第37話 秀頼 備前岡山に現れ桃太郎になる 改訂版

※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


 空想時代小説


 瀬戸内海を船で抜けて、秀頼らは備前岡山へやってきた。岡山は福島正則が広島から移封されて治めている50万石の大藩である。先の諸侯会議には病に伏せっていた福島正則が参加していたが、その後に亡くなっている。今は福島正利(23才)が城主である。関ヶ原の戦いの時の猛将はほとんどが他界していった。残っているのは上杉景勝と政宗と島津家久ぐらいなものだが、3人とも関ヶ原までは行っておらず、自分の領地の近くで戦っていただけである。


 秀頼らは新城主へのあいさつをかねて、岡山城へ出向いた。正利は快く出迎えてくれた。世代交代になり、豊臣方・旧幕府方という意識は薄らいでいる。

「秀頼公、よくぞ参られた。長きの諸国巡見お疲れさまです」

「うむ、諸国巡見も7年目となった。正利殿こそ城主らしくなっておりますな。以前にお会いした時は、正則公のお付きの人としか思えなかったのですが・・」

「いやいや、今でも日々新たなことがありまする。すべては家臣の助けによるもの」

「殊勝なお考えじゃ。上に立つ者は感謝の念を忘れてはいかん。一人で世を動かしていると思う主君は破滅の道をたどるだけじゃ」

「そのお言葉、肝に命じます。ところで、ひとつ秀頼公にお知恵を拝借したいことがあります」

「ほー、どんなことじゃ?」

「はっ、実はこの地には鬼がいます」

「正利殿はおもしろいことを言う。桃太郎の国とはいえ、鬼がいるわけはない」

「拙者もそう思っておりますが、民や家臣がそう申しているのです」

「ほー、どういうことじゃ?」

「実は、国境(くにざかい)に鬼ケ城(きがじょう)という古代の城があります」

「鬼が島ではなく、鬼ケ城が実際にあるのか?」

「桃太郎の話はそこからきたのではないかと思います」

「して?」

「鬼ケ城は大和朝廷の時代に造られた城です。朝鮮に大和朝廷が遠征して敗北した時に、朝鮮に対抗するために造ったのです」

「大和朝廷が百済再興のために戦った時だな」

「そうでございます。ご存じのように元寇まで朝鮮は攻めてくることはなく、鬼ケ城は廃城となりました」

「そこに鬼がいるのか?」

「という家臣や民の話です。時に麓にやってきて、食べ物を奪っていくというのです」

「野盗のたぐいではないのだな」

「集団ではまいりませぬ。それも夜更けのことなので、はっきりと見た者はおりませぬ。ただ、それらしき大男が鬼ケ城の方に去っていくのを見たという者があるのです」

「以前、海の近くの山に難破した異人が住み着き、鬼とおそれられた者がいたぞ。今は政宗公の家臣になっているが・・」

「異人ではないと思います。言葉を聞いた者がおりますので・・」

「となると、浮浪者が住み着いたのでは・・」

「と拙者も思い、家臣を派遣したのですが・・石落としや落とし穴といった罠にやられ、見つけることができませんでした。それ以来、鬼ケ城に近づく者がおりませぬ」

「それで我らに確かめてくれということか? まるで桃太郎だな」

「放っておいてもよいのですが、気になっていることで、己れの力ではどうにもならず、困っておったところです」

「わかった。これも武家監察取締役の仕事である。鬼ケ城に行ってみよう。城めぐりは嫌いではないからの」

「ありがとうございます。罠にはくれぐれもお気をつけくだされ」


 翌日、秀頼らは鬼ケ城に向かって出発した。まさに桃太郎の一行である。義慶は大助に話しかける。

「桃太郎には3匹のお付きの動物がおりましたな」

「犬と猿と雉だ。雉は太一で間違いないな。犬はわしで、義慶は猿だな」

「拙僧は猿か! その割にはでかいぞ」

「それならば大猿だな」

 と二人で悪口のやりとりをしている。


 鬼ケ城の麓の村の番所に来て、大助が様子を聞く。

「鬼は単独で動いておりまする。夜更けから朝方にかけて出てきております。庭先に置いてある野菜や鶏が奪われております。人が危害を受けたことはありませぬ。二度ほど見かけた百姓が追いかけたのですが、鬼ケ城に行く途中で見失いました。その際に、ばかやろう! ついてくるな! と言われたそうです。我らも捜索しましたが、途中で落とし穴にあったり、槍ぶすまがとんできたりということで、けが人がでました。それ以来、足を踏み入れておりませぬ」

「そうか、苦労されているな。我らは鬼ケ城に行ってみようと思うのだが、道を案内してもらえる者はいるか?」

「それは難しいと思われます。皆、怖がっておりますし、番所もけが人がでて、今手薄でござる」

「そうか、それでは道はわかりやすいか?」

「峠までは一本道でござる。峠からは右に曲がり鬼ケ城に行く道がありますが、今は獣道同然でござる。ただ上に上にと行けば鬼ケ城につきまする。城は岩場になっておりますので、見晴らしはいいのですが、鬼の棲み処はわかりませぬ。おそらく、どこかの穴倉にいるのではないかと思われます」

