが多いのだが夜の山である。何がいるのかもわからない。

そもそも、霊関係ではなく、普通にすべり落ちてしまうかもしれない。

男の子は隆也にそう言いたかった。

だが、言うことができなかった。それは言ってしまえば、あきれられて孤立してしまうかもしれないと思ったからだった。

ならば、やることは一つだけである。


見える僕が連れて行ってあげないと。


男の子はそう考えた。

親からもらったお守りだって持った。

やれることはすでにしている。何もなければそれでいい。

肝試しはみんなで裏山にある少し長い階段を上って神社の社のような小さいものの前を見る。そしてそのまま階段を下りる。ただ、それだけのことであった。

そして階段を上っていく六人。


・・・雰囲気すげぇ。ちょっと怖いな。


六人の内の一人の男の子が言った。

それを口にしたせいかみんなが意識し始めたのか。みんなはわざとらしく声を出し始める。

例の男の子は嫌な気配は感じると思いながらも足を止めることはしない。

足を止めたらダメな気がしてやまなかったからだ。

そうして社の前へと着いた。

そして例の男の子もここまで何もなかったと安心していた。その瞬間だった。

来た六人の中の一人が言った。

「あれ?階段どこいった?」

この日は月は常に出ており、暗くはあるものの階段のようなものを見落とすほど暗くはない。

いつの間にか嫌な気配も強くなっていた。

「どうしたんだい?こんな時間に迷子かい?」

突然、心配する声が発せられた。その声の主はどうやら老人のようで最初こそ皆怪しんでいたものの、老人が姿を現したことを確認すると安心するかのように座り込んだ。ただ一人を除いて。

例の男の子だった。その子だけは老人の警戒をやめなかった。

この老人を幽霊として確信しているわけではない。

ただの勘であるのだが、悪寒というものはこういう時によく起こるものだろう。

「ハイレタ。」

六人の内の一人がそういった。

突然だった。本当に突然で、そういった悪寒はなかった。

「ハイレタハイレタハイレタハイレタハイれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた。」

恐怖で体が動かないとはこのことだろう。

急に謎の言葉を発し始めた子も含めて六人は動きを止めた。

そうして改めて老人の顔を見た。

そこには人というには頭が異様にでかく、顔自体も目のそれも目玉の黒い部分が顔面の七割ほどを占めた。到底人には見えないものをしていた。

先ほどの一般の老人のような顔はそこにはなく。ただ残った三割ほどにいっぱいに口を開くバケモノがそこにはいた。

気が付いたころには五人は走り出していた。

残った一人はまだ同じ言葉を繰り返しているようで老人の形をしたバケモノはその子は無視をし、そのまま五人の方に向かい始めた。

ここは山であるはずなのに階段がないとはいえ、来た方向を戻っているはずなのに一向に下り坂にならない。それどころか風景すらも変わらないようなそんな感じがした。まるで最初から平原だったかのように。

皆逃げることしか考えてなかった。

ただひたすらに走って走って。


――そんなにはよぉはしらんでもいいやろぉ?待ってくれんかぁ?


老人の声でそう聞こえた。

その声は何度も続いた。次第にその声が少しずつ近づいてきているのも感じていた。

それに対して五人は火事場の馬鹿力というべきかごとくの速度で走り始めた。

本来ならこの五人ともそこまで足が速いというわけでもないのだが、人間の底力というものだろう。

だが、図体の関係なのか基礎的なスペックの差なのか命がけで走っているのにも関わらずいともたやすく追いつかれたのだ。


――つぅかまぇた!


