第15話
ジルを簡単に清掃し、トイレのドアを出ると、見慣れた黒い影が書庫のドアに立っていて、ドアが半開きになっているのが見えた。
「カラス男!」
彼も俺に気づき、後退した。
追いかける余裕はない。まずは彼らの状況を確認するだ。
「ジル!あの男は任せた!」
「え?ええーーーー?」
灯りが消されている?書庫は暗く、廊下のかすかな光だけが差し込んでいるので、何も見えない。
「誠?ア――」
ドンッ
誰だ!?
暗闇の中で誰かが俺に抱きついた。廊下の灯りに近づくと、それが誰かがわかった。
「なんだ、アリスか、何があったんだ?誠はどこにいる?」
この時のアリスは、乱れた髪で、ツインテールも片方だけになっており、顔には涙がいっぱいで、首には鮮明な紅い線と恐ろしい縄の痕が残っていた。
アリスは泣きながら、嗚咽しながら言った。
「…誠…誠がアリスを助けてくれた…あの男を地面に倒した…」
俺はアリスの背中をゆっくりと撫でながら言った。
「もう大丈夫だ、ゆっくり話して。」
「それから…それからアリスがあの男に触れて、それで勝った…」
ふう――――どうやら彼らもここで勝利を収めたようだ。それなら良かった。ただ、誠はすでに…。
「それから誠が…誠が…うわあああああああ」
「もう大丈夫だ、誠はすぐに戻ってくるよ。」
俺はアリスを何度も慰めた。気づいた時には、アリスはすでに眠っていた。
俺はアリスの腋の下に腕を通し、背中を支え、もう一方の腕で彼女の膝を抱えて、彼女を部屋に戻そうとした。
「やあ、諒!」
追いかけられたのか?くそ、狡猾なやつめ。
「しっ!君の兄さんはこの部屋にいるはずだから、彼を探しに行って。」
アリスを安全に寝かせてから、書庫に戻ると、そこで何が起こったのかを確認する機会があった。
書庫の灯りはすでに点いており、中にはウルリヒが倒れていて、彼を抱えているジル、敬意を示して立っているティーザ、そしてウルリヒのそばで孤独に倒れている誠がいた。
「誠様、2つのゲームに勝利されたことをお祝いします。」
「この状況では祝うべきではないだろう!」
言い終えると、ティーザがウルリヒと誠を見ている眼差しには憐れみが感じられた。
「…すみません。…状況はどうですか?」
「あなたの時と同じです。しばらくすると、侍者が誠様を客室に連れて行き、すぐに復活します。」
ティーザはすぐに平静を取り戻し、元の様子に戻った。
「ウルリヒはどうなっている?」
「え?」
ティーザも俺がウルリヒのことを聞くとは思わなかったのか、一瞬驚いたようだった。
答えたのはジルだった。
「姉さんが言うには、大したことはない。ただ不適切な感情の揺れがあったため、休息が必要だそうです。」
ジルの額には皺が寄り、眉間に少し集まり、唇をきつく閉じ、口角が軽く下がり、目には濃い後悔の念が浮かんでいた。
「ジル!どうして?」
ジルの様子にティーザは驚いた。彼女もジルの感情を初めて見たのかもしれない。
「姉さん、僕だって成長するんだよ。いつまでも子供扱いしないで。」
ジルはティーザに笑顔を見せた。眉間の皺は依然として消えていなかったが、その笑顔は自然だった。彼らはただの侍者でも、処刑人でも、操り人形でもない。ただの弟が強気の姉に不満を抱えているだけだった。
兄弟姉妹の時間を邪魔せず、俺は同じ姿勢で誠を抱き上げ、客室に運んだ。
出て行こうとしたとき、
「誠様、」
ティーザが俺を呼び止めた。
「うん?」
「ありがとうございます。」
ティーザの声に感情がこもっているのを初めて聞いた。
俺は振り返らなかったが、背後では弟や妹のことを気遣う大姐が、きっと美しい笑顔を浮かべているに違いないと思った。
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「…ここはどこ?」
「客室だよ、やっと目が覚めたか。」
法源寺邸の2階の客室のベッドに横たわる誠に対して、俺は説明した。俺が復活した時、彼らも同じ気持ちだったのだろう。
「そうか…そうだ、僕は死んだんだっけ。くそ、これが死後の復活の感覚か。なんだか奇妙だな。」
「だろ?」
「ははははは」俺たちは目を見合わせ、大笑いした。
「今では僕たちも同じ命運だな。」
「それはそうだな。結局、俺たちはもう一度死ぬだけだ。でもお前もよくやったな。器の破片を口に含んで紐を切るなんて、お前は本当にカッコいいな。」
「いや、それも君のおかげだ。」
ん?
