第2話 黒宮玲奈

「つーか、お前、ライン見ろ」

「えっ?」


 昼休み、俺は結城と机を並べてお弁当を食べていると、結城がそんなことを言ってきた。


 結城は俺に箸を向け、


「五限の古典の小テストの範囲、聞いてたんだよ。まあ、記憶喪失ならわからんか」

「お、おう。つーか、ラインって?」

「連絡ツール。スマホ貸してみろ」


 俺は、結城にスマホを渡すと、


「この緑のアプリだ。ほら、フェイスID」

「ありがとう」


 スマホを受け取り、フェイスIDを使い、メッセージを見た。


 ん?


 一件、ピンで止められているアカウントから三十件ものメッセージが来ていた。

 名前は、玲奈。


 しかも、五分前だ。


 メッセージを見てみると、



『静波くん、まだですか?』

『連絡ください』

『あの』

『図書室で待ってます』

『早くしてください』

『言われた通りに、下着をつけないで来ました、早く来てください』

『静波くん?』

『早く会いたい』

『あの』

『ずっと待ってます』

『大丈夫ですか?』

『静波くんに会いたいです』

『既読つけてください』

『今、何してるんですか?』

『帰りますよ?』

『もう、そうします。私は怒りましたよ』

『本当にもう知りません。せっかく、下着もつけないできたのに』

『ひどいです』

『バカ静波くん!』

『ばかばかばかばか!』

『もう知らない』

『嘘です、静波くん大好きです』

『だから、早く来てください。ずっと図書室で待ってるんですよ?』

『このまま五限が始まっても待ってます』

『連絡ください』



 誰だ?

 玲奈、名前からして女の子だよな。

 とにかくだ、俺はどうやら彼女を待たせているようだ。

 恋人っぽいな、この感じ。

 つーか、俺、下着をつけないでって命令してんのかよ……ど変態じゃねーか!


 もう一人、ピンに止められている女の子がいた。

 名前は彩花。

 彼女とは何を話していたのか気になるが、ひとまずは……。


「わりい、結城」


 席を立ち上がった。


「なんだよ?」

「ちょっと、用事ができた」


 玲奈、彼女と話したい。

 俺が彼女とはどういう関係なのか知りたい。



『只今の時間、閉館中』


 と、看板がかけられているというのに、なぜか、図書室が開いているのだと確信してしまった。


 ガラガラ、と図書室の扉を開けると、そこには──。


「遅いですよ、静波くん」


 一人の黒髪ロングの美少女──、俺は彼女を知っていた。

 夢で見たのだ。

 あの夢に出てきた女の子だ。


「って、なんですか、その頭の包帯は!?」

「ああ、これか。君が玲奈さんで合ってるかな」

「なにそれ、まるで、私のこと忘れたみたいじゃないですか」

「そうなんだ、俺さ、記憶喪失しちゃったんだ」


 まるで、時間が止まってしまったかのように場は静まり返った。

 チクタク、と時計の針の音が図書室には響き渡る。


 玲奈さんは口をポカン、と開けて俺を見ていた。


「それは、本当……ですか?」

「ああ、本当だ。玲奈さん、俺と君は一体」

「私は、静波くんの彼女です」


 やはり、玲奈さんは俺の彼女のようだ。

 なら、もう一人、彩花さんは?


「ごめん、何もかも忘れてる」


 そこから、俺は玲奈さんから、詳しいことを聞いた。

 玲奈のフルネームは、黒宮玲奈。

 どうやら、玲奈さんと付き合ったのは半年前で、俺から告白したようだ。

 しかも、俺と玲奈さんが付き合っているということは秘密に、というか、俺が頑なに秘密にしろと言っていたようだ。

 いったいなぜ?

 毎週、月、水、金の昼休みは図書室で一緒にご飯を食べるのが日課のようだ。

 ちなみに、『只今の時間、閉館中』は勝手にやっているだけみたい。


「玲奈さん、こんな俺でも好きでいてくれる?」

「はい、好きですよ。静波くんは静波くんだもん。あと、玲奈って呼んでください。静波くんがそう呼んでいたので」

「わかった、玲奈……記憶は一時的にないだけみたいだから、短い間だけど、よろしく」

「はい!」


 ニコリ、と微笑んだ彼女の顔はまるで天使のようで身体中がドキン、と震え上がった。

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