2-5

 聖剣の光が男の、煤けた横顔を照らす。 

 彼は開いた手のひらに残った赤黒い鯖を襤褸ぼろでぬぐって、その転がった二つの剣に話しかける。


「悪いとは思う。

 でも、どうやら僕では扱いようがないらしい。もしここを出ることができたら、村の若い衆にでも拾いに来させるよ」


『諦めが良すぎるのではないですか。

 ワカイシュウが何者か知りませんが、またここへ戻ってこられる保証もありません。

 とりあえずもう一度だけでも、試してみてください』


「無理だと思うけどなぁ」


『おい、せめて我を元の場所に戻してからにしろ』


「だから。触ったらまたあの、ブワァーっていうのがくるだろ?

 腹の奥が掻き回されるみたいで辛抱堪らんよ」


 彼は魔剣を一瞥しながら、片膝をついて、それに触るか、触らないかで逡巡している。


(おかしいですね。聖魔力と魔力、その両方を拒絶するというのはありえない)


「あ、なんかさっきよりも平気かも」


(その2つは正と負というわけではなく、単に生命エネルギーのバランスの違いであり、いわばそれを受ける器が聖魔力と魔力、どちらの注ぎ口の下にあるかの違いなわけですが)


『それは確かか!?』


(そのどちらにも拒否反応が出るということは、そもそも器が存在しないということに)


「あー、後からくるわ」


『またしても投げ捨てるとは何事だ!』


『少し黙ってください』


 痺れを切らした聖剣はその白銀の刃を妖しく光らせる。


「まってくれ。いけるかも」


 男は、今度は力強く魔剣を握り、突き出すように腰で構える。


『なっ』


『ふはははは。やはりこやつは魔の才があるではないか』


「でも、なんだかむず痒いような」


 男は、左右に揺れながらバランスをとる。


『なるほど。理解しました』


『なんだ、まだいたのか。残念だったなアーカーブの聖剣よ。お前はここであと1000年ほど待つといい。その間、雨垂れに打たれてその意固地な自我をほぐすといい』


『まだわからないのですか』


『なんだと?』


 聖剣がその身に宿る光をゆっくりと消していくにつれて、男の表情が曇る。


「うっ、まただ」


 そして聖剣の光量が増すと、再び穏やかな顔つきになる。


 次いで、点滅すると、もはや顔芸のように忙しなく変化する。


『本当になにをしているんだおまえたちは』

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