第2話 夜通し花火で遊んだ時の話


 県外の専門学校に行っていた時の話です。

 その頃住んでいた所は結構な田舎で、県庁所在地でも、中心部以外は車が無いと生活出来ない様な場所でした。

 季節は夏、田舎故遊ぶ所も無いので、私達は仲のいい友人何人かで、一晩中花火で遊んで朝に帰るという計画を立てました。

 女の子三人、男の子四人くらいだったでしょうか。

 

 場所は、夜は全く人気のない、高台の駐車場。

 何でそんな所に駐車場があるのかというと、高台を降りて道路を渡った所に市民ホールの様な所があって、その為のものです。

 しかし、周りは道路と畑しか無く、背後は山。コンビニも近くには無い辺鄙な施設で、市民からは「前市長が作った負の遺産」と罵られる様な場所だったそうです。

 当然、夜は全く人気がありませんし、だだっ広い駐車場にある車は私たちのものだけでした。


 面倒だったのが、公衆トイレが高台を降りないと無かった事です。

 何せ真っ暗ですが、その為に車を動かすのも面倒なので、私達は遊ぶ前に皆でトイレを済まそうと言う事になりました。

 わいわい喋りながら坂を下ります。歩いて五分程。横は鬱蒼とした林で、真っ暗です。

 その時でした。

「キャーー!!」

 短く、しかし響き渡る様な、女の人の叫び声がしました。

 非常に近い所で聴こえたそれに、女友達がびくりと震えて、泣きそうな顔をします。

 その子はお化け屋敷にも入れない程怖がりで、私は咄嗟に言いました。

「やー、派手にいちゃついてんね?」

 そんな訳ねえ。

 内心思いました。

 とりあえず女友達が笑ってくれました。男の子らも本音かどうかわかりませんが、

「イチャついてんじゃねーよなー」

 みたいに話を合わせてくれます。

 いやいや、そんな訳無い。

 しかし流石に何もしない訳にもいかないので、

「一応なんかあるといけないから、ぐるっと探してみようか」

 という事になりました。

 女の人が怖い目に遭っているかもしれない。

 と、自分に言い聞かせます。


 しかしながら。


 こんな至近距離で聴こえた悲鳴の主が、見えないのはどう考えてもおかしい。

 声の主が鹿だとしても、音が近すぎる。流石に見えるか、足音くらいしそうなものです。

 何より、駐車場にも周囲にも、車が無いのです。自分達が乗ってきた車二台しかありません。無論自転車もありません。

 なんせ、一人一台車を持っているのが当たり前の田舎なのです。

 車が無いと生活出来ない、何処にも行けない、電車は他県に行く為のもので、生活の役に立つ様な路線は殆ど無い。


 車が無いと、ここに来るのは殆ど不可能です。民家すら周囲には無い。見渡す限りの畑の中、小さな市民ホールがあるだけです。


「誰か居ませんかー」

 そんな風に言いながら歩き、周囲に呼びかけてみましたが、案の定、女の人どころか、他に人が居そうな痕跡は何処にもありませんでした。


 私達は苦笑いして、早々にトイレを済ませて、駐車場に戻り、夜通し朝日が出るまで、空元気で遊びました。

 結局朝まで誰も、トイレには行きませんでした。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る