6-2
「結論づける証拠は、まだ十分ではありませんが、城壁の損傷は一種の攻城兵器によるものではないでしょうか。
その形状からして、壁に階段のようなものを作り、それを利用しての壁内への侵入がおこなわれたのではないかというのが私の予測です」
「ウラヌス、お前はあの壁を越えて賊が侵入してきたと考えるのか?」
巨漢の隊長、グラスチはその談に眉を顰め、そう彼女に訊く。
「そう考えております。
もちろん南側のあの壁からでは、直接、王宮内への侵入はできません。
ですから、侵入者の目的はあくまで聖都での潜伏、諜報、工作活動と考えられます」
「我からすれば、わざわざそのような危険を犯さずとも、行商や旅人にでも扮して聖都へ入ることができようにとも思うが」
「失礼ながらそれはグラスチ殿が情報部門に疎く、警らへ全幅の信頼を寄せているからでしょう。
人相を見られず、検問を通らずに聖都へ侵入することは、それが多少の危険を孕んでいても、彼らが諜報員としてのいろはを学んでいれば、得られるメリットがあることを理解しているはずです」
サイハト・サブーフや、サリューイなどもその問答を、一方は興味深そうに、もう片一方は意地の悪い笑みで聞き入っていた。
「なるほど。彼らにとっては城壁を登ることと、検問を通過することは天秤に掛けてよいほどのことだと言うわけだな。
だが、それならば侵入した形跡を残すというのもおかしな話だと思うが。
現に、その侵入者がもし存在するのなら、最も警戒すべきウラヌス隊に目をつけられてしまっている」
「───それこそ私が皆さんにこの場で伝えたかったことなのですが」
◆ ◇ ◇
それから少しして、彼らが通された大部屋の扉が開かれる。
「みなさま、お待たせいたしました。
執政官一同の準備が整いましたので、円環の間へとお呼びに参りました」
胸元に、王家の紋様である三つ首の大鷲の刺繍が施された、定型的な儀礼服に身を包んだ、隊長たちにも見覚えがある下仕えの男が現れる。
彼はその場に集まった6人の聖都騎士団の隊長たちを、円環の間と呼ばれる場所、王宮の最奥へと案内する。
それぞれの扉の前には近衛兵が置かれ、さしもの騎士団の長であっても、その案内人に連れ立って歩く必要があった。
色鮮やかな装飾がなされてはいるが、重苦しい最後の扉を開くと、隊長たちの前に空席となった玉座と、その横に並んだ2人の執政官の姿がある。
隊長たちの内、数名は、その光景を痛ましく思った。
「王の勅令により、ここに聖都騎士団、6名が参上仕ります」
彼らはそこにあるはずの王に平伏し、しばらくの後、顔を上げる。
かれらの目線の先にある空の玉座と太々しく侍る2人の執政官が、聖都ラドミラルの現状を如実に表している。
『三匹の狐は穴掘りに夢中
一匹はそこに集めた葡萄を隠した
もう一匹は美しい雌を閉じ込めた
最後の一匹はそこに隠れて出てこなかった』
市井の人々はそのように唄った。
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