3-2
『そうは言っても、魔力はすっからかんだぞ!』
『くっ、魔力の非常時運用もできない
なんでもいいです。何か絞り出してください』
『どうなっても知らんぞ。
いでよ、我が闇の従者────
────
魔剣の刃の腹に刻印が浮かび上がり、周囲から魔力が収束する。
が、その量はその
そして、その魔力の塊は渦を巻き、歪な卵の形に落ち着いた。
『魔蛆の卵ですか。
考えましたね、これならば魔力が枯渇していても召喚できる上に、それ自体は周囲に魔力を撒き散らす厄介者』
「あばばばざざざざ、あば」
あと少しで泥人形になろうとしていた男もそれによって小康状態となる。
『よし、今のうちです』
「う、うう」
男は魔剣を拾い上げ、今度は慎重にその隙間をすり抜けた。
「なんだったんだ今のは」
『あまり乱暴に扱われると困ります』
「喋るだけじゃなくて、光る盾が出るし、変な卵を産むし、やっぱり今からでも、元の場所に戻してこようかな」
『で、ですが、場合によっては、先ほどの盾によって攻撃を防ぐこともできますよ』
「攻撃って、野獣や蛮族がいるわけでもないし」
(くっ、明らかに不信感を抱かれています。ほら、テネブラエ、あなたからも何か言ってください)
『すまないオブスキュラシオ……必ずお前を迎えに来るからな』
魔剣は残された魔蛆の卵を万感の思いで見つめている、かどうかは定かではないが、その身に哀愁を漂わせていた。
『はぁ。じゃあなんで出したんですか』
『なっ、お前がなんとかしろと言ったからだろう』
『ちゃんと死滅すればいいのですが』
『なんだと!!』
「なんだ、あれがそんなに大事なのか?じゃあ、ここに置いていくのは可哀想だろ」
『おお、よいのか!?』
『おやめなさい。
こちらがどれだけ神経を使ってあなたの体で、聖魔力と魔力の天秤を揃えていると』
「僕の家では幼い頃、1匹の犬を飼っていてね。その犬が妊娠して、5匹の子犬を産んだんだけれど、そのうちの1匹は残念なことに死産だったんだ。
物心がついてすぐのことだったけれど、母犬が子の亡骸を懸命に舐めている姿が記憶に深く残っている。
光る剣よ。生命というのは尊いものなんだ。どんな命も決して、軽んじていいものではないんだよ」
『聖剣に命の尊さを説くなど、なんと不敬な。
分かりました。ですが、わたしは止めましたからね。あの卵の魔力によって生じる負担はあなたが受け止めなさい』
『ありがとう、見知らぬ人間よ。魔族を代表して心よりの感謝を』
卵を拾い上げると、男の顔には脂汗が滲む。
『まさか、あんなことを言っておきながら無理だと言うのではないでしょうね』
男は無言でゆっくりと歩き始める。その歩幅が小さいのは懐にしまった卵の重さだけではなかった。
『はぁ、仕方ないですね』
光のヴェールがその卵を包む。
『これならば、幾らかは魔力を抑えられるでしょう』
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