ステップ

 胸の裡をなんと呼ぼう。

 これより後は遠駆けすることもない私。しかし憐れむ者は誰もない、我が身。

 海が近いそうだ。平原より見晴るかす、冠のように故郷を縁取る山並みの先の土地は。私は海を知らない。黒いと聞く。青いとも聞かされた。常にざわめく、得体の知れない水たまり。

 友と馬を駆るのが好きだった。草叢と空の間に溶け合い、そこでは私も、かれも、消え失せる。境目はなく、どこまでも平らに広がる。それは一種の風だった。またたきのように過ぎ去り、けれども心の片隅を永久にさざめかせる。

 しかし、遠からず私は癇癪を解いて帰途につく。母に詫び、衣装に最後の一針を入れる。明朝には「私」というおんなを飾り物で縁取り、出立することだろう。

 それでいてこの瞬間、独り馬を駆る私の幾ばくかは千切れて離れ、平原を永く吹き渡るはずだ。

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