2-3
『お待ちください。これはあなたにとっても、とても重要なことなのです』
依然として、岩壁の隙間に体をねじ込もうとしている男に、聖剣がその抑揚のない声なりの、最大限に親しみを込めた口調で話しかける。
『たとえば今あなたがしている、愚かな、失礼、見栄えの悪い行動も、聖剣であるわたしを手に取りさえすれば、難なく完了するでしょう。
岩どころか、鉄さえ両断する一撃をご覧に入れて見せましょう』
「なるほど」
男は手を止め、聖剣の方へ振り返る。
『いいや』
それに横槍をいれるのは、当然ながら魔剣である。
『岩を切る?笑わせるな。岩盤の一枚や二枚、両断したとしても。どれほどの労力がかかるか。
我ならば、鉄をも溶かす熱線を放ち、大穴を開けることができよう』
「なるほどなぁ」
男はしばらく考える素振りをして、作業に戻っていく。
『な。今のわたしたちの話を聞いていなかったのですか!』
『せめてどちらかの言い分を聞き入れるべきだろう!ここから抜け出す気がないのか!』
「ここでおかしな喋る剣と仲良く埋葬されるつもりはないよ。
だから言わせてもらうけど、こんな地中、なのかは知らないけれど、そんな場所で暴れたら落盤で僕はぺしゃんこだよ。
熱線?鉄が溶けるなら僕だって丸焦げだよね。
そもそも、みるからに重たそうな剣を背負ってここから這い出そうなんて馬鹿馬鹿しい。
あ、この隙間、奥に空間が」
『分かりました。それではひとりで行くといいでしょう。
しかし、無力な人間が果たしてこの先に待ち構える危険を乗り越えることができるでしょうか』
「それは、どういう意味だ?』
『いえ、お気になさらず。所詮、錆びた鋼の戯れ言にすぎませんから』
『おい、我にも分からんのだが』
『地よりも下は魔の者の棲家ですよ。果たして無事に地上に出られるか。
下級の魔族といえども、人を狩り、そのはらわたを啜るくらいは造作もないでしょう』
ごくりと男は生唾を飲んだ。
『近くに魔族はおらんぞ。なぜなら我もこの数千年、さんざん呼びかけ続けておったからな』
「だそうだが」
『テネブラエ、ほんとうにあなたは。腐れきった知性しか持たないようですね』
『なぜ我が罵倒されねばならない!?』
聖剣はため息をつくように、カタリと柄を鳴らす。
「でも、確かに。何かあった時のために、どちらか一方だけでも持っていれば役に立つかも知らない」
予想外なことに、男はその意見を聞き入れようとしている。
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