文章訓練

納戸丁字

 空の混じりけのない青色に比べると、湖面の水はいささか碧がかり、黒ずんでいる。陰の濃さがさざ波立つ湖面にリズムを与えた。静かに、明白に。


 白、碧、黒。明滅する湖面。陰影にはどこかに誘うような、どこにも行かれないような調子が漂っている。


 ここは終着点だ。湖に流れ込む水は、ここより先のどこにも行かれない。水に死の概念があるならば、ここはあの世にもっとも近い場所だろう。水蒸気となって天に昇った先、雲はさながら死後の世界の住人だろうか。


 雲のふちは日光を背に受けて飴色に滲んでいる。雲間から差し込む日光が、湖面を明暗に大雑把に塗り分けた。

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