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 材木の伐採において、硬く加工の難しく根本を避けて、それよりも上部に斧を打つことは有名な話であるが、特に大樹ともなると、手の届かない場所に受け口を入れなくてはならないため、櫓を組むなど大掛かりな下準備が必要となる。


 一方でとある地域では、大樹そのものを足場として利用する技法が用いられていたりもする。


 その方法とは、幹につけた受け口に板を差し込んでそこを足場とし、斧で新たな受け口を打ち、それを繰り返すことで少しずつ登っていくというものである。


 男は半裸の状態で壁のすぐ下に立っていた。


「まず、このボロ切れをお前たちの両方に巻きつける。これがあれば途中で落とさなくて済む。

 つぎに腰ぐらいの位置、城壁の継ぎ目にを突き刺す。

 そして、確かめてみて。大丈夫ならばそこに乗る」


 男は魔剣の横幅を利用して、突き刺した剣を板に見立ててその上に立った。


「そして、次に。

 斜め上の、この辺りかな。

 を刺す」


 すぐに石垣を伝うように突き刺さった聖剣の上に立つ。足場としては狭いが、壁に寄りかかることでバランスをとる。


「そして、手にくくりつけていたボロ切れを引っ張って、足場として残していったを手繰り寄せる。

 これを繰り返す」


 男はもくもくと、即席の足場を作って城壁を登っていく。


 男は聖剣と魔剣を両手に持つのではなく、片方を手で、片方を足で触れることで、魔力と聖魔力による均衡を保っていた。


 実際、魔力と聖魔力は体の中を廻るため、両の手に持つよりも、手と足という対角にある方がそのバランスは取りやすい。


 もちろん彼はそんなことは知らないため、怪我の功名ではあるのだが。


「よし、一息つこうか」


 城壁踏破の半ばを過ぎた辺りで休憩を挟む。


『言いたいことはいくつかありますが。

 この紐を腰にでもくくりつけて普通に登ればよかったじゃないですか。こんな屈辱的な』


「重い、そして途中で引っ掛かりでもしたら身動きがとれない。

 大抵は登るよりも、降りるほうが難しいだろう。この石壁を重さをつけて登り降りするのは難しい。

 それに、足を滑らせたら」


『運が悪ければ串刺しに、いや、運が良ければお前が串刺しになるところが見られただろうな』


『方法自体は機転がきいていて、反論しづらいあたり不愉快ですね』


木樵きこりかどうかは分からんが、昔、街から来た奴らが寺院を作ると言って、近くの山で木を切り倒していたのを見たことがあるんだが。

 これと似たようなことをしていてな。

 そこからインスピレーションを受けたわけだ」


『それは、ただの木の板でしょう。よもや聖剣を足蹴にするなど』


『お前はまだいいだろう。我は今まさに尻を載せられているのだぞ』


「さあ、休んだことだし。さっさと登り切ろう」


 2本は不満を漏らしながらも、案外、不動の跳ね板に徹して、男の登頂をたすけたのであった。

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