第10話 右側の優しい人

 結婚してからの話です。

 私は和室で夫と寝ていて、夫は私の左側に布団を敷いています。


 相変わらず不眠症で、一人モゾモゾしていました。夫は左で寝ています。

 時刻は夜中の一時か二時くらいでした。


 そうしていたら、襖の開いた隣室の奥から、物凄く怖い何かの気配がしました。


 やばいなんか来た。


 ズン、と思い気配を纏ったそれは、ゆっくりと近づいて来ます。姿は見えません。


 普通の流れだとここで金縛りになると思います。

 その日は違いました。


 急に背骨が弓なりになって、胸だけ浮いた不格好なブリッジみたいになり、そのまま動けなくなりました。

 手を着いて無ければ映画のエクソシストみたいな感じです。首だけで上半身を支える様な形です。


 えっ、えっ、何これ?


 その間にも存在感はズルズルと近付いてくる。

 めちゃくちゃ怖い。

 あと姿勢が苦しい。


 それが部屋に入ろうと言う時、右側から声がしました。


「大丈夫?」


 若い男の人の、軽やかな、でも心配そうな優しい声でした。


 その瞬間身体はストンと布団に落ちて、怖いものの気配も無くなりました。

 右を見ても誰も居ません。

 左では夫が変わらず眠っています。


 私はなんだかとても安心しました。

 見ず知らずの人が、心配してくださった。

 見守ってもらっている安心感というか、自分は一人では無いのだと思いました。


 守護霊か御先祖様か、はたまた通りすがりの人だったのかは分かりません。


 でもそれから、私は怖い金縛りには一度も遭っていません。


 何処のどなたか存じ上げませんが、本当にありがとうございました。

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