【実話怪談】昔、こんな怖い事があった

縦縞ヨリ

第1話 人身事故の写真を貰った女友達の話

 私が高校生の時の話です。

「来る時電車で人身事故見ちゃった!」

 クラスメイトの男の子がそんな話しを大声でしながら、大変不謹慎な事に、恐らくご遺体の一部が写ったガラケーを見せびらかしていました。

 まだスマホなんて無かった頃で、皆いわゆるパカパカケータイを使っていた頃です。

 私はぞっとして、その話題には一切参加しなかったのですが、女友達が面白がって、その写真を自分のケータイに送って貰っていました。

 当時つるんでいたその子は、ちょっと難ありの性格で、でも愛嬌があって可愛くて、何とかなっている様な子でした。

「あんた、ほんとそういうのやめなよ」

 私は軽蔑を込めてかなり棘のある言い方で窘めましたが、その女友達はまだ所謂厨二病の気が抜けていなくて、「他の女の子が見れない写真を持ってる、ちょっと人とは違う自分」に酔っている痛い子でした。

 ニヤニヤしているのに心底呆れて、その後は口をききませんでした。

 私は霊感なんてものは無いのですが、なんだかその日は、クラスの空気が生温かく、暗いものに感じました。


 夜十時頃、例の女友達からメールが届きました。

「何か怖い、やばい」

 どうしたのかと聞くと、自宅の空気が明らかに違うというか、何か憑いてきてしまったというのが自分でもわかるような状態らしいです。

 とは言えもう夜だし、家はバスと電車で一時間も離れた所です。何ならバスはもう無いでしょう。

「とにかく相手に平謝りして、もう寝な。明日は七時半に学校来て」

 そう送って、とりあえずその日は終わりました。


 朝。私は神棚……生まれが新興宗教の家だったので、一般的な神棚とは違うのですが、とにかく「お願いです守ってください」と手を合わせて学校に行きました。

 女友達は青い顔で待っていました。八時半からホームルームで、部活も活発な学校では無かったから、この時間だと人気は殆どありません。

 外は晴れているのに、学校の空気は恐ろしく暗いです。モヤがかかっているとまでは言いませんが、そういう雰囲気でした。

「どうしよう、やばい、どうしよう」

 普段勝ち気な女友達は、昨晩まだ何かあったのか、見た事無いくらい怯えていました。

 とは言え、私は霊感なんてものは無いですし、除霊なんてものも勿論できないわけです。

 でもやるべき事は何となくわかっていました。

 この不謹慎な友人をとにかく反省させる事です。


 私は怒っていました。自然と口調もキツくなります。

「あんたが人様が亡くなったのを面白がる様な事したから相手が怒ってんだよ、あんた自分が死んじゃった時に周りでクソガキが写真撮って回してたらどう思うよ」

 女友達はビクビクしながら答えました。

「……怒ると思う」

「怒るでしょ?嫌な気持ちになるでしょ?他には?ちゃんと想像しろよ」

「悔しい気持ちになると思う……」

 そうだろうよと思いました。

 亡くなった方にどんな事情があったのか、私達には分かりませんが、お辛かった事は間違いないでしょう。

 その死に様を侮辱して嘲笑う様な真似をして、許される訳がありません。

「我も人なり、彼も人なりだよ。相手は死んでも人間なんだから、あんた心からちゃんと謝んなよ」

 空気は益々ずっしりと重さを含んでいました。そこから感じるのは怒りでした。それは私も、たぶん女友達も感じていました。

「本当にごめんなさい、本当にごめんなさい、許してください」

 多分、やっと反省して、心から出た言葉だったんだと思います。

 私も見えない相手に必死に語りかけました。

「バカな友達で、失礼な事をして本当にごめんなさい。でも、謝るしか出来ないんです。本当にすみません」

「ごめんなさい……!」

 二人で手を合わせて言うと、一気に空気が軽くなりました。

 それはもう、霧が晴れるみたいでした。

 女友達がキョロキョロして、

「明るくなった」

 と言いました。

 もう目に見えるくらい、空間の雰囲気が変わっていました。


 この話はこれで終わりです。

 女友達の性格が劇的に改善された訳でも無いし、写真を撮ってきた男の子はその後もピンピンしています。

 同窓会で会った女友達は離婚したり再婚したり、人並みの人生を送っておりました。

 写真を撮った男の子は子供が三人も居て幸せそうでした。結構な事です。

 実話だもんで、滅多に「ぎゃふん!」とはなりません。

 すっきりしたオチも無いのです。


 ただ、こういう記憶も思い出したら、覚書として書いておこうと思います。


 このお話は割とヘビーな方で、軽いものからあんまり怖くないもの、もうちょっとヘビーなもの、心が温かくなったもの、色々あります。


 チラシ裏に書く程度、箸にも棒にもかからない実話怪談です。

 もうすぐ夏が来ます。

 私が住んでいるあたりも蒸し暑くなってきました。

 この夏のお供に、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。


(六月十四日、他のお話と文体を合わせました)

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