第22話 叫びとSONYタイマー
まずは、以前の近況ノートから引用します。
“閑散としたショッピングセンターを友人と歩いていて、背後、至近距離で、響くような叫び声がしました。
振り向いても誰もいません。
友人に「今後ろで叫び声したよね?」と聞くと、友人は少し困った顔で、「通り魔だよ」と言いました。
通り魔?
その時はちゃんと聞けず、何年かしてからその事を話して「通り魔って何?」と聞きました。
友人はやはり、「通り魔?そんな事あったっけ?」と言っていました。
当時はなんで彼女から「通り魔」という言葉が出てきたんだろう。”
この時の近況ノートは、
“皆さん子供の時に起きた不思議な体験、忘れてしまっていませんか?
変な事を一緒に体験した人に、
「あれなんだったんだろうね?」
と聞くと、こう言われる事が多いのです。”
という話だったのですが、今回は「叫び声」に焦点を当ててみましょう。
「第2話 夜通し花火で遊んだ時の話」でも叫び声が聴こえていますね。
その場に留まった「何か」の声なのか、土地に染み付いたものと波長が合ったという事なのか、はたまた通りすがりのものなのか。
分かりませんが、叫びが聴こえた経験がもうひとつありましたので、お話したいと思います。
地方の専門学校に行っていた頃の話です。
私は油断していました。
というのも、一人暮らしを初めてから、しょっちゅうかかっていた金縛りに全く遭わなくなっていたのです。
専門学校時代に体験した他の怖い話と言えば、「第2話 夜通し花火で遊んだ時の話」と、「告白もしていないのにわざわざ振ってくれた好きな人が、何故か私と同じ会社に就職を決めた時」くらいでした。
退職してから全然違う県に引っ越したのに、何年か後、偶然ディズニーランドで鉢合わせしたのもまた怖い……!
いやすいませんね。怖い話しますね。
その頃、私は都市伝説や怖い話をネットで読むのに嵌っていました。
(要するに「第9話 USO!? ジャパン!」で全然懲りてなかった)
スマホがまだ無い時代、携帯電話の通信料も従量制でしたから、利用するのは専らデスクトップPCです。
家のPCに齧り付いて、何時間でも2chの怖い話を読み漁ります。その中でも、その頃のブームは都市伝説。
何時間読んでいたでしょうか。
適度にゾワゾワする、現実とも非現実的とも取れる良い感じの怖さを楽しんでいましたが、その日は出かけなければいけない用事があり、渋々支度を始めました。
少し前に自転車を盗まれてしまったので、その頃の移動手段と言えばもっぱら歩きでした。
車か自転車が無いと生活できない様な場所ではあるのですが、学校もバイト先も徒歩30分以内でしたから、遠出にはバスを使いつつ何とかなっていたのです。
しかし、ただひたすらに歩くだけなのもつまらないので、その頃は専らウォークマンを愛用していました。
高校生の時に頑張ってバイトして買った、録音再生機能付きのMDウォークマン。
そろそろMP3の携帯音楽プレーヤー(SDカードとかのもあったのかな……定かでは無い)に取って代わられそう、という時期でした。
しかし、高校の友達と交換したディスクがあったり、思い出深いのも手伝って、現役で使っていました。
所で。
今や死語ですが、「SONYタイマー」という言葉がありました。
これも都市伝説的なもので、
「SONYは新商品を買わせる為に、二、三年で壊れる様、製品に時限措置を取り付けている」
というものです。
とはいえ、SONYは最初に「音楽を持ち歩く」体験を世に出した会社ですから、小さく設計した精密機器を持ち歩く関係上、ぶつけたり、小さなボタンが摩耗したりして、「普通に使うと二、三年しかもたなかった」というのが実情かと思います。
それが結果的に、「SONYタイマー」という都市伝説になった訳です。
その頃に使っていたSONYのMDウォークマンは、使い始めて三年目。
たまにボタンが誤作動起こしたり、少しづつですが壊れる気配を感じていました。
そして、話は一人暮らしの家で支度をしている私に戻ります。
着替えをして、ウォークマンのイヤホンを耳に付けます。
狭い玄関で靴を履いて、玄関のドアを開けながら、ウォークマンの再生ボタンを押しました。
『ギャアアアアァァァーッ!』
「うわぁ!」
イヤホンから、耳をつんざく様な叫び声が聴こえて、咄嗟に外しました。
「あー……とうとう壊れたか」
私は一人ぶつぶつ言いながら、ウォークマンと有線のイヤホンを玄関に置いて、鍵をかけて出掛けました。
後でもう一回試してみよう。
でも、再生出来ないんじゃどうにもなんないよな。やっぱり基盤かなあ……SONYタイマー……ほんとに三年目だったな……
そう思ったのですが、翌日にまた試してみると、何事も無かった様に音楽が再生できました。
入っていたディスクも問題無い様です。
その後、もう一年くらい、MDウォークマンは私のお出かけの相棒として活躍してくれました。
ボタンが摩耗してしまって、動作が大分怪しかったですが、「音が変になる」という異常は、再生が出来なくなるまで、とうとう一度も起きませんでした。
さてさて。
都市伝説や怖い話を何時間も読んでいて、家を出ようとして、ドアを開けたらウォークマンから悲鳴……複数人が一気に上げたような、地獄の釜の蓋を開けたような悲鳴が聞こえた訳です。
ドアを開けたら。
家の中に入りたくても入れなかったもの達が、ドアを開けた途端に干渉して来たと考えると、中々怖いものがあります。
その後は、出掛けた私に着いてきたのでしょうか。
それとも、置いていかれたウォークマンと共に、私の部屋へ入って行ったのでしょうか?
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