第4話 浮気

「や、やばいことになったね!!」


 記憶喪失について話し終えると、彩花さんは驚きのあまり大声でそう言った。


「記憶喪失って、漫画じゃん」

「だよな……俺もそう思う。俺と彩花さんはどういう関係だったんですか」

「私と静波? そんなの、恋人関係に決まってるじゃん」


 まずいことになった。

 そんな気はしていたけど、本当にそうだったとは。

 

 どうやら俺は、二股をしているようだ。


 付き合っていることを誰にも言わない。

 この理由は、二股がバレないようにするためだったのだ。


 ドクンドクン、と心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。

 冷や汗が、全身を濡らしていく。


「記憶喪失かあ、けど、すぐに戻るならいっかあ。よろしくね、第二の静波!」


 ニコニコと、そう言う彩花さん。


 彼女は知らない。

 俺にはもう一人、玲奈さんという彼女がいるということを。


 本当に何をしてるんだ俺は!


「あっ、そーいえば、俺を屋上に呼んだ理由って……」

「会いたくなったからよ」


 彩花さんは俺を抱きしめた。


 ドキッ、と心臓が鳴り響く。


「私、静波なしじゃ生きていけないや」


 彩花さんは俺の右手を掴み──


 ぷにっ。


「──ッ!!!!」


 自身の胸に誘導した。


「しっかり、つけてないよ」


 ノーブラだ……。


「静波ね、ど変態なんだよ」


 玲奈さんだけではない、彩花さんにまで俺は下着をつけないように命令しているようだ。  

 何してんだよ、俺。


 慌てて、胸から手を離した。


 熱い。

 身体中が熱い。


 きっと、顔が真っ赤になっているに違いない。


 ぷっ、と笑う彩花さん。


「何その童貞みたいな反応」


 彩花さんは俺の目を見て言った。


「本当はヤリチンな癖に」


 と。


「私をこうしたのも、静波の癖に」


 俺という人間がとんでもないということに気づいた。

 記憶を取り戻したくない。

 強くそう願ってしまった。



 自室にて、俺はベッドに倒れ込んだ。


 はあ……。


 天井を見る。


 いまだに右手には彩花さんの胸の感触がある。

 

「どーなんだろーな、この関係」


 二股なんていつかバレてしまうに決まっている。

 マジでなんて事してんだよ、俺。


 俺がヤリチン……。

 いやいや、この俺が!?

 実感わかねーよ。


 どちらかは本命でどちらかは浮気なのか?

 最低すぎる。


 はあ、これからどうすればいいんだ。

 結城に相談……いやいやいや、だめだろ。

 嫌われるじゃんか。 

 となると、誰にも相談できねえ!


 自分でなんとかするしかない。


 俺にできることは、本命探し。

 浮気相手とは関係を断つことだけだ!!


 俺の馬鹿野郎!

 こんな関係終わらせてやる。

 俺の手で!!


 記憶が戻るまでに、二股をやめる。


 そう心に誓った。


「二股がバレれば、二人が傷つく、けど、バレる前に片方振れば、片方だけが傷つく。なんとしても、片方だけにしなくては」


 これは、記憶をなくした俺が、二人の彼女のどちらが本命か、どちらが浮気相手かを探し出す、そんな物語──。

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記憶喪失な俺、カノジョが二人、どっちが本命ですか? さい @Sai31

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