「あの時、君が首を指さなかったのは、首を絞める要点が上から吊り下げられることだと言いたかったんだろ?それで僕はすべての本棚の上に刃物を置いておいたんだ。結局、役に立たなかったが、それでもインスピレーションを提供してくれた。」
ああ、あのことか。
あの時はそうなるとは思わなかった。ただ、万が一役に立てばいいと思っただけだ。
「ただの偶然だよ。」
「うん、それはそうだ。アリスはどうした?」
ベッドの横の小さな椅子に座っているアリスは口を膨らませ、頬を膨らませて怒っている。
「ごめんね、アリス。心配させてしまって。」
誠は恥ずかしそうに頭を撫で、
「違う!違うの!」
「え?」
アリスの顔は赤くなり、誠の隣に駆け寄り、鶏のように彼の顔にキスをした。
「ありがとう…助けてくれて。あと、あと…」
こんなに上手に話せるじゃないか。
「以前の態度が悪かったこと、本当にごめんなさい!」
今度は謝られた誠が顔を真っ赤にして、言葉が結びつかない。
「い、いいよ…俺たち、友達だから…当然のことさ。」
どんなことがあっても、この二人は賑やかだ。
ハンはどう思っているのだろう、俺は今、ここに来て、彼ら二人に会えて本当に幸せだ。きっとこの旅の最大の意義になるかもしれない。
静かになった。騒がしい二人が突然静かになり、真剣な表情をしている。
「諒!」「お兄ちゃん!」
「うん?」
「話がある!!」
「突然?二人とも?」
「ちっとも突然じゃないよ。ずっとお兄ちゃんと誠に隠していたことがあって、今こそ言わなきゃいけないんだ。」
ゲームの理由についてだろうか、それとも仆人たちへの態度についてだろうか。
「僕もだ。過去のことを君たちに話していなかったことがある、今は話そうと思っている。」
「わ!誠はズルい!俺が先に言ったのに!」
「同時だよ!僕だって大きな決心をしたんだ!」
誠の場合、おそらく兄のことだろう。
「じゃあ、まずは俺のことから始めようか。」
彼らが心に秘めていたことを話したいのはわかるが、ハンのことを彼らに伝えるのは危険だ。しかし、「東亜地域」の人々がここに来ないようにする前に、危険をもたらすだけだと彼らに伝えてください。
「え?お兄ちゃんにもアリスに言わないでいたことがあるの?うーーーん。」
アリスの顔がリンゴのように膨らんだ。
「それなら、まず諒の話を聞こうか。僕も知りたいし。」
「おいおい。」
目を細めて笑っている誠の笑顔には、何か不吉な予感が漂っている。
「俺自身のことではないんだが、書庫で恋さんの古い本を見つけたんだ。永新坊に関する民俗の本だった。」
「叔母さん?」
「それなら、僕たちが話したいことも一つのことだね。そう考えると、まずアリスから話を始めるのがいいかもしれない。」
「え?」
誠の笑顔は変わらず、風のように和やかだが、その笑顔の背後には触れてはいけないものがあるような気がする。
「それなら、アリスから話してもらおう。俺たちもアリスが言いたいことを知りたいから。」
「じゃあ、アリスから話すね。」
「…アリスは前に記憶喪失だと言ったけど、実はそれは正確ではないんだ。アリスは少し覚えているんだ。」
アリスは右手を上げて、親指と人差し指で小さな距離を示し、恥ずかしそうに笑った。
「実は、アリスはここにどうやって来たのか覚えていないんだ。」
「でも、アリスは火事が起きたとき、侍者たちがアリスを連れ出してくれたことを覚えている。彼らは母さん、叔母さん、彩衣、太輔、希惠、千栄、克裕を残して、全員を殺したんだ!」
アリスは笑顔を消し、真剣な顔で話を続けた。その声には冷たさと憎しみだけが含まれていた。家族を殺した犯人に対するこの孤独な少女は、復讐以外に自分ができることを見つけられないのかもしれない。
深呼吸を数回し、アリスは話を続けた。
「だから…だから、アリスはゲームに参加して彼らに復讐できると知って、特に参加したくなった。そして、あなたたちを巻き込んでしまった…本当にごめんなさい。」
アリスは椅子から立ち上がり、真剣に土下座をして謝った。
「大丈夫だよ、アリス。見て、僕たちは無事だよ?そうだろ、諒?」
誠はベッドから飛び降り、全身を触ってアリスに完全に回復したことを証明した。
「うん、うん…もちろん。アリス、最初に言っただろう。お前いの招待を受けてゲームに参加したんだ。それは君のせいじゃないよ。」
アリスはついに涙をこらえきれず、大声で泣き始め、嗚咽しながら続けた。
「でも、でも…すべてアリスのせいで…もし、もしアリスが最初に救出されなかったら…あの火事で皆と一緒にいれば…」
「アリス。」
誠はアリスの前に立ち、彼女の肩を支え、彼女の目を見つめながらゆっくりと、真剣に言った。
「そんなことを言っちゃいけない。」
「…誠?」
「そんなことを言っちゃいけないよう。僕たちは生き残って、出会い、友達になれたんだ。それはとても幸運なことなんだ。だから、死にたいなんて言わないでくれ、いいかい?」
「命はとても貴重なものなんだ。生き残った僕たちは、生き続けるだけでなく、僕たちの家族がどれだけ素晴らしい人々で、どれだけ楽しい時間を過ごしていたかを覚えていなければならない。」
「でも、でも…みんながいなくなって…一人は…辛すぎる…」
「だからこそ、生き続けなければならないんだ。自分の生きる意味を見つけるために、新しい人に会い、新しいことに挑戦しなければならないんだ。」
「でも、でも…怖いよ。」
「大丈夫だよ、みんな一緒だ。いつか、遠くまで進んだときに振り返ってみれば、止まったままの人々に向かって、僕たちがどれだけ素晴らしい人生を送ってきたかを自信を持って伝えられるんだ。」
「世界に向かって、僕が生き延びたんだ!僕の命には意味があるんだ!って。」
「ね?」
誠の目には希望が満ち溢れていた。それはただの言葉ではなく、大げさでもない。彼は同じ経験をし、それを乗り越え、希望を取り戻した者だけが持つ目の光だった。
この臆病な誠が村長になり、妖女討伐を呼びかけ、村人のために身を挺して戦う理由は、単なる責任感ではなく、彼の兄に見せたいという思いだったのかもしれない。
誠の目に感化され、アリスも涙を拭いて、彼に笑顔を見せた。
「うん…わかった…アリス、試してみるよ!」
誠は軽くうなずいた。
「それは良かった。」
「それで、誠は何を言いたかったの?」
「それについては…」
その時、部屋のドアが開いた。
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