第1章

1.今後の方針決定。






「ところで、これから俺は何をすればいいんだ?」



 ――実家に帰ってきて、早一週間が経過した。

 俺は両親の仕事、その雑用をこなす傍ら、毎日ダンジョンへと足を運ぶ。そうしていると記憶がないなりに、ラストとの距離も縮まってきた。


「そうですね。エイト様の記憶を取り戻すのが最優先、とは思うんですけど……」

「そのためには確か、純粋な魔素が必要、だっけ?」

「はい、その通りです」



 口調も幾分か柔らかくなり、玉座に腰かけていてもずっと隣にいる。

 頭を撫でてやると、決まって蕩けたような笑顔を浮かべるのが愛おしかった。そんな毎日も良いものではあるが、いかんせん記憶がないのは不便だろう。

 俺にはもちろん、人間としての知識や思い出もある。

 だけど自身の真相が分からないのは、非常に居心地が悪いのだ。



「純粋な魔素、ってなるとダンジョンの奥にあるのか?」

「はい。世界各地に点在するダンジョンの中でも、特に強力な残り六つの地点、ということになるかと」

「あー……もしかして、それってSSSランクダンジョンのこと?」



 そのため、今後の方針を固めようと考えたのだが。

 ここで大きな問題にぶち当たった。



「SSSランク、ダンジョン……?」

「あー、そうか。ラストはずっと、ここにいたから知らないのか」



 首を傾げる少女に、俺はしばし考えてから説明する。



「俺たちがいまいる地球上には、特に危険とされる六カ所のダンジョンがある。それで危険度に応じて、ダンジョンにはランクが付けられるんだけど――」

「なるほど。それが、俗にいうSSSランク、ということですね?」

「理解が早くて助かるよ」



 聡いラストは、これだけの情報でしっかりと分かったらしい。

 俺も聞きかじった程度の知識なので、そのダンジョンがどこに存在しているか、というところまでは知らない。

 しかし肝心の問題は、そこではなかった。



「一つは東京の渋谷にある、って話だけど。それ以外にも足を運ぶ、となると……」

「エイト様。いかがなさいました……?」

「まず、旅費がない」



 俺が言うと、少女は小さく首を傾げる。

 どうやら世間の常識などには疎いらしいので、簡単にまた説明した。



「――なるほど、ですね。つまりダンジョンへ赴くにも、資金がない」

「元々の世界がどうだったか思い出せないけど、地球はほとんどが海だからな。特に日本なんて、島国だし」

「海とは、なんですか……?」

「あ、海も知らないか」



 何はともあれ、今後の当面の目標は資金繰り、となる。

 俺はそのことについて、必死に考え込む。だが正直なところ、内定取り消しで戻ってきた自分に、そんな莫大な金を用意できるはずがなかった。

 だがこれについて、あまり時間をかけたくはない。

 あるいは、世界を旅しながら金銭を得るような方法があれば――。



「…………あ、そうだ」



 そこで俺は、一つの閃きを得た。


 あるじゃないか。

 世界各地のダンジョンを巡りながら、資金を手に入れる方法が。



「そうとなれば、善は急げ……ってことだな!」

「…………?」



 俺は勢いよく立ち上がり、拳を握りしめた。

 そんなこちらを見て、少女は不思議そうに首を傾げていたが……。



 

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