第10話 SUKIYAKI

雫と話している事30分が経ったとき、食材調達組である波留の母親である渚と蓮の母親であるすみれがやってきた


菫「食材買ってきたわよ~」

雫「遅かったじゃない。もうこっちは始める準備できてるわよ」

渚「しょうがないじゃない。おいしそうなお肉が中々見つからなかったのよ」

香「お母さん達早く始めようよ!」

雫「はいはい分かったから、あなたはもう少し落ち着きなさい」


メンバーも集まったことだし、さっそくすき焼きの準備を始める


ちなみに、3家庭の大黒柱である夫達は単身赴任やら残業やらで基本的に家にいない

といっても家族仲、それに3家庭同士の仲も良好なものを築いている。というか、各家庭が似たような環境だからこそ、意気投合をして仲が深まっている


というわけで、初めてのダンジョン探索を終えた幼馴染3人組に加え、各家庭の母親が揃ったところで「すき焼き祭り」が開催された


祭りの参加人数は6人。全員が一つの鍋に集まって具材をつつくのには少々人が多いので、この祭りの時は基本的に2つの鍋で母親組と子供組で別れて行われることが多い

そうなると、すき焼きの後の鍋の片づけが面倒くさくなりがちなのだが、そこですき焼き大好き女子の香織の出番である。彼女に任せておけば、基本的に鍋の中に何かが残ることはない。というか、最後に締めのうどんを投入した後ならタレすら飲みほさん限り食い尽くすので後片づけで気を付けないといけないのは油汚れだけである


香「ん~♪お肉おいし~♪」

蓮「ほんとによく食べるな。なんで男子の俺達よりも食べる速度が速いんだよ」

波「不思議だよね。こんなに食べてるのに、香織が体型を気にしている姿を見たことが無いし」

香「当り前じゃない。すき焼きの前にはカロリーも逃げていくのよ」

波「それ、多分香織だけだよ?」

蓮「香織のその狂気にカロリーが恐れをなしてるんじゃないか?」

香「失礼ね!私だって女の子なんだから言葉には気をつけなさいよ!」

波「それは一向に止まることのないお肉へのお箸を止めてから言うべきじゃないかな」


波留が苦笑いをしながらそういうと、不服そうな顔をした香織だが、また一口とお肉を食べると頬が緩んで機嫌がよくなる

いつもの香織なら本当に拗ねて面倒くさいことになることが多いのだが、すき焼きをしている時の彼女なら多少の無礼は許されるのだ


まぁ、つまり、お肉の前では全ての問題は些細なことなのだ


香「ちょっとお肉減ってきたんだけど!」

波「代わりに野菜が増えてることに気づいてくれると嬉しいな」

香「なによ?私に野菜を食えっていうの?」


実は香織は野菜が嫌いである。すき焼きが好きなのもタレのついた肉が好きなだけで他の具材はそれほど好きではないのだ...焼き豆腐を除き

だから、「すき焼き祭り」の時は蓮と波留は主に野菜を食べていくのだが、香織のお肉を食べるのが速すぎるので時間が経つにつれ鍋の中からお肉がなくなり、野菜が残るのだ


蓮「かーっ、まだ野菜も食えないとか香織はお子様だなwタレのしみ込んだ玉ねぎのおいしさをしらないとは」

香「いいでしょ!各自が好きなものを食べれば!野菜なんて食べなくてもすき焼きは楽しめるのよ!」

波「けど、野菜も食べれるともっと楽しめると思うんだけど」

香「知らないわよ!」


そうして俺達が口論をしていると、様子を見かねた雫が


雫「香織~。野菜も食べないと次からのすき焼きのお肉の量を半分にするわよ~」

香「えー!なんでよ!」

雫「いい加減好き嫌いはやめなさい。それに野菜も食べれないわけじゃないんでしょ」

香「だって!野菜よりもお肉の方がおいしいんだもん!」

雫「じゃあ、そのおいしいお肉を蓮君と波留君に分け与えられるくらい優しい子になりなさい」

香「う~!」


雫に諭された香織は涙目になりながら呻いていた

そして、しばらく考えたあと、鍋の中に残っている野菜たちに箸を伸ばした


香「やっぱり野菜よりもお肉の方がおいしいわ」

波「ならこの白菜とお肉を一緒に食べてみたら?」


波留の提案に乗って白菜でお肉を包んだ状態で香織が自身の口に入れると、野菜だけを食べていた時よりも表情が明るくなった


香「...まぁ、悪くないわね」

波「でしょ?」

蓮「今度からはそうやって野菜も食べてくれるとありがたいんだがな」

香「気が向いたら食べてあげるわ」


それからは野菜も適度に減らしながら3人ですき焼きを楽しんだ


渚「そろそろうどんも入れる?」

香「もちろん!うどんで締めなきゃすき焼きじゃないわ!」


渚の提案にのっとり、鍋の中にうどんを入れてすき焼きのフィナーレを迎える


香「んー!やっぱりうどんは最高だわ!」

蓮「だよなー!これだけで3玉は食べれそうだぜ!」

波「二人とも、というか香織に関しては本当に食べたものはどこに行ってるんだろうね」

香「知らないわよ。けど、おいしいものは楽しんで食べなきゃ食べ物に失礼でしょ」

蓮「野菜も食べてくれてりゃ、そのセリフは深かったんだがなぁ」

香「うっさいわね!」


スパン!


蓮「いってー!」


香織が蓮に対して蹴りを入れたのを合図に今回の「すき焼き祭り」は幕を閉じた

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