13話 聖都の人々
「そう、だから上が下かと思っていたら、実はそれは僕の世界だけで、本来なら下に落ちるはずが上に落ちていただけのことだったんだ。
それで、その塔の構造を考えたとき、下から登っていくと」
騎士団の兵装を脱ぎ、剥き出しになったその丸太のような太い腕を組んだグロカスが頭を抱える。
「そこはもういい。崩れ去った塔の内部構造なんぞ聞いてなんになる。私が聴きたいのは、何度も言うが、『魔獣』引き連れて我々の前哨基地を襲撃した件についてだ」
「ああ、もう少しで話し終えるから黙っててくれ。それで」
そこまで言って、フレキは首を捻り周囲を見渡す。
「そろそろ、日が明けそうだな。この続きは次の飯を食べてからにしよう」
「おい、何を勝手に」
「さっきの人。食事の準備をしてくれ。いや、流石にこれだけ手を煩わせるのもな。なんなら、僕も手伝おうか?」
突然に呼ばれた下女は、瞼をこすりながら牢の入り口の、扉の小窓から顔を出す。
「グロカス様。お、お呼びでしょうか」
グロカスは無言で彼の泥で汚れた顔を、埃臭い石造りの床に押し付ける。
「あまり調子に乗るなよ」
「───こっちだって、あんたらを揶揄うつもりなんてない。
ただ、あれがなんだったのかも分かってないんだ。だからそういうことはあの剣どもに聞いてくれ」
男はため息をつき、壁にかけていた濁ったガラスのランタンを手にして、底の仕掛けを使って中の蝋燭の火を消す。
そう遠くない場所で神秘的な音色の鐘が鳴り響いて、フレキの耳にも届いた。
彼らが背にした牢の、小さな窓口の向こうはすでに薄明るく、夜明け時ののっぺりとした青と鮮やかな茜色が混在していている。その空模様は、じきに日が昇れば大陸中央特有の厳しい暑さがやってくることを予感させた。
牢の扉が砂っぽい摩擦音をあげながら開いた。そこに立っていたのは、服の上からでも分かるほど痩せた男で、部下であるグロカスに目配せをする。
「お前のほら話はなかなかに聞きごたえがあったが、いまいち重要な部分が見えてこないのは。
そうだな、多分、事の重大さを理解できていないからだ。
フレキと言ったか」
フレキはグロカスに羽交締めにされながら、無理矢理に顔をその男に向けさせられる。
「俺はサリューイと言う。別に覚える必要はない。薄汚い傭兵あがりで、聖都じゃあ役人じみたことをやっている」
フレキを見下ろす、男の斜視ぎみな赤褐色の目が薄暗い牢の中に浮かんでいる。
髪や髭はよく手入れがされているが、それは死人のような顔色の悪さや、骨ばった顔の造形をより悪目立たさせている。
「役人がしていい顔じゃない」
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