12-2
『おい、水神よ。なぜ我まで手に取っているんだ。聖なる神のお前が魔剣を振るってどうする』
聖剣を突き出し、もう片方の手では、長身の魔剣を地に伏せて、独特な二刀の構えをとる。
『些細なことを気にするのですね。主人様に握っていただけることに感謝しながら、その粗末な命を燃やし尽くしなさい』
『我は魔剣だぞ。アーカーブ、お前と違って、我が持ち主に求めるのは』
「あれを見てください。邪悪な剣でしょう。テネブラエなどよりもよほど悍ましく、恐ろしい」
『ふざけるなよ。あのような剣とも呼べぬ代物に、我が劣るはずあるまい。
さては、そうやって我に力を引き出そうとしているのだな。その口車、乗ってなるものか』
「なんと鋭い指摘でしょう。
ですが、目の前にいるのは、腐っても魔王。あなたの力を借りなければならない私の心も気遣っていただきたいのです」
「錆びついた剣を振り回していてるやつに言われる筋合いもないけどね」
両者は天窓から差し込む光を挟んで、お互いの距離を少しずつ縮めていく。
「待った!!
今の僕は非力だよ。ほら、こんな大きな剣を振り回すなんて出来っこない。お願いだよ。僕はただ、人間としていきたいだけなんだ」
そう吐き捨てながら、魔王イズリールは両手で支える大剣から手を離す。すると、瞬間、その大剣は水神へ目掛けて矢のように飛んでくる。
それを見越していたように、水神は魔剣を振り上げたその剣先で、不意をついたはずの一撃を難なく逸らす。
逸らされた禍々しい大剣は、城の壁を砕いて、かれらの視界から消える。
「相手を翻弄し、騙し討ち。神々を相手に全面戦争を起こし、魔族の王とまで呼ばれようと、その狡猾さは変わりませんね」
「───狡いのはそっちじゃないかい?
僕はこの通り丸腰なのに、そっちばかり強い武器を持つのは不公平だよ。
そうだ、テネブラエを僕が貰い受けるというのはどうだろう?
ねぇ、低級魔族だった君にその力を与えてあげたのは誰だったか思い出してくれ。
さっき言ったことは、本心じゃないんだ。僕のせいで散っていったかれらのことは、片時も忘れたりしていないよ。だから、これからは僕と力を合わせて、魔族を復興していこうじゃないか。
手始めに、僕たちの天敵であるその女を打払って、それから」
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