「ははっ・・・。」

苦笑いしかでてこない。

捕まったのは例の男の子のみのようでそれ以外の子は一人を除いて逃げていった。

「隆也?なんで。」

「俺が無理矢理連れてきたんだから!俺が責任を取るのが当たり前だろ!」

そういって隆也は老人に近づいていく。

老人は隆也を見て口を広げる。

――おいしそうじゃのぉ。

ただ、そう言った。

早く家に帰って寝たい。

明日も学校に行きたい。

これが、夢なら早く醒めてほしい。

そう願う。

だが、これは夢ではないことを男の子が一番よく知っていた。

老人は男の子を捕まえたままだが、隆也に向き顔を近づけていく。

その中で隆也も後悔するがそれももう遅いだろう。

そして男の子は少し前を振り返る。

ああ、無理言ってでも止めたらよかったなって。

たとえ、孤立してでも、そうした方がちゃんと生きていけたかもしれない。

「隆也。楽しかった!ありがとう。」

男の子はこの状況下でそう言った。これしか言えなかった。

自身の無力さを嘆きながら。

だが、隆也も意図を察したのか言葉を返した。

「俺も!」

ただそれだけ。

隆也も男の子も目を瞑る。

だが、何かが起こることはなかった。

血の液体のような音もしない。

すごく痛いこともない。

もしかして、あの見た目で丸呑みをしてくるタイプだったのかもしれない。そう思いながら、勇気を振り絞って目を開けた。

そこには老人のバケモノの姿はなく、一人の女性・・・高校生ぐらいの黒い癖毛の長髪少女がいた。

もちろん、気絶しているようだが隆也の姿も確認できた。

「ん?ミエル?」

少しカタコトな日本語で彼女はそう言った。

「一般の出ナノニメズラシイ。」

彼女はそういうと男の子に近づいた。

「キミ。メをツケラレタ。ダカラ、ワタシ助けたい。」

そういうと彼女は一枚の紙を男の子に渡した。

「・・・なにこれ?」

恐る恐る聞いてみる。彼女に悪い気配は感じなかった。

だからこそ、大丈夫と判断し話かけたのだ。

「コレ。チカラをモッテル。アナタをマモル。デモ、確実ジャナイ。モット強いのイル。だから、その時はワタシをヨンデ。またアウとオモウから。」

そう言って彼女は消えかかる。

それを男は止める。

「アア、友達?はブジ。家族にカエシタ。」

「それはありがとう。でも最後に知りたいんだキミの名前は?」

「ソレハオシエラレナイ。ワタシのナはキミが知るベキではナイカラ。」

そう言って彼女は消えた。

見える?という発言から彼女は人ではないのだろう。

だが、自然と嫌な気配はしなかった。

あれが神さまというものなのかもしれない。と男の子はそう思った。

そして全ては彼女の手がかりを得るために男の子は交流を広げるのだった。





中学生が裏山から去ったあとのことだった。

「・・・おかしいなぁ。」

一人の女性とも男性ともとれる人物がそこにはいた。

「ねえ。鬼灯。」

その人物がそういえば、後ろからあの男の子を助けた存在である黒い少女がいた。

その黒い少女は冷や汗のようなものをだらっと流しながらその人物を見る。

「もしかして・・・食べた?いや、なにもおかしいことではないけどね。うん。元々ここは"回収"予定だったから。できれば、言ってほしいかったな。」

「うぅ・・・ゴメンナサイ。」

黒い少女はしょぼくれたようにそういった。

「大丈夫気を取り直していこう。まだいっぱい予定はあるから。」

「ウン。」

そういって二人はこの山を去って行った。



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後書き的なやつ


アイデアが浮かんだ時のみ更新ですのでだいぶ更新速度は遅いかもしれません。アイデア次第ですね。小説の書き方は毎回変わります。主人公というつもりはありませんが、最後の人物がメインになるかも


今回の怪異

憑霊

ハイレタって言葉を言わせた霊。今回でたこの霊はこれだけしかできない。ただ、力をつけていたなら体を動かすこともできたかも


老人のようなバケモノ

元ネタはたぶんない。普段は老人の形をしている。見える側の人ならバケモノ状態を素で見ることが可能。



※6月22日にこの作品を編集しました。

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