11-5

「そんなふうに被害者ぶらないでよ。あの大戦のことなら、力を合わせて戦ってくれたそのすべての同胞に感謝しているけれど、責任はその一人一人に同じく課せられるはずだよ。

 僕みたいな愚王に心酔したかれらも悪い。

 はいおしまい。罪の擦り付け合いほど醜いことはないからね」


『かれらは、ただ闇雲に付き従ったのではない。 

 神々は我々を滅ぼさんとし、それに抵抗するためには、お前のような堕天した神々の力を借りるほかなかったのだ。

 どうしてかれらを裏切れる。

 なぜだ?

 なぜ自らが産み落とした同胞たちを、むざむざと失うようなことをした。

 どうして、我らを創りたもうたのだ』


 少年の姿をした魔王は、その幼い容姿に似つかわしくなく困ったように頬をかく。


「思いついたとき、アイデアというのはこれ以上ないくらい魅力的に煌めいているんだ。けれど、それを形にしようとこねくり回していると、次第に輝きを失っていって、手の内に収まる頃には路傍の石と見分けにつかなくなっている。

 それが創作の難しさというか」


 その言葉を口にしながら魔王は、まるで若い頃の拙作を見られた芸術家のように照れくさそうに笑う。


『あ奴らを、これ以上愚弄するな』


「はあ、そうやって変に自尊心ばかりを育んで。馬鹿な神々の愚かな部分ばかりを受け継いでしまったのが魔族の敗因だよ。

 でももう安心してほしい。これ以上君たちに関わるつもりはない。これからは人間たちを導いて、新しい時代を切り開いていくのさ。彼らはどうしようもない粗悪品だけど、だからこそ星の理を壊すことができる稀有な存在だ。

 だから君たちには、邪魔をしないでもらいたいんだ。神だの悪魔だのが馬鹿げた力で世界を一変させてしまえば、興ざめだからね」


『まさか、人間はやがて原初の胎海へ至るというのか。魔族が生れ落ちた時のように』


「そこは僕の手腕が試されるところだろうね。前回でコツはつかんだ。ちゃんと構想は練ってあるから」


『その邪魔者である我々を抹消するために、ここへ呼んだのですか』


「なんでさ。のこのこやってきたのは」


 そこで幼い魔王は口をつぐむ。


「あれ、そういえば。いったい誰が君たちをここへと導いたんだろうか」


『変なことを聞きますね。招き入れたのはあなたでしょう』


「何もかもがうまくいきすぎている。

 どうしてこうも心地よい香りがするんだろう。

 これは、神染カンゾの香だ。こんなものは地上にはないはずなのに。

 ───誰かに誑かされている?」


『あなたほどの存在を、誰が欺くことができましょう』


「とぼけないでくれ、僕を揶揄えるのは創世以来あの女しかいない。

 しょうがない。なるべく早く、『プラント』を安定させて量産体制に移りたいのに。

 せっかくできた新しい『友人』の頼み事を後回しにするのは、心が痛むなぁ」


 彼がそういうと、城の暗がりから異形の獣たちが姿を現した。その獣は、魔剣と聖剣の異様な気配に殺気立つ。


『なにかお困りみたいですね』


「いいや、自分の根城で鼠を探すぐらいは容易いさ」

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