第21話 零感でも故人様とお話できる時

 おはようございます。縦縞でございます。

 ここ最近実話怪談を書き留めていて、気が付いたことがあります。


 それは、

「見える事はあんまり無いけど、聞こえる事は割とある」

 という事です。

 まあ当たり屋みたいな嫌なものは聞きたく無いものですが、中には聞こえて良かったなというものもございました。


 今から数年前、小さい頃からとても可愛がってくれた母方の叔父が、亡くなった時の話です。


 叔父は生涯独身でしたが、甥姪をとても可愛がってくださいました。

 若い頃は活発で気の強い人だったらしいのですが、私達甥姪からするといつも笑顔で優しい人で、兄弟従兄弟皆叔父のことが大好きでした。

 残念ながら、六十代の若さで惜しまれながら亡くなった叔父のお葬式には、遠方からも親戚が駆けつけました。


 お式が始まります。

 男声合唱団に所属していた叔父の歌が流れ、元気だった時のお写真が投影されます。

 私と弟は受付業務をしていましたから、最後に一番後ろの席に座って、故人様となってしまった叔父との別れを惜しみました。


 お式も進み、叔父は仏教徒でしたから、お坊様が読経をしてくださいます。

 母方は皆さん仏教の方なので、一緒にお経を唱えていらっしゃる方も多く居ました。

 私は仏教徒では無いもので、お経は唱えられません。

 ただ、読経の間は手を合わせて、一心不乱に叔父の為に祈りました。


 叔父さんが明るい所で幸せになりますように。

 叔父さんが幸せになりますように。

 叔父さんが神様仏様の所で安らかに居られますように。


 集中を途切れさせず、叔父の為に必死に祈る事。それしかできないので、そうしていました。


 読経も大分進んだ頃、頭の中流れる様に、声が聞こえました。


「ヨリちゃん、来てくれてありがとうね」


 叔父でした。

 私は心の中でお話をします。


「叔父さん、あんまり心配しないで、ちゃんと上がって見守ってください。好きな人が先に上がって待ってらっしゃるんじゃないですか?」


 叔父は生前、入院すると家で一人になってしまう母……私から見ると祖母を、とても心配していました。

(現在は叔母が一緒に住んでくれています)


 好きな人というのは、家同士の事情があり、結婚できなかった女性が居ると聞いた事があったのです。

 女性は残念ながらもっと若くして病気で亡くなり、

「〇〇くん、待ってたのになあ」

 という言葉を残された、と聞いた事もありました。

 狭い田舎の家同士の事情というのがどういう物なのか、私には分かりません。

 ただただ、切ない話だと思いました。

 叔父は言います。


「ええ?どうかなあ……」


 照れた様な、恥ずかしそうな口調でした。

 叔父とのお話はこれでおしまいで、後はまた他の方の所にご挨拶に行かれたのかなと思います。


 お葬式には故人様も来ていらっしゃいますから、声までは聞こえないかもしれないけど、心を込めて祈りを捧げて、故人様に語りかけて差し上げてください。

 きっとその言葉は故人様に届いています。




 もう一つ、故人様からお声をかけていただいたお話がございます。

 社会人になってからの話です。

 幼なじみのお父様が亡くなられまして、私はお通夜に参りました。

 小さな式場で、友人で呼ばれたのは私だけの様でした。

 しかしとても人望が厚い人だったそうで、会社関係の方など、式場に入り切らない程多くの参列者様がいらっしゃっていました。

 なんせ突然の訃報で、ご家族、特に奥様(友達のお母様です)は全く事態が受け入れられておらず、大変痛々しいご様子でした。

 それでもご挨拶に伺いますと、


「お父さん、ヨリちゃんが来てくれたよ!△△ちゃんのお友達だよ!」


 と故人様に仰ってくださいました。

 私は早く着いていたのもあり、式場の中で椅子に座ってお式に参加させていただきました。


 読経の最中に眠くなってしまう、これはお葬式では良くある事らしいです。

 自分もそうですし、周りの方がうつらうつらしているのを見かける事もあります。皆さん経験があるのでは無いでしょうか。

 これは、ものの話によると所謂「憑依状態」で、故人様がお傍にいらしていたり、あるいは話しかけようとしている状態らしいのです。

 そして、私は読経の最中、ものすごく眠くなってしまいました。

 ちゃんと起きていないと。

 でも、とにかく瞼が重い。

 睡魔と戦っていましたら、急に、はっきりと頭の中に声が聞こえました。


「結婚させてやってくれ……」


 ビクッとなって、目が覚めました。

 懇願する様な、故人様の声でした。


 故人様である友人のお父様には、何度かお会いした事がありました。

 優しくて、友人も怒られた事が一度も無いと言っていました。

 お仕事でも責任ある立場で、人望厚い、誰からも好かれる方だったそうです。


 私は友人にこの事を言えませんでした。

 故人様を利用して婚活を勧めていると思われたら、軽蔑されてしまうと思ったからです。


 しかしお父様が優秀かつ優しくなおかつ二枚目だった故に、理想が高すぎて最早トーテムポールみたいになっている友人の恋は中々進展しません。


「お父さんみたいな完璧な人は居ないんだから、正直ある程度は妥協しないと」


 みたいなお節介な話も致しました。

 しかし本人がその気にならないとどうにもならず、未だ友人は独身を楽しんでいます。


 お父様、大変申し訳ありません。

 私では、力不足でございました……

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