3.最適解。
――平日の昼下がり、某掲示板の配信者監視スレ。
衝撃の新人配信者デビューの余韻が残る中、そこにある一本の動画リンクが貼られた。最初は誰もが訝しんだが、ウイルスの類ではないらしい。
そしてリンク先は、超有名な動画投稿サイト。
捨てアカウントを使ったらしいそれには、仮面を着けたの配信者の姿があった。
『なんだこれ』
『見た奴、報告してくれるか?』
『たぶんだけど、音声は後から入れてるかな』
カメラに向かって、真正面に立つ配信者。
すると、その背後からは巨大なドラゴンが計四体も姿を現した。配信用の撮影ではないためか、映像はより鮮明だ。加工か加工でないか、議論の余地はいまだあるが、少なくとも何かしらのメッセージ性は感じられる。
『これって、ホンモノ?』
『本物のわけがないだろ、ドラゴンだぞ』
『でも、なんだってこんな動画を投稿したんだ?』
掲示板の住人たちが不思議に思っていると、配信者が語り始めた。
【私の名は『エイト』――すべての魔を従える『支配者』である】
そして、彼が手をかざす。
すると後方に控えたドラゴンは、まさに従うようにして頭を垂れるのだ。あまりに自然な動きに、スレ民たちからは様々な憶測が飛ぶ。
だが自らを『支配者』と名乗った配信者は、さらに言葉を続けた。
【私は世界に宣戦布告する。人間たちが認定した最難関とされる六つのダンジョンを踏破し、必ずや真なる『魔王』として君臨してみせよう】――と。
それは、あまりに荒唐無稽な宣言。
世界中が首を傾げるような、馬鹿馬鹿しい夢物語だった。だが、
【まずはその第一歩として、池袋ダンジョンを我が物顔で闊歩する魔物たちを手中に収めてみせる。決行日は来週の水曜日、いまから九日後だ】
どこか、無視できない。
不思議と人を惹きつける彼の言葉に、掲示板を始めとする各地の人々が耳を傾けた。そして、心のどこかで期待をするのだ。
この配信者なら、あるいは――。
【私は逃げも隠れもしない。好奇心に駆られた配信者は、我が覇道に刮目せよ。その目に焼き付けて、未来永劫、語り続けるが良い】
――自分たちをより大きな熱狂の渦へ、誘ってくれるかもしれない。
動画の再生が終了し、言いようのない期待感だけが残された。
そして、スレ住人たちは相談を始める。
『おい、どうする……?』
『どうするって、九日後に池袋だっていうなら行くしかなくね』
『だけど、誰がダンジョンの中までついて行くんだよ?』
だが誰も、自分からは動こうとはしなかった。
みんなが互いを様子見していた。
その時だった。
【アタシが同行するわ】
とある有名配信者が、件の動画にコメントを残したのは……。
◆
「思ったより、反響があったな……」
俺は動画の再生数を見ながら、夜食を口に運ぶ。
にわかにコメント欄は盛り上がっているが、それでもまだ小馬鹿にするようなものは存在していた。ある程度は覚悟していたから問題ない。またそれ以上に、反応を示した一人の配信者の方が、大きな収穫だと思えた。
「日本でトップクラスの女性配信者――『レヴィ』か」
完全な実力主義を掲げ、映像の加工などは極端に嫌う。
ある程度の演出で再生数を稼ぐ一般的な同業者とは違い、彼女の売りはすべてがスタントマンなしのアクションであること。そんな彼女からお墨付きがもらえるなら、俺のブランディングとしてはこの上なかった。
一か八かの賭けではあったが、どうやら成功したと考えていいらしい。
「さて、あとは……」
このまま問題なく事が運べば、言うことはない。
俺は夜空に浮かぶ満月を見上げて、人間らしく祈るのだった。
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