10-4
『放っておきなさい。それよりも、今のうちにあの鳥に再び襲われない場所へと隠れるのが先決でしょう』
『従者を見捨てよというのか』
『決めるのは私ではありませんが』
弾かれ地面に突き刺さったかれらは、もちろん剣の身であるためにぴくりともしないが、白い花房の中から起きあがった彼に、じっと見つめられてるような錯覚を引き起こさせた。
「まるで『二頭の狼』だな」
『なんですかそれは』
「手負の狼を別の群れのが襲っているのを見た狩人が、襲っている方を弓で射った。しかしはなった矢は外れ、狩人自身がその狼の群れに襲われて命を落とす。
しかし、その行いに感謝した慈愛の神が、その狩人を蘇らせた。そして何年か経ち、ふたたび狩人は森で同じ場面に出くわす。すると今度は、死の恐怖からそれを静観してしまう。
だけど、結局は彼の住む村の家畜がその群れに襲われて、彼だけでなく村人一同が飢えて死ぬ。
故郷にそういう逸話がある」
『おい!!長々と。今必要な話だったか?オブスキュラシオが半不死の魔族だからといって』
「半不死?ほとんど不死身ということか?」
『ほとんどじゃない、半分だ』
「不死身の半分ってなんだ?」
『だから放っておきなさいと。魔蛆の生命力ならばあの程度、別に助ける必要もないでしょうと、そう言っているんですけど』
「じゃあ先にそう言ってくれればよかったじゃないか」
『だが、可哀想だろう。あんなに痛めつけられて』
怪鳥は蠢く触手を啄んでいる。引きちぎられた触手の付け根からは粘着質な体液が飛び散り、その傷口から、再び新しい触手が生えてきてを繰り返している。
「────キモいな」
つい口からこぼれたように男が呟く。
「あんなのの卵を懐に入れていたのか」
『だからそう言っているじゃないですか』
そしてついにしびれを切らした怪鳥は、翼を広げてその触手から逃亡を図る。しかし、そのわずかな間にも、怪鳥の体にまとわりついた体液が集合してさらなる触手が生まれていく。
たまらずに宙へと昂る。
『お、おい。待て、待つんだ。我が従者をつれたままどこへ行こうと言うんだ』
『どこへなりとも行ってください』
そして怪鳥は塔の淵に向かい、半ば揚力を失った凧のように滑空し、かれらの視界から消えた。
『帰ってこい、オブスキュラシオー!!』
『ふう。これで邪魔者はいなくなりましたね』
聖剣は何事もなかったかのように吐き捨てる。
『ですが、またしても振り出しに戻されたような。我々が飛び降りたのは塔のちょうど半分の高さだったように思いますが。これでは、また同じように内部の洞窟を進まなくてはいけないかもしれません』
「いいや、その必要はないんじゃないか。ほら、あれ」
男が指さす先、澄んだ湖の中央に幾何学的な紋様が刻まれた円盤が浮いている。
『なんですかあれ。どう考えても、神秘や魔術的な要素を持った装置ですけれど。あれがなんだというのです?』
「あそこの岩に文字が彫ってあるだろう。『最下層まで直通』と。これに乗れば下まで降りられるんじゃないか」
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