第25話 家鳴り
家鳴り、という現象があります。
木造建築は文字通り木を使って作られていますから、湿度や気温で起こる木材の微細な膨張や収縮、地震や年月によるたわみ等で、
「ミシッ、パキッ」
という小さな音が出ます。
これを、
「ラップ音」
として心霊現象が起きたと考える事もあるのですが、個人的にはちょっと無理があるかなと思います。
昼夜でも気温差があるので、家鳴り自体は別に珍しくも無く、また恐ろしいものでもありません。
例の私の実家も古かったので、家鳴り自体は良くありました。
その中でも、
「これはちょっと家鳴りとは違うんじゃない?」
という異音のお話をしたいと思います。
私は本格的に引っ越す前に、勉強道具と机だけを先に運んで、試験勉強をする事にしました。
例の実家の前、良い家が見つかるまでと一時だけ住んでいた家は狭くて、弟もまだ幼かったものですから、全然集中できなかったのです。
わたしが選んだ部屋は、二階の豪奢な和室の隣の洋間。
契約して直ぐに見に来た時は、夜だった為かとても怖く感じたのですが、日中は日当たりも良くてとても明るく、そんなに怖いという感じはしませんでした。
結構勉強も捗り、気が付けば夕方になっていました。とは言え、五時頃だったと思います。
秋でしたから、そこまで暗い時間でもありません。
そろそろ帰ろうかな。
でももうちょっとやりたいなあ。
そんな事を思っていた時です。
ズズ、スーッ……トンッ
隣室から音がしました。
私以外誰も居ない家で、隣室の豪奢な和室から、明らかに引き戸を開ける音がしました。
サイズ感からして、襖では無く、床の間に付いている天袋か地袋を開ける音。
私は携帯電話を取り出して、震える手で母に電話をかけました。幸い直ぐに出てくれて、迎えに来てもらいました。
何せ怖くて、今居る部屋から一歩も出られなかったのです。
引っ越してからも、その家では何時も何かの音がしていました。
一階の居間で昼にテレビを見ていると、誰も居ない二階から、
ミシ、ミシ、ミシ、ミシ、
と誰か歩いている音がします。
これに関しては大体昼で、家鳴りと言えば家鳴りなのですが、きちんと移動している風に音が出ているのが不思議でした。
階段を上がった所から、通り道を兼ねた和室を通り、あの豪奢な和室に向かって行く。
そういうルートで何時も音が聞こえました。
これについては、あまりに良く鳴るので家族皆慣れてしまい、生活音の一部になっていました。
最後は、その家に越して数年後。
母親が夜中、居間の炬燵でうとうとしていた時の話です。
玄関に隣接した壁面から、
ガンッ
っと思い切り蹴り飛ばされた様な音がしたそうです。
食器棚が置いてありましたから、観音扉に嵌め込まれたガラスが余韻でカタカタと揺れているような衝撃だったそうです。
弟も大きくなり思春期になっていましたから、母は、反抗期の弟が何かやらかしたのかと、恐る恐る見に行きました。
お察しの通り、誰も居ません。
玄関はベルが付いていましたから、開ければ直ぐに分かります。
誰かが出ていったという事も無いのです。
母は怖くなり、慌てて父の布団に潜り込んで寝たそうです。
思い出してみると、この頃はまだ夫婦仲も良かったものです。
ちなみに私は十八歳から県外の学校に行く為一人暮らしをしました。
軽量鉄骨の安アパートでしたが、あまりに静かで驚きました。
そのくらい、あの実家ではいつも何かしらの異音がしていたのです。
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