第3章 熱意がないプロデューサー

舞台公演をするにあたり、Nは「地域を盛り上げたい」という思いを持っていました。しかし、いざふたを開ければ、制作実態は杜撰でした。

一番驚いたのは、舞台公演をするにあたっての常駐スタッフが誰ひとりいないのです。舞台監督も音響も照明も、ほとんどWeb会議に参加しただけで、後は前日のリハで現地入り。

つまり制作進行やスケジュール調整といった、裏方で常に動けるスタッフがいない中で、Nは私を指名しました。


脚本と構成として関わっていたはずなのに、裏方の仕事全部まで私に押し付けてきました。当然事務仕事に追われると、脚本を書く集中力もなければ、執筆時間も確保できません。そんな状況を分かっているにも関わらず「脚本、いつ上がってくるんだ」と催促してきます。「事務仕事がまだ終わってないので」と話すと、「1日2日眠らなくたって死なない」と言ってきます。


資料一つ作るのにも、時間と労力がかかります。ですがNにとっては、そんなこと知ったことじゃありません。口でいろいろと指示を出してきますが、それを具現化するのには時間がかかりますが、お構いなし。私の不満は、溜まる一方でした。


後援申請、スタッフミーティングの日程調整、会場職員との打ち合わせ、チケット受付とメール確認、ポスター制作、SNS発信、ホームページ更新、プレスリリース発信、記者対応などのスタッフ業務を、全て私一人がやることになっていました。

私一人でやっていれば、正直漏れもあるし、ミスも出てきます。集中力も切れていますし、他の仕事だってやらなければいけない。脚本も書かなければいけない。それでも、Nは私一人の責任にします。


「何かあったら、プロデューサーである私が責任を取る」と豪語しておきながら、結果トラブルが発生すると、「責任者はお前だ」と私に押し付けてきます。

「あの時、お前がああやって言ったからだろ」と、結局は責任を負いたくないために、権力を振りかざして、私一人を悪者にします。失敗が続き、私が挙動不審になると、私の前でNはスピーカー状態で、ある人に電話をしました。相手は舞台監督。「ねえ、こいつの様子おかしいんだけど、どう思います?」と質問すると、舞台監督は「クスリでもやってるんじゃないですか?」と答えました。Nだけでなく、周囲のスタッフまでもが私を白い目で見てきていたのです。根拠もなく「クスリをやっている」と言った舞台監督のことも、私は到底許すことができませんでしたし、反論もせずその意見に乗っかって「やっぱりね。こいつ、やっぱりおかしいもん」と私を見ながら舞台監督と電話をしたときの、あのNの目は今でも忘れません。

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