12-4
「戦えと命じるつもりはありません」
『当たり前だ。我は神の下僕ではないからな』
「アーカーブにも苦労をかけましたから、これ以上、私の勝手に付き合わせるのは心苦しい」
『はあ、心にもないことを』
「ただこの美しい世界は、灰燼に帰すに惜しいとも思うのです。彼は、そこであたふたしている男には、魔王を打ち滅ぼし世界を救う力はないでしょう。
けれど、ささやかながら可能性を秘めています。取るに足らないものかもしれませんが、あなたたちと一緒なら、終末へ向かう世界で何か一つくらいは変えられるやもしれません」
『なんて苦し紛れの下策か。あんな小僧、そこらの馬にでも蹴られてくたばるに違いないぞ』
『それが我が主人様の最後の命であるならば、従いましょう』
『おい、いいのか?あんなちんけな小僧で』
『嫌ですよ。あんなのが終生の主人になるなど。ですが、わたしも貴方も、どれだけの力を秘めていようと所詮は剣。使い手がいなければ、何もできません。
主人様の望みは果たしましょう』
「そうですか。感謝します、わが盟友アーカーブ」
水神は剣先で宙に魔法陣を描く。
「穏やかなるもの」
「湖畔の精霊」
「
「
歌うように発せられたその言葉で魔法陣は聖魔力を帯びる。そしてその中へ、聖剣と魔剣を投げ入れる。
「おわっ」
全く同じ紋様がフレキの足元にも現れ、彼はその中へと沈み込んでいく。
「転移魔術かい?」
「見逃してれるのですか。随分と優しいこと」
「その準備を怠るほど、あんたは馬鹿じゃない。僕が構築した陣地の中で魔術を行使できている時点で、なにか仕掛けがあるのは分かってる。
その代わり、大した距離の移動はできないとみた。
かれらは追手から逃れられるかな?」
「そのために私はここへ残ったのですよ。あなたは所詮『影』です。儚く消える残り香のような今の私でもあなたと渡り合うことはできましょう」
「いいね。
あんたを消し去れるなら、この
さあ、湖の乙女らしく露と消えるところを僕に見せてくれよ」
忘れ去られた都の跡で、その日、地上最後の神が消え去った。そしてそれは同時に、その神の意思を迷惑にも引き継がされたひとりの男の旅立ちでもあった。
「北へと向かいなさい。それが良いでしょう。
やはり思いつきじゃないか、ですか?
偉大なる冒険譚の多くは、ちょっとした思いつきから始まるものです。ですから、この世の終焉へと向かう旅ですが、道中を3人で楽しんで。
世界の命運などついででよいですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます