5.日本最強の配信者。
「ふわああああああああああああああ!! エイト様、見てください! ビルがたくさんあって、人もこんなに歩いてますよ!?」
「ははは。ラスト、新幹線からずっとそんなリアクションだな」
「し、仕方ないではないですか! 私はあのダンジョンの外は知らないから……」
俺は興奮状態な少女の姿に、思わず笑ってしまう。
頭を撫でると、ラストは少し不服だったのか頬を膨らしていた。
池袋はいわずもがな、大都会東京における一つの地名だ。
地元とは比べ物にもならないほどたくさんの人が当たり前のように闊歩しており、慣れない間は少し気を抜くと迷子になってしまう。俺は首都圏の大学に通っていたわけではないが、アクセスも良いため息抜きに何度か訪れたことがあった。
そんな自分でさえも、いまだにこの街の本当の顔は知らない。
それに――。
「……でも、前まではここまで規制されてなかったよな?」
少なくとも、俺が足を運ばなかった期間に異変もあったらしい。
たしかにラストの言う通り、人の数にかんしては地元と比べ物にならないほど多かった。しかし目の前の池袋には、以前ほどの人通りはない。
その代わりに増えているのはダンジョンの入り口。
小さなものから大きなものまで、数えればキリがないほどの歪みが生まれていた。
警察による交通規制や誘導が活発に行われている様子を見るに、異常事態であるのは間違いないらしい。
「何がどうしたって言うんだ?」
「……ふむ。どうやらこの一帯のダンジョンは、少し異質なようです」
「異質……?」
俺が首を傾げていると、答えたのはラストだった。
異質というと、他とは違うのだろうか。
「基本的にダンジョンは、個別に独立しています。互いに影響を受けることは少なく、内部に存在する主を倒せば崩壊しますから」
「だったら、池袋のダンジョンは……」
「そう、ですね――」
――互いに影響し合っている。
ラストがそう結論を述べようとした時だった。
「へー、新人の割に詳しいじゃん?」
「この声って、まさか……」
こちらを小馬鹿にした声が背後から聞こえてきたのは。
俺たちが振り返ると、そこにいたのは青に染めた髪を風になびかせる女性。カラコンを入れているらしく、左右で瞳の色は異なっていた。勝気な印象を受ける眼差しに対して、顔立ちはまだどこか幼さが残る。
ひどくダメージを受けて片方が短くなったジーンズに、どこかのブランドものらしいシャツをだらしなく着用。全体的にかぶいた印象を受けたが、一番目を引いたのは肩に担いだ得物だった。
「レヴィ、だよな……?」
「ああ、そうだよ。さすがにアタシのことは、知ってるみたいだね」
身の丈以上の大きさをした剣。
それを片手で軽々と扱い、女性――日本最強の配信者、レヴィは口角を歪めた。決して大柄ではなく、平均的な背丈をした彼女だが、こちらを試すような視線にはどこか迫力がある。ペロッとだした舌をよく見ると、先端にピアスを開けていた。
カラカラと鳴らすその姿は、まるで蛇のようでもある。
「それはまぁ、有名な配信者だからな」
「はっ……『有名な』配信者、か」
「……ん?」
俺の答えに対して何か思うところがあったらしい。
レヴィは一つ鼻を鳴らすと、こちらの言葉を意味ありげに繰り返した。しかし意図が分からずに首を傾げていると、彼女はどこか気怠そうに息をつく。
そして、にじり寄るようにした後に俺を睨み上げて言った。
「……いいか、新人。言っとくが、アタシは『やらせ』が大嫌いだ」
思わず息を呑むような至近距離。
幼いながらも綺麗な顔に、俺はつい黙り込んでしまった。
「もし前の動画がそうなら、タダじゃ済まさないからな……?」
「あ、あぁ……」
精一杯の抵抗で一言返す。
するとレヴィは少しばかり不満げに舌を打って、自身の撮影班のもとへ向かうのだった。不意打ちを食ったような状態の俺は、そこでようやく深呼吸をする。
そうしていると、傍らのラストがぽつり……。
「どこか気に食いませんね、あの女性……」
「……は、はは」
低い声で不穏なことを口走るので、俺は苦笑したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます