第8話 「ただいまー!」

 小学生の時の話です。

 祖父が家を売って後妻さんと出て行った後、我が家は何度か引っ越しました。

 引っ越した理由は大家さんの都合だったり、条件の良い物件を見つけたりと色々でしたが、その中で、海外転勤の間だけ賃貸に出されていた一軒家がありました。

 二年くらいお借りしていたでしょうか、大きくて綺麗な素敵なお家で、住んでいてとても嬉しかったのを覚えています。

 川沿いにあり、周囲は道路と駐車場。

 住宅街の中でも他の家に隣接せず、とても居心地が良いお家でした。


 ただ、怖くは無いけれど、良く不思議な事がある家ではありました。


 外の門を開けるとコンクリートの階段があって、そこをタンタンタンと登り、ガチャッとドアを開けて、

「ただいまー!」

 と言って、私含む子供達は学校や遊びから帰ってきます。


 私と母が一階に居ると、

 タンタンタン、ガチャッ

「ただいまー!」

 と妹の声がしました。

 でも入ってきません。

「おかえりー」

 と言いながら、私が玄関まで見に行きます。


 誰も居ません。


「居なかった」

 と母に言うと、母も玄関の外まで見に行くのですが、やはり居ません。

 そうしてしばらくすると、また、

 タンタンタン、ガチャッ

「ただいまー!」

 と声がして、今度は本当に妹が帰ってくるのです。


 これが何度もありました。

 帰ってくる声は、私だったり妹だったり弟だったり。

 でも帰って来ない。


 私は多分三回くらい、この「ただいまー!」を聞きました。

 母は専業主婦でしたから、この現象に良く遭遇した様です。

 特に害もないのですが、私はただ不思議に思っていました。


 母に、

「なんで誰も居ないのに誰か帰ってくるの?」

 と聞いた事があります。

 母いわく、

「この家はタヌキさんが居るのよ」

 との事でした。


 母は良くも悪くもおおらかと言うか鈍感と言うか、

「またタヌキさんか」

 くらいの感じであんまり気にして居なかったそうです。

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