「だろうな」


 そこで、番所で竹槍を2本譲り受けた。落とし穴をさぐるために、これを突きながら歩くのである。峠道は旅人も歩くということで何もなかった。問題は峠から城に向かう獣道である。初夏に近づいているので、草が生い茂っている。落とし穴があっても目ではわからない。先頭で歩いていた大助が、竹槍を突いたらぐさっと刺さるところがあり、そこで足を止めた。何度も突くと地面が落ちた。初の落とし穴である。大助は見つけたので自慢げである。ここで先頭交代。今度は義慶である。義慶の足取りは遅い。及び腰である。何が出てくるかわからないので、びくびくするのは無理もない。

 すると、ガサガサという草の音。義慶は驚いて飛び退いた。現れたのは太一である。

「太一、おどかすでないぞー!」

 と義慶が涙声で言うと

「おどかすつもりはござらん。義慶殿が勝手に驚いただけでござろう」

 と太一がふてくされて言う。秀頼と大助はそのとおりだと笑みをこぼしている。

「それで、太一何かあったか?」

 と大助が聞くと

「はっ、この先に槍ぶすまのしかけがありまする。ひもに引っかかると、木にぶら下がっている竹槍の束が落ちてくるしかけです。その先には石落としのしかけがあります。おそらく槍ぶすまの音で鬼が石を落としてくるのでしょう」

「そうか、よく知らせてくれた。ということは槍ぶすまをやり過ごせば、石落としにも合わぬということだな」

 と秀頼が返すと、大助もうなずいた。そこで、その場をやり過ごすことにし、無事岩場に着くことができた。獣道を避けたことで、罠にひっかからずに済んだのである。岩場から見ると、麓がよく見える。平地だけでなく瀬戸内の海も丸見えである。大和朝廷がここに城を造った意味がわかった。

 その日、暗くなるまで鬼の棲み処を探したが、見つけられなかった。皆、足がくたくたである。そこで、適当な穴倉を見つけて、そこで一晩を過ごした。義慶のいびきがひどくて、秀頼は寝不足となった。大助は慣れているらしくぐっすり寝ている。

 翌朝、またもや鬼の棲み処さがしを始めようとすると、太一がやってきて

「殿、足を棒にして探してもらちがあきませぬ。ここは鬼を誘い出す方がいいのでは?」

「そんな手があるのか?」

「簡単でござる。例の槍ぶすまを落とせばいいのです」

「そうすれば石落としの場に鬼がくるか!」

 と大助が驚嘆の声をあげた。皆、納得した。そこで、役割分担を行った。太一が槍ぶすまの仕掛けに向かい、後の3人は石落としの仕掛けで待ち伏せ担当となった。

 陽が登って、あたりが明るくなったころ、太一が槍ぶすまの仕掛けを落とした。ここまではっきりと聞こえる。すると近くで物音がする。秀頼らは身構えた。すると、熊の皮をかぶった男が現れた。石落としの仕掛けに陣取って下を見ている。

 ゆっくりとその男に近づく。すると、その男は人の気配に気づいたのか、秀頼の方を振り返った。抵抗するかと思いきや、へなへなとその場に腰を下ろしてしまった。武器も持っていないので、危害を加える気はないようである。大助が問いかける。

「お主はだれじゃ? 名はなんという?」

 その男は観念したのか、すらすらと話し始めた。

「拙者は武者六右衛門と申す。かつての宇喜多家の家臣でござる。前は、落ち武者仲間と一緒に山あいの村で過ごしておりました。ですが、一人二人と仲間が亡くなり、拙者一人だけとなり、それで鬼ケ城の穴倉に住み、鬼を気取っておったのです。ここならば、だれも来ませんから」

「そうか、落ち武者であったか。殿、どうされますか?」

「そうだな。このままというわけにはいかんだろ。かといって、厳罰にするほどの罪ではないし、麓の村で罪滅ぼしに働くということではどうかな、のぅ、六右衛門殿」

「お助けいただけるのか、それはありがたい。罪滅ぼしで何でもいたします」

 ということで、六右衛門は麓の番所に連れていかれ、そこで小屋を与えられ、番所の下働きをするようになった。最初は気味悪がった村人も、慣れてくるとやさしくなり、余った野菜とかを持ってきてくれるようになった。

 そのことを城にもどって、城主の福島高利に報告すると、いたく喜んでくれた。

「桃太郎並みの活躍でありましたな。さすが秀頼公、感謝申しあげます」

 高利から、たくさんの路銀をいただけたのは言うまでもない。大助は懐が豊かになったので、ほくほく顔であった。

 次の目的地は兵庫姫路である。天下の名城を見てみたいと秀頼は思っていた。

 朝に宿を出る秀頼らを、2階の部屋からながめているおなごがいた。加代である。ずっと秀頼らを見ているようであった。

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