9-3
鐘の音がすぐそこで響く。
雨が止み、雲の切れ間からは赤い斜日が漏れ、南の城壁に深い影ができている。
「言っている場合じゃない」
「待って」
イァハは虚をついて魔獣の鼻先に痛恨の一撃を叩きつけ、南の城壁を見る。
地面を擦るような音が聞こえて、彼は城門が開こうとしていることに気がつく。
『ふん。やっとこさ、救援がやって来たらしい』
有事の際、城門は閉じる。魔獣に城内への侵攻を許した場合も同様である。さらなる個体の侵入を防ぐために、門番たちはそのぶ厚い門に
そのため、外から何者かを迎え入れるために開くということは、一部の例外を除いてあり得ない。
例外はふたつ。
ひとつは、門の向こうにいるものが城内の街を危険に晒してでも招き入れ、保護する必要のある人物である場合。
もうひとつは騎士団の対魔獣の実働部隊が通過する場合で、魔獣がかれらを襲おうが、これを殲滅できる戦闘能力を持つからである。
今、執政官や騎士団長たちは王宮におり、そもそも、王族たちは北門を用いるはずである。
ゆっくりと門が開き、夕日影の中から、馬の蹄が土を踏み、鉄のすれあう音が聞こえてくる。
傷だらけの武具をまとった50余名の男たちが、夕闇の中から現れた。
「お前たち、あそこを見ろ。ちょうど頃合いの家畜がじゃれているじゃないか。
収穫だ。速やかに討伐せよ!!」
先頭に立つのは聖都十二騎士団サリューイ隊副隊長、グロカス。彼は、頭に巻いた血の滲む包帯をほどき、それを掲げる。
「助攻、突撃!!」
声帯が裂けているかのような濁った声で号令をかける。
数名の隊員が、馬を走らせてイァハたちの元へと迫ってくる。彼らは片手で燈火具を先につけた鎖を振り回しながら、もう片方で飛び散った火花を嫌い暴れる馬を制御する。
「ヴヴァーヴヴヴァー!!」
そして断末魔のような叫び声と共に、魔獣の周りを等間隔に囲む。
熱と音。魔獣は主たる感覚を妨害され、狼狽えつつも3匹で固まって威嚇する。
「絵に描いたような蛮族だ。なあ、やつらは敵じゃないんだよな?」
「ええ、なんといえばいいか。
それよりも、この隙に」
「ヴァ、イァハ副隊長殿、アヴァー!!」
その中の1人が、イァハと男の存在に気がつく。
「アヴァ、これをお使いください。ウヴァ!!」
野蛮なのか礼儀正しいのか分からないその騎士は、馬に下げた三叉の槍をイァハに投げる。
「うお、危ない」
男が避ける前に、イァハはその槍を掴む。彼は本来ならば片手で持つことなどできないそれを、重さを確かめるように左右に振る。
「ありがとう。グラカス殿には借りができてしまったね」
「ダンナ、オレイ、イラナイ」
再びその騎兵は火の玉を振り回しながら回る輪へと戻っていく。
「主攻、準備よし。かかれー!!」
先頭のグロカスを追い抜き、槍を構えた隊員たちは一直線に、足を止めた魔獣へと突撃する。
それに合わせて、助攻と呼ばれた者たちは燃え盛る火の塊を魔獣は投げつける。
魔獣は火を怯えることはない。しかしかれらに投擲された火球は、それ相応の威力を持っている。魔獣は目の前に迫り来る脅威を前脚で振り払う。
そこへ、一切の躊躇なく槍を構えた槍騎隊が飛び込んでいく様は、まるで古代の
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