第3話 幸せ者

 玲奈さんと二人、図書室でお昼ご飯を食べた。

 俺は、お弁当を教室に置いてきてしまったため、玲奈さんのお弁当を一緒に食べた。

 玲奈さんのお弁当はどれも、これでもかというほどに美味しかった。

 特に卵焼きだ。

 甘くてふかふか、食べるとお腹が空いてしまうという不思議な感覚に陥った。

 玲奈さんにそのことを伝えると、玲奈さんは自分で作っているのだということを教えてくれた。

 あとは、玲奈さんが一人暮らしをしているのだということを教えてもらった。

 どうやら、俺はよく泊まりに行っていたらしい。

 

 やはり、あの夢は夢なんかじゃない……現実なのか?


 話を聞いているうちにそう思えてきた。

 ただ、そうなるとだ。

 もう一人の女の子の存在がなんなのか、という話になる。

 考えられるのは、二股。

 あるいは、ただの妄想。


「静波くん、あーん」


 と、玲奈さんが卵焼きをお箸で掴んで、俺に向けてきた。


 俺は、あーん、と口を開ける。


 まあ、今はいっかあ。

 こんな美少女とお弁当を食べれるのだから。


「美味しいですか?」

「うん、おいひー」


 ああ、なんて幸せ者なんだ、俺は!!


 玲奈さんが下着をつけていない、あーんをしてもらうという事実により、俺の下腹部は膨らんでいく。


 すぐに、玲奈さんはそれに気づき、頬を真っ赤に染めた。


 可愛い。

 可愛いすぎる!!


 自慢したい。

 俺にはこんなにも可愛い彼女がいるんだ!!

 ってことを。


 なぜ俺は、秘密にしよう、だなんて言ったのだろうか。


 一つの疑問を持ったまま、昼休みは終わり、午後の授業が二限すぎ、放課後がやってきた。


 同時に、ブーブー、とスマホのバイブレーションをポケットから感じ取った。

 着信だ。


 誰だろう。


 スマホには、彩花と表示されていた。


 玲奈さんともう一人、ピン留めされていた人だ。


 すぐさま、教室から出て、階段下に移動して電話に出た。


「もしもし……」


『ちょっと、静波、会いたい』


「えっ」


『屋上にいる』


「ちょっ」


 プープー。


 電話が切れた。


 彼女が何者なのか、知るためにも行く以外の選択肢などない。


 急いで、屋上へと向かった。


「はあはあ……」


 屋上に着く時には、息が切れていた。


 ガチャリ、と扉を開けると、金髪ショートの女子生徒が安全柵に寄りかかって、空を見ていた。

 ものすごく短いスカートだ。


 俺は、彼女に見覚えがあった。

 夢だ。

 夢で出会ったあの人だ。


「あ、彩花さんですか……」


 声をかけると、ピクッと、肩が動いた後、女子生徒がこちらを振り向いた。


「何その言い方!」

 

 やはりだ。

 夢で見た人だ。


「いや、その、ごめん……」


 俺は、後頭部を触りながら言う。


「実は、記憶喪失で君のことがわからないんだ」


 と。


「何その冗談、笑えないんですけど!」

「いや、本当なんだ……頭打って、ほら、この包帯が……」

「そんな漫画みたいなこと……」

「信じてくれ」


 俺は、彩花さんに向かって歩き出した。


 あれ?


 そのまま、彩花さんを抱きしめ、


 身体が勝手に。


 耳元で言った。


「信じてくれよ、彩花」


 口が勝手に。


 彩花さんの耳が真っ赤になっていく。


「し、信じりゅ……///」


 どうなってやがる。


 俺は慌てて彩花さんから離れ、驚いた。

 彩花さんが完全にメス顔になっていたからだ。


「な、何があったの、静波……」


 くそ、可愛い!!

 

 俺は、唾をゴクリ、と呑み込んで、記憶喪失について話した。

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