第3話 両手に剣

『分かりませんか。

 では、その空いた方の手でわたしをつかんでください』


「こうか?」


 魔剣を片手から提げ、しぶしぶもう片方で聖剣を持つと、男は緊張から息をのむ。


「─── 今のところは、大丈夫そうだけど」


『なんだ、どういうことだ。説明してみろ』


 聖剣は男に聞かせたくない話があるのか、思念の指向性を調節し、魔剣と秘密裏に対話する。


(この男は聖魔力と魔力の受容性が、極めて均等なのです)


(聖魔力と魔力、その両方を扱えるという天賦の才じゃないか。ありえないことではないが、ではなぜ我を持つことが出来なかったのだ?)


(それは、この男の受容量が生物としては極端に小さいせいでしょう。

 普通の人間がどのくらいの受容量かは分かりかねますが、だいたい魔族の1000分の1ほど。正直、水神が可愛がっていた駒鳥のほうが幾分かマシでして、内心驚いています。

 現状、聖剣であるわたしの聖魔力と魔剣であるテネブラエ、あなたの魔力が打ち消し合うことで、かれの負担を限りなくゼロにしているからこそ、わたしたちを両手に持つことができている訳です)

 

『では、なにか?魔力も聖魔力も使うなと?それでは剣が2本、木に突き刺さっているのと変わらんじゃないか。

 持ち主が魔力を使えなければ、我もほとんど力を発現できない。なぜそんな男を召喚しよった!』


(大きな声を出さないでください)


(視点を変えれば、わたしたちは今、何の力もないただの錆びついた剣で、それをこの非力な人間が両手に携えている。

 この際、贅沢は言えませんから、この男が自力で地上に戻ることを祈るほかありません)


(それに、なぜかこの男はやたらとわたしたちを置いていこうとします。

 ですから、このことはなるべくご内密に)


『で、ではわたしたちと共に、この洞窟を脱出しましょう。

 さあ、いきましょう』


「多少重いけれど、まぁいいか」

 

 男は先ほど見つけた洞窟の横穴に身を滑り込ませる。

 

 ガンと金属音がして魔剣が岩の出っ張りにつっかえて地面に落ちた。 


『おい、落としたぞ』


「しまった。早く拾わないと」


 男はすぐさま踵を返すが、今度は先に奥へと進んでいた右手の聖剣が突っ張り棒のように岩盤の隙間につっかえる。


「くそっ」


 男が慌てて手前に引き、隙間を通そうとするせいで、聖剣はガチガチと音を立ててさらに岩に引っかかる。


『落ち着いてください。まずは、剣を縦にしてから。

 まずい。一旦、わたしを離してください』


 それを聖剣への攻撃だと誤認した精霊の加護によって、剣を守る高密度の魔術障壁が展開する。

 急激に流れ込んだ聖魔力によって男は白目をむいて四肢が激しく痙攣し始めた。


「あばばばば」


『まずい!おい、アーカーブ。手から離れろ』


『無理です!聖魔力のせいで筋収縮が起きて、握った手が!

 そうです!逆にテネブラエが魔力を放出して、バランスをとってください』

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