10:伊達に姫様じゃない

「妾も連れて行きなさい!」


 おしりペンペンの後に、恍惚とした表情でそんなことを唐突に言われても……マリー・ベルを見ると、困った顔で、うなだれた。


「まあ……そうするしかないだろう。放置していくわけにもいくまい。王都へ向かうのだから、丁度いい」


「一人で帰れるじゃんこいつ」


「帰る保証がないから……」


 ああ、そうだよな。護衛もとい監視役を置き去りにして一人でこんな田舎までやってくる奴だもんな。


「どうしようもない奴じゃな!」


「ツッコミ待ちか?」


 ニケ。おま言う。


「……まあ、いいか。でも、王都までの道すがら、王女様気分で偉そうにされるのはちょっと勘弁してくれよ。不敬罪なし。無礼講でいこう」


「ふん、ソーマと言ったわね。妾がそんなに卑しい女に見えかしら? 自分のケツくらい自分で拭けるわ! そこら辺のか弱い守られ系お姫様と一緒にしないでいただけるかしら!」


 自信満々にローラン姫はふんぞり返った。そういう偉そうなとこなんだが……まあいいか。無礼講の許可は下りた。


「よし! よく言った! だったらしっかり……働いてもらうぞ! なんせ俺たちは――金が無い!」


 清々しいまでの無一文!

 王女に四天王に魔王と揃っておいて、ネームバリューが大きいだけの貧乏パーティーが俺たちだ!

 このまま旅に出られるか! 三日で野垂れ死ぬわ!


 しかも死ぬの、俺だけ!

 マリー・ベルもローラン姫も、いざとなったら高速移動の神力でもってすぐに帰れるんだもんな!

 俺だけが死活問題! まああとニケもだけど、神は飢えて死ぬのか? わからん。


「というわけで、この町でいったん、金策しまあす!」


 そんなわけで、話し合い。

 三人寄れば文殊の知恵だ。何かしらいい金策の手段があればいいが……。


「なら、私とソーマで、ダンジョン攻略のレクチャーと、未踏破ダンジョン攻略の援助をしたいと思う。私の四天王としてのブランドがあれば、多少割高であったり、前金を貰ってもいいかもしれないな。あとは姫もできれば何か、お願いします」


「……マリー・ベル。なんであなたとソーマが一緒で、妾が一人なのかしら?」


「ソーマは邪悪の衝動を抑える訓練をまだしていないので、発症した場合には私にしか止められないんです」


 まあ確かに、魔王としての俺が暴れ出す可能性はゼロじゃない。だからマリー・ベルと共に旅をするわけだし、この提案は理にかなっている。


「それじゃあ、この邪神はなにをするのよ」


「われは神ぞ? 貢ぐのだ! わはは!」


「えーっ! 嫌よそんなの! ずるいわ!」


「大丈夫だ、ローラン姫。自分の食い扶持を自分で稼げない奴は飯抜きだ」


「えーっ!」


 雑草取りとか、ドブ晒いとか、いろいろ仕事はあるだろう。

 人の役に立つことで、世界征服なんて邪悪な思惑はきれいさっぱり、汗と一緒に洗い流してこい。

 こんなもんで、決まりかな? と思ったが、明確な役割を与えられていない二人は微妙な面持ちだ。


「そもそもなんだけど、なんでバラバラに稼ぐ必要があるわけ? みんなでダンジョン攻略なり魔物対峙なりすればいいんじゃないかしら?」


 ローラン姫の提案は確かに不公平はないが、魔物退治にしたってダンジョン攻略にしたって、言ってしまえば、マリー・ベルが一人いれば事足りるんだ。俺は強制同行だから致し方ないが、ただ彼女の後ろをついていくだけのお散歩にしかならんだろう。それはローラン姫が来たって同様だ。


「それは効率悪いだろ。やっぱ個別に稼いだ方が良くないか?」


「効率のいい仕事をすればいいのよ。というか、別にこの町の既存のタスクを分配してもらう必要なんてないわ。仕事は自分で生み出せばいいのよ」


 ほう。何を言うかと思えば、なんか頭が良さそうなことを言い出したぞ。

 伊達に第一王女じゃないってことか。


「では、具体的にはどうすれば?」


「そうね……。武芸大会を開きましょう!」


「なにっ、武芸大会!?」


 魅力的な提案に、俺はついつい身を乗り出してしまうのだった。

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