10-5
三者はその石碑の前に立つ。そしてその巨大な円盤は、水面の上に波も立てずに浮かんでいる。
「そうか文字は読めないか」
『解析に十分な時間を割けば、記号の持つ意味くらいは構造的に推測できます』
「うん?なら今はまだ読めないんだろう」
『しかし、怪しい。この塔に人間の気配など、ならばここは放棄された、いえ、これほどの物体を浮遊させるだけの魔力は、それにこの環境で未だに稼働し続けているあたり。
──やはり別の道を探すべきでは?』
「気にすることないさ。近所の人たちも大概は文盲だった。これは大陸共通語で、一番簡単なやつだけれど、知らないからって恥ずかしがることはないぞ」
『だから、気にしてもないですし、このような』
そこまで言って、聖剣は言葉を切る。
『この文字、どこかで見覚えが』
『我々の物だ。神族を欺くために、ろくに意思疎通もできぬ魔族どもが『神魔戦争』において用いた、暗号。それが人間どもに広く知られているとなると。
我がここに導かれた
「なんだ、あの、オブなんとかを攫われて傷心してたんじゃないのか」
『ここで待っていても仕方がない。それはそうと、アーカーブ。お前は何か知っているんじゃないのか?』
『なにをですか?』
『わざわざ転移術でこの男を召喚しようと言ったのもお前だったな』
『疑うのは結構ですけれど、わたしからあなたへの不信感も増大しました。
そも人間が地上を支配しているこの時代のありようこそが何者かの意思を感じさせる。
そういえばこの塔はどなたかの嗜好が漂っているような』
『ふん、好きなだけ勘繰るといい。だが、我もお前もすでに主人なき身であろう。
水神の最期は如何様であった?』
『あなたにだけは、それをお話しすることはないでしょうね』
「なあ、おまえら。言い争いをしてないで、あの円盤をこう、近くに寄せられないだろうか』
男は石碑の先、湖のほとりから魔剣テネブラエ三本分離れた場所に浮遊する円盤を見つめている。
『だから、これは流石に怪しいので別の道を』
「だが、この場所には他に降れそうな階段もないだろう。やはり、ここに住んでいたものたちは、これに乗って、この高い塔を登ったり降ったりしていたんじゃないか?」
男はある種の興奮を抑えるように、足先を湖で濡らしながら、その謎の円盤を興味深そうに見つめている。
『こやつの言う通りだな。乗れと書いてあるのなら、乗るべきだ』
『だから、こんな場所で、それも人間の言葉で、これに乗れと書いたものの思惑を、あなたたちは感じ取れないのですか』
「うん、きっと親切な奴がいたんだな」
すでに腰まで水に浸かった男は、先に両手に提げた剣を円盤の上に投げる。
『少しは配慮をしたらどうですか。あらゆることに対して』
その時、円盤の紋様が光始める。
『ほうら、なにかよからぬものが作動したのではないですか?あなたたちのせいで』
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