第7話 聖都ラドミラル
大陸の中央にそびえる山脈から西方に位置するその国々は、古くからイース教の聖地であるラドミアを冠した名で呼ばれる。
雨量が少なく乾燥しているが、山脈から流れる大河の恩恵を受けた肥沃な土地が広がっている。また、西方には大国のイシュタッドが横たわっている。
特に聖都ラドミラルは海洋貿易が発展した現在も、これらの要因から内陸部における交易の要所であり、経済、文化の両側面で大陸有数の都市国家である。
◆ ◇ ◇
「だから、何度も言っているじゃないですか。
現在、サイハト・サブーフ隊長は急用でいません。そんなに会いたいのなら、王宮に行ってください。
え?立ち入りの許可なんて。王宮ですよ?わたしの権限で出せるわけないじゃないですか。
じゃあ、お前が伝えに行けと?
悪いけど、これから自分も重要な任務なので、はい。はい、わかりました。
二度と来なくていいですよー」
サブーフ隊副隊長であるイァハは騎士団の隊舎に怒鳴り込んできた恰幅のいい商人の男を、あろうことか追い返していた。彼は一仕事終えたかのように、隊服の喉元を緩める。そして彼は隊舎に備え付けられた、来賓用の椅子に腰掛けると、ため息をついた。
「ったく。随分としつこいおっさんでしたね。
「あの、副隊長。不味くないですか」
その様子を見ていた部下である隊員がおずおずと彼に話しかける。
「今の東区に居を構えている、有名な豪商ですよ。ミネイ執政官とも旧知の仲だと聞きますし、流石にあの態度は」
「いいんですよ。
言伝を頼まなかったところをみるに、どうせまた『魔獣』に蔵を壊されたのなんだの。
弁償を迫るふりをして、騎士団に怒鳴り散らかしたいだけの迷惑ものですよ。
ただ、まあ。こちらも流石に無下にしすぎましたし、軽く謝っておきましょうかね」
そう言って、青い顔をしたイァハ副隊長は隊舎から飛び出していく。
サブーフ隊の隊舎は、多少歪であるが正五角形に近い聖都を東西南北に区分した場合、南区の東寄りの場所にある。
他の隊の隊舎が、王を守護する目的から、王宮の近辺に存在しているのと比較して、辺境ともいえる場所にあるといえる。いくつか要因はあるのだが、もっともそれらしい理由は、サブーフ隊の前任者の財政管理が芳しくなかったというのが有力である。
「いつまで経っても道は舗装されないし、治安は悪いし」
イァハは、酒を片手に路傍で寝転がる男を飛び越え、そのでこぼこの道を軽快に駆けていく。
曲がり角を抜け大通りに出ると、露店から漂う香辛料と熟れた果物の匂いが彼の鼻腔を刺激した。人の熱気が篭った風が頬を撫でる。
しばらく探し回るが、どこにもあの商人は見えない。そもそも、この人通りで誰か一人を探そうというのが間違いだ。
「それに、よく考えれば馬を走らせて来たんだろうから追いつきようもないか」
そのことに気がつくと、彼は自らが根っからのサボり魔であったことを思い出し、流れるようにバザールへとふけたのである。
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