第18話 神様に引き上げられてしまった

 とても悲しい、やるせない思い出です。


 私は新興宗教を信仰していた家の生まれです。

「新興宗教」

 大変胡散臭い、なんだか不気味で、聞こえの悪い単語です。

 私もそう感じます。

 地下鉄サリン事件があった頃、私は小学生でした。

 連日の恐ろしい報道。

 学校では全校生徒が体育館に集められ、

「落ちているゴミや袋に絶対に触らないように」

 とキツく言われました。

 新興宗教、という単語には、その思い出が色濃く染み付いています。

 人が沢山傷つき、苦しみ、亡くなり、今でも苦しんでいらっしゃる。

 本当に痛ましい事です。

 新興宗教というものに嫌悪感がある方、少なからずいらっしゃると思います。


 このお話は新興宗教のお話です。

 苦手な方はどうか飛ばしてください。


 さて。

 私の家が信仰していた宗教ですが、特定を避ける為に詳しくは説明いたしません。

 とは言え、そこまで大規模なものでは無かったので、検索などにも引っかからないと思います。


 簡単に言ってしまえば、

「かつて神託を受けたある人が信仰を集め、その方の死後もその信仰が受け継がれている」

 という宗教です。

 多分ですが、(自称)神託を受けた人が生きているか故人かの違いはあれど、どこの新興宗教もそういう感じでは無いでしょうか。

(正直、最早殆どご商売でやっている所も多いと思います)


 私はその新興宗教には現在出入りしていません。

 父の死後はご縁が無いのです。

 というか、かなり質の悪い親戚が出入りしているので、もう関われないのです。

 親戚から身を隠さなければならない。

 事情は伏せますが、相手のパーソナリティーにかなり問題がある、程度の話です。


 さて、私は自称日本の神様大好き芸人なので、趣味は神社巡りと御朱印集め。

 じゃあ元々居た新興宗教は詐欺団体だと思っているのか?というと、そうとも思っていません。


 理由は色々あるのですが、多少でも説得力がある説明をするならば、

「宗教団体に金銭を要求された事が無い」

 のです。

 各所にある拠点には自販機すらありません。お茶が出てくる給湯器があるだけです。

 ご飯も時間に食堂に行けばいただけます。

 経典的なものは年齢によって貰えますが、お金は要求されません。

 じゃあどうやって運営されているんだ?

 というと多分お布施な訳ですが、要求されないのです。

「出家して全財産を没収」

という宗教の話もよく聞きますが、そもそも出家という制度がありません。

(その辺のシステムがよく分からない)

 少なくとも金銭目的で集まっている人達では無い、と思っています。

 詳しく説明すると特定されそうなんでこの辺で。


 徳川家康さんも神社でお祀りされていますし、最近では志村けんさんをお笑いの神様としてお祀りしよう、というお話もありました。

 力のあった人を神様として祀るというのは、日本の神様の成り立ちとしては良くあることです。


 かと言って、自称神託者は本当に神様だったのか?

 私は、私の家が信仰していた神様は、やはり神様なんだと思います。


 理由をお話します。


 両親が良く言っていました。

「私達は××(宗教団体)に縁があるから、その分、間違った考えをするとすぐに神様に引き上げられてしまう 」


 引き上げられるというのは、平たく言うと、

「このままでは神様の役に立たないから、一度回収して来世に期待する」

 という意味です。

 これはその宗教団体に関わる人に限った話で、なおかつ十四歳以上の話です。(元服の年なのかな?)

 引き上げられていない年配の方は、

「大変良く出来た方ですね」

 となります。


 神様と縁が深いので、神様のご意向にそぐわない間違った生き方を事をすると、死にますよ。

 という事です。


 とは言え、要求される事は、詳しくは書きませんが「人として道を外れない事」です。

 悪事に身を染めず、清らかな心で、一生懸命生きる。そして、神様の教えを自分の中で捻じ曲げない。

 そういう感じの事です。



 さて、私の父と母は、なんやかんやあって、離婚に向けて熟年別居をする事となりました。


 理由は父親の長年のモラルハラスメント、そしてモラハラに洗脳されていた母が覚醒した事です。他にも細かい事はありますが大体これです。


 母と父(七十代)以外に、三人の方が関わってきます。


 一人目は、宗教団体の中でそれなりの地位のある方。

 敬意を込めて先生とお呼びいたしましょう。

 七十代〜いって八十歳くらいだったでしょうか。

 私もお話した事があります。

 優しくて穏やか、おおらかなおじいちゃん、という感じの方でした。

 私は子供の頃、父の事を「この人」と呼んで、この先生に強く叱られた事がございます。

 そういう思い出のある方です。


 二人目は、六十代〜七十代のおじ様。

 父親の仕事の関係者であり、宗教団体にも興味を持たれて、お勉強会に参加されていました。

 紳士的で、やはり穏やかな人でした。

 きちんとしたお考えをお持ちの方だった、と私は感じておりました。


 三人目は、五十代のお兄さん。

 お兄さんとあえて呼びますのは、もう少しお若い頃から面識があったからです。

 父と私とお兄さんで、居酒屋でお酒を飲んだ事もあります。

 純心で真面目な方でした。父の事をとても信頼していたのが印象的で、

「お父さんは凄い人だよ」

 と私にも言ってくださったのを覚えています。


 この御三方は、悪い人ではありませんでした。

 ただ、父と母が決裂した歳、父の味方となった人達です。


 子供から見て、父親は自己愛性パーソナリティ障害、そしてサイコパスだったと思います。

 息子が自殺未遂をして血塗れとなった際、その息子を目の前にして言った言葉が

「あっそ」

 だったと言えば、父の異常さは伝わるかと思います。


 しかし、そういう人程外面は良いものです。

 自分の見せ方を良く分かっている、とでも言いましょうか。


 先生は当初母の相談を聞いてくださったそうですが、後で父とその話になった際に、何か母に不義理となる事を言ったそうです。


 おじ様は、父の味方で、母を強く責めました。


 お兄さんは、父に「弁護士を通すべきだ」という助言をしたと聞いています。


 父は大変性格が悪いというか、一種異常な人でした。

 しかし、その味方となった御三方は、悪い人という訳では無かったのです。

 父に親身に寄り添った、そういう事だと思います。


 そして、御三方とも、その年のうちに、神様に引き上げられてしまいました。

 そして父も、翌年のお正月、誰も居なくなった家で一人、神様に引き上げられてしまいした。




 私は、これを書いていて、とても悲しいです。


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