第20話 停学処分(蒼)
「……もう、まだ怒ってるの?」
「お前のせいで、最後まで聞けなかったんだけど?」
「ごめんって……まさか演劇部の勧誘だなんて、思わなかったから」
————二時間前。
ハンバーガーショップにいた蒼と
二人の話を隣の席でこっそり聞いていた芽衣。
途中で
「ちょっと待ちなさいよ!」
仁王立ちで蒼の同級生の前に立った芽衣は、怒り心頭といった雰囲気で告げる。
「あなた、蒼に何を要求するつもりなの!?」
「……は?」
ポカンと口をあける
「芽衣!?」
「大丈夫、蒼のことは私が守るからね」
「おい」
「だから蒼に変なことするなら、私が——」
「おい!」
「なによ?」
「お前は……全く」
呆れて顔を手で覆う蒼に、芽衣が怪訝な顔をする中、ふいに
「ぷっ——この子、蒼の彼女なのか?」
「幼馴染だよ」
「そうか。いいね、良かったらキミもうちに来ないか?」
「え?」
「俺、演劇部なんだけど、メンバーが足りないんだよ」
「え……ってことは、もしかして」
「?」
「……私の勘違い?」
それから平謝りした芽衣だったが、
住宅街で蒼の隣を歩く芽衣は、頭から火を吹きそうな顔をしていた。
「なんでそう変な方向に想像するんだよ」
「だって、あんなことがあったし」
「……で、なんでお前があそこにいたの?」
「……心配だったから」
「珍しいな……俺のことを心配してくれるなんて、可愛いとこあるじゃないか」
「男の子に襲われたら、蒼は勝てないと思って」
「前言撤回……それで、優斗のやつは?」
「今日は調子悪いからって、早退したよ」
「何かあったのか?」
「わからないけど……もしかしたら、天久先生のせいかも」
「また絡んできたのか?」
「というか、お昼休みは常に優斗くんの見える場所にいたから」
「ストーカーだな。どうして誰も注意しないんだ?」
「天久先生、学長と仲がいいらしいよ」
「だからって、未成年にちょっかい出すのは犯罪だろ」
「私もよくわからないけど……うちのクラス、みんな天久先生の顔色ばっかり
「……とにかく、お前は俺に関わるなよ」
「いまさらでしょ? 私はもう、天久先生に嫌われてるし」
「そのうちお前も狙われるぞ」
「だったら、証拠をたくさん記録しておかないと」
「……本当に……芽衣に何かあったら、俺は許せないから」
「だから、いまさらだって」
「学校ではなるべく優斗と一緒にいろよ。優斗のそばにいれば、あの教師も手出しできないはずだ」
「だから、心配しないでよ。蒼は自分のことだけ心配しなよ」
「どうしてお前はわからないんだ」
「……?」
「心配しないわけにはいかないだろ? だって俺はお前が……」
「うん、私が?」
「……大事な幼馴染だから」
「わかってるって。私も蒼が大事な幼馴染だから、心配なんだよ」
「本当に何もわかってねぇな」
***
「ありもしない虐めを苦に自殺か……俺も気をつけないとな」
「ちょっと、蒼!」
登校して間もない時間。
蒼が廊下を歩いていると、そんな蒼の背中をふいに誰かが叩いた。
振り返ると、焦った顔の芽衣がいた。
「どうしたんだ? 芽衣」
「聞いた? 昨日、蒼がハンバーガーショップで会った
「理由は?」
「校内での喫煙」
「はあ?」
「放課後に屋上で喫煙してたとか」
「待てよ、放課後は俺も一緒にいたけど?」
「だよね……なんでだろ」
「なるほど、見せしめか」
優斗の同級生から優斗のことを聞き出したことが、天久透子の耳にどうやって入ったのかはわからないが——天久透子が蒼を危険視しているのは明らかだった。
晴翔が停学処分になったことで、ますます過去について知りたくなった蒼だが。
するとそこへ、優斗が廊下の向こうから走ってやってくる。
「
「優斗……もう体調は大丈夫なのか?」
「うん。今日はまだ調子がいいよ」
「そうか」
「なんか深刻な話をしているみたいだったけど……何かあったの?」
「いや、大した話じゃない。お前は気にするな」
「……」
気にするなと言われて、少し不服そうな顔をする優斗だったが、芽衣が話題を変えた。
「ねぇ、今日は放課後どうする? またイカのゲームするの?」
「お前……うちで乙女ゲームしかしないだろ」
「大丈夫、全ルート攻略して、スチル集めも終わったから、一緒に遊べるよ」
意気込む芽衣だが、蒼は
そんな時、優斗が提案した。
「それはそうと、たまにはハンバーガーでも食べに行かない?」
「ハンバーガーね……」
(昨日も食ったけど)
***
————翌日。
貴重な情報源——
優斗の中学時代の事件に、実は天久透子が関わってるのではないかと、蒼は睨んでおり、調べずにはいられなかった。
その目撃者がいまだに当時のことを覚えているかどうかはわからないが——。
「遅いな……」
目撃者と待ち合わせた公園で、蒼が一番大きな木の下に立っていると——そのうち、蒼と同じ年くらいの少年がやってくる。
フーディにジーンズを纏った少年は、幼い顔をしながらも、体格は蒼よりも立派だった。
「……あなたが
おそるおそる声をかけてきた少年に、蒼はやや狼狽えながら訊ねる。
「ああ、そうだ。じゃあキミが目撃者の
「すみません、
「……理由を聞いてもいいですか?」
「俺たちはもう、あの件に関わりたくないんです」
「俺たち?」
「……だからもう、来ないでください」
言いながら、その少年は蒼に小さな紙切れを手渡した。
紙切れには、電話番号らしきものが書かれていた。
「わかった。もう会いにくるのはやめておくよ」
蒼がそう言うと、少年は小さく頷いて立ち去った。
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