桜
暗い赤茶色のことを銅の色、あかがね色っていうそうだ。でも、俺から言わせたらピカピカの十円玉の色にはピンクが混じっている。血のような赤っていうより、もう少し根の明るい、かげりのないピンク色の気配が。
例えばそう、一日中快晴だった四月のある日を締めくくる、この夕陽みたいな。ピカピカで、キラキラで、あかがね色に光る俺の町までがなんだか新しいような。
俺は帰るのが惜しくて、夕飯時の慌ただしさに巻き込まれるのをほんの十五分ばかし先延ばししたくて、公園のブランコに揺られながらリアルゴールドを飲んでいる。
完璧な春の一日が終わろうとしている。
俺の視線の先には桜の木がある。じっとしていなければわからないほどの微風に乗って、桜の花びらが散る。はらはらと、雨のように、けれども音もなく。
道の向こうから、クラス一の不器用者がわたわたと歩いて、いや、本人は走っているつもりなのか?ともかく、危なっかしく道を渡って公園に入って来た。
けつまづいた拍子に桜の幹に寄りかかって、その衝撃で花びらがぶわりとそいつの頭の上に降りかかった。
わあ、とも、ぎょえ、ともつかない声を上げて花びらを払いながら、それでもそいつは俺の所へやってくる。
「な、泣いてる?」
「いんや。風景を眺めて浸ってた」
ふたたびうめき声。お邪魔してすみませんと、すごすご帰る後ろ姿を呼び止めて、そこの自販機でジュースでも買って行きなよ、と俺はいう。
こんな気分のいい夕暮れだから、道連れが欲しかったのかもしれない。
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