幕間 暗躍する者達

「驚いたな。あれが『薄明の魔法使い』、ウィルローナ=ユーグベルトか」


コルトの町の近辺。人気のない場所で男が呟いた。


金色の髪を無造作に後ろで縛った、琥珀色の瞳を持つ男だ。歳は20半ばといったところか。高身長かつ筋肉質であり、無駄な脂肪が一切ない。何かスポーツをしているのではなく、戦闘に従事している者特有の体つきだ。纏っているのは首輪をつけた犬、もしくは狼が描かれている黒を基調としたローブに、これまた黒を基調とした軍服のような服装だ。所々着崩しており、だらしない印象だが、身だしなみを整えれば、美形と言って差し支えないほどの容姿だ。


「スカーレットドラゴンをいとも容易く葬るとは、これで得意な火属性を使用していたら、と考えると恐ろしいですね」


答えたのは男のすぐそばでウィル達を監視している女だった。


氷を思わせる青みがかった銀色のポニーテールに水色の瞳。歳は20前後といったところ。容姿は整っているものの、色素が薄く、無表情なため、人形のような雰囲気を漂わせる。言葉も淡々としており、抑揚もほとんどない。女性としては高身長で、引き締まっているのが分かる体つき。男と同じ服装で黒い軍服に黒いローブをまとっているが、こちらはきっちりと着込んでおり、まさに軍人といった雰囲気である。


「いざとなりゃ、冒険者の振りをして加勢しようかと考えたが、ありゃ次元が違う。ドラゴンの生命力や魔力を奪ったってのか」


「敵対する者は奪い、味方となる者には与える。能力的には非常にシンプルなものですが、故に防ぐ事が困難ですね。一度発動すれば、手がつけられません」


「能力の範囲と持続時間もかなりのものだな。どんだけ広いんだあれ」


「そうですね。目算ではありますが、コルトの町を覆い尽くして周辺の平原まで延びていたことから、半径10kmはあるかと。更に効果時間ですが、これほどの規模の魔法を行使しながら、疲労が蓄積した様子はありません。おそらく、総魔力量と消費魔力量を考えると、あのまま数時間は発動出来たのではないかと」


「恐ろしいねぇ。これが特別戦略魔法士か」


「最年少の12歳で選ばれただけのことはありますね。次点で15歳で選ばれた『氷河』と『地砕』の2人がいますが」


「その二人は『ヤマト』の国の魔法士だからな。こちらでは手出しが難しい。『黒風』を除くと今アルバの特別戦略魔法士はアイツだけだよ」


「『黒風』は任務で遠征中ですし、いざとなれば彼女の力を借りなければなりませんね。しかし」


「何だ?何かあるのかリオン」


リオンと呼ばれた女は考える素振りをすると


「いえ、個人的な感想ですが、彼女は些か、繊細で内向的な性格だと感じまして。魔獣相手ならともかく、人間相手に力を振るえるものでしょうか?」


「あの『蒼天』の子孫に何を心配してんだか、って感じだが、まぁ言いたいことは分かる。確かに精神的に不安定な部分はあるな。まぁそこは隣のあいつに任せりゃいいんじゃねぇか?」


「シオン、と言いましたか。ニル村出身の、転移者の息子ですね。特段珍しい力は有していないようですが?」


「力はまだ中級魔法士を超える程度だがな、あれは別の意味でイカれてるよ」


「と言いますと?」


「あいつは一人の女の為に、ドラゴンに喧嘩売るような奴だぞ。これがマトモな奴だと思うか?後の2人が居なくても、そのまま戦ってただろうよ」


「たった3人であそこまで戦えるのは大したものですね。ただ、命知らずというか無謀というか、潜在能力はありそうですが、その前に早死しそうですが」


「伸び代は大きいな。今の戦いを見て思ったが、戦場の適応能力が高い。このまま成長すれば一角の魔法士にはなれるだろ。ま、命あればの話だが」


「彼が彼女の支えになれるでしょうか?」


「というか、ユーグベルトの娘が寄りかかっているみてぇだがな。ありゃ何だ?恋人か、婚約者か?」


「どちらかでしょうね。正確には不明ですが、あの距離感で何も無いとは考えられません」


「惚れた女の為に戦ったって感じなのかね。まぁいずれにせよ、あのシオンって奴が鍵だろうな」


「では、あの2名を監視対象とします」


「やれやれ、海龍討伐任務が終わったと思ったら、即監視任務って…。こちとら二徹目やぞ。相変わらず主は扱いが雑すぎんだよ…。さっさと風呂入って飯食って寝たいんだが」


「私も、流石にお風呂には入りたいですね。2日も入っていないのは、ちょっと…」


「丸一日探してたからな。…あそこで逃げられなきゃ、そのまま続行出来たのに」


「あ、あれは、アランが、同性の方が安心出来るから話しかけて来いと言ったからでしょう!?アランの責任です!」


「まさか、話しかけただけで空間転移を使うとは思わんだろうが。何だ?冒険者の振りしてたのがバレたのか?」


「それは分かりませんが、元々人付き合いが苦手のようですね」


「まぁいいや。終わったら飯でも食いに行くか。お前はどうする?」


「ご馳走になります」


「お前のそういう所嫌いじゃないわ。変に遠慮するより、そう言ってもらえた方が気を遣わなくて済むからな」


「遠慮なんかしませんよ。私達はバディですからね」


「…親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる?ま、いいけどさ」


「私達の仲にそんなものあるんですか?同棲しているようなものですし、実質夫婦では?」


「…任務途中でお前が盛らなけりゃ、まだ、寝れたんだがな」


「お風呂場に入ってきたアランが悪いです。私は悪くありません」


「…そういうことにしておく。まぁあいつ等2人を学園まで監視した後は、別の奴に引き継ぐだろうよ。その後のことは、主が考えることか」


「そうですね。私達の任務は学園までの監視。その後については指示されていません」


「猟犬は猟犬らしくってな。面倒なんで丸投げしたいんだが」


「そうは行きません。これが、『ハウンド』に下された命令ですから」


二人組の男女、『ハウンド』のアランとリオンは監視対象に目を向ける。シオンとウィルが学園に到着するまで後1日。










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