第20話 学園のある街に到着です。

ノヴァ学園のある街ブランに着いたのは、深夜だった。街に入るのは日が昇ってからということで、近くの平原で一夜を過ごした。この周辺は魔獣除けの結界を張っているらしく、魔獣の姿はない。馬車で眠っていた僕は、空が白み始める、日が昇る前に目が覚めた。ニル村の習慣がまだ、残っているらしい。


周囲を見渡してみると、アルトが大の字になって寝ているのが見えた。伸ばした腕が、オーラさんの顔に当たっており、オーラさんはなんだか寝苦しそうだ。毛布も寝ぼけたアルトに剥ぎ取られたようで、寒そうにしている。


隣で寝ていたウィルは、既に起きているようで窓の外の景色を眺めていた。仄かな明かりに照らさた横顔はなんだか幻想的でとても綺麗だ。普段とはまた違う儚げで、柔らかい雰囲気を纏う微笑みを浮かべている。


「(おはよ、シーくん)」


「(おはよう、ウィル)」


僕が起きた事に気づいたウィルが小声で挨拶してきた。それに倣って僕も小声で返す。


「(窓の外を眺めてたの)」


「(綺麗な景色だよね)」


「(うん。この時間が好きなんだ)」


「(分かる。なんだか、今日が始まるんだなって感じがして好きだよ)」


「(ねぇ、シーくん外出てみない?)」


「(いいね。行こう)」


寝ているアルトやオーラさんを起こさないようにそっと馬車の扉を開ける。朝の澄んだ空気を感じる。平原を渡る爽やかな風を感じながら、身体を伸ばす。


小鳥のさえずり。森のざわめき。何処かから漂ってくるパンの焼ける香り。遠くの山々を、平原を光が包んでいく。星が瞬く黒の景色から陽光が照らす白の景色へと移り変わり、やがて蒼天へと変わっていく。今日は雲一つ無い快晴。静かな夜から賑やかな朝になるまでのほんの僅かな時間。ゆっくりと動き出す世界をウィルと眺める。


「ウィルは朝早いんだね」


「ふへへ。いつもの習慣かな」


「僕もだ。村にいた頃の習慣なんだ」


「ふへへ。シーくんとお揃いかな」


ウィルは嬉しそうに手を繋いでくる。僕も握り返す。僕の手に比べて、小さくて華奢な手だ。でもこの手で人を助け続けているんだ。


「ふへへ。お父さん以外の男の人の手ってこんな感じなんだね。大きくて力強くて、包みこんでくれるような」


「ゴツゴツして、骨張っていると思うよ?それに豆が出来てるし、嫌じゃない?」


幼い頃から剣を振っていた為、僕の手は豆が多い。それに農作業もやってきたから傷も多いのだ。


「ううん。私、この手好きだよ。手に豆が出来るのも、傷だらけになるのも、シーくんが頑張ってきた証だもん」


そう言ってウィルは僕の手に頬擦りする。優しげに微笑むウィルについ、見惚れてしまう。また一つ君を好きになる。


そうしてるとオーラさんが馬車から降りてくる。アルトは朝がとにかく弱いので、まだ夢の中だろう。


「おはよう。シオンくん。ウィルローナさん。いい朝だね」


「おはようございます。オーラさん」


「お、おはようございます」


「ついに着いたね。今日から4日後に受験だ。頑張ってね」


「はい」


「はい」


「アルトはまだ寝てるよ。そろそろ起こしてくるよ。アイツが起きてから街に入るとしよう」


「大丈夫です?暴れません?」


「慣れたものさ。アイツの寝相の悪さはよく知ってるよ。幼い頃からの付き合いなんだから」


オーラさんが苦笑している。昔から振り回されていたらしいからなぁ。そうして、オーラさんはアルトを起こしに行った。


オーラさんが帰ってきたのは30分後。なんだか疲れたようなオーラさんと、そんなオーラさんから気まずそうに目を逸らすアルトがいた。やたら馬車が揺れていたようだが、中で一体何が。













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