第23話 お盆の「あーん」と「黒いモコモコ」
今年もお盆が近くなって参りましたね。都内の方は七月の所も多いでしょうか。
お盆になると死者が帰ってくるとは言いますが、やはりその時期に不思議な事があったので、お話致します。
小学生の時の話です。
お盆時、当時まだ……たぶん二歳くらいだった弟が、ご飯を食べていました。
プラスチックの器とスプーン。
まだまだ零しながら、自分なりに一生懸命食べていた頃です。比較的静かな子で、喋り始めるのが遅かった覚えがありますが、それでも多少おしゃべり出来る年齢です。
ふと見ると、弟は器とスプーンを持ったまま、机と反対側を向いていました。
椅子のない低い机です。お座布団の上でくるっと反転した、そういう感じです。
弟の目の前は壁しかありません。
「あーん」
弟は壁に向けて、スプーンに持ったご飯を差し出しました。
「あーん、あーん」
誰かに食べさせようとしている様です。が、当たり前ですが目の前は壁。
母はそれを見ても特に動じる事もなく、言いました。
「お盆だから、ののちゃんが来てるのかなあ」
「ののちゃん」は母方の方言で「ひいおばあちゃん、又はひいおじいちゃん」という意味です。
ちなみに太陽は「のんの様」と言います。母方の田舎において、曾祖父母と言うのは太陽と同じく、大変貴まれる存在なのです。
そして、ほんの数年前、弟が産まれる前に、曾祖母である「ののちゃん」は亡くなっていました。
「あーん」
弟は「ののちゃん?」にどうしてもご飯をたべさせてあげたかった様で、その後もしばらく「あーん」を続けていました。
怖いと言うよりはただただ可愛らしく、お盆ですから、何か居てもまあ親戚だろうと言う事で家族で微笑ましく見守っていました。
そういう思い出です。
もうひとつ、お盆の思い出があります。
弟の「あーん」から数年後。やはり小学生の時です。
私は夜中、トイレに行きたくて目が覚めました。多分深夜一時くらいでしょうか。
トイレが一階にしか無かったので、面倒だなと思いつつ、私は仕方なく階段を降りました。
階段はダイニングに直結していて、吹き抜けになっており、降りていくと、薄暗いダイニングが見えてきます。
階段の電気は付けていましたから、真っ暗という訳では無いのです。
なんとなく薄暗いダイニングを横目に降りていくと、部屋の隅に黒くてモコモコした丸いものが見えました。
結構大きくて、サッカーボールよりは大きかったと思います。
なんと言うか、遠目には手芸で使う羊毛フェルトを丸めたみたいな、モコモコしたもの。
階段を降りながら一瞬目に入りましたが、家具に隠れて早々に死角に入ってしまいます。
なんだろうアレ。
何があるんだろうなあと思って階段を降りたのですが、そこを見ても何もありませんでした。
得体の知れない黒いモコモコ。
何処に行ったのか。
あれは何だったのか。
私は怖くなって、行儀が悪いですが少しドアを開けたまま用を済ませ、必死に階段を駆け上がり、布団にくるまって寝ました。
お盆の只中でしたから、やはり亡くなった親戚かも知れません。
余談ですが、幼い頃に亡くなった「ののちゃん」の髪は、いつもクルクルのパーマがかかっていました。
黒いモコモコは、母と父の寝室に続く引き戸の前にありました。
ののちゃんが、モラハラ気質な家に嫁いだ孫……私から見て母ですね。
孫を心配して、様子を見に来たのかも知れないな、と何となく思いました。
しかし、モコモコだけって事は、頭だけが床にポンとあったという事でして。
そう考えると、いくら優しいののちゃんでもちょっと怖い様な気がします。
まあ、結局の所、お盆に「あーん」されていたのがののちゃんかも、「黒いモコモコ」がののちゃんかも分かりません。
ただ、お盆には家族や親戚が帰ってきてくれる、と言うのは、やはり間違い無いように感じています